「問題は食料じゃない。誰が一番偉いかってことを分からすことだ!」。
これは、1998年に公開されたディズニー・ピクサー映画の『バグズ・ライフ』で、悪役のバッタたちのボスであるホッパーが発した台詞だ。ホッパー率いるバッタ軍団は、毎年のようにアリの国の食料を奪って食べていた。しかし、この年はアリの国のトラブルメーカー・フリックが、バッタたちの食料を間違えて全て池の中に捨ててしまった。
それを知ったホッパーは憤り、アリたちに雨季が明けたらもう一度戻ってくると脅す。そして、雨季が明けた後に再びアリの国に行くと、食料を奪うだけではなく、自分たちがアリよりも偉いということを見せつけるために、女王アリを踏み潰そうと考えていた。
またホッパーは、「アリは自分たちよりも弱いから大したことない」と油断する手下たちに、「アリのほうが数が多く、彼らが集団で戦ってきたら勝てない」ということを教えるために、アジトにあった大量の穀物の下敷きにさせた。ホッパーは、手下たちも暴力で支配する恐ろしいバッタだった。
冷酷さと暴力を兼ね備えたホッパー。実はこの映画が公開される約3ヶ月前に、日本でホッパーみたいな暴れん坊外国人投手が、阪神甲子園球場で大事件を起こした。その男の名は、バルビーノ・ガルベス。
1998年7月31日、甲子園球場では巨人対阪神戦が行われていた。巨人先発投手・ガルベスは、序盤から失点を重ねて、度々審判の判定に苛立っていた。そして6回の裏、阪神の先頭打者・坪井智哉を2ストライクと追い込んで投げた4球目が「ボール」と判定された。ガルベスは不服そうな態度を示し、その直後に投げたボールがホームランにされた。
打たれた直後、ガルベスは審判にクレームを言ったが聞いてもらえずに投手交代を告げられた。苛立つガルベスを長嶋茂雄監督が腕を引っ張りながらベンチに連れ帰ろうとしていたが、ガルベスは審判に振り向いて、持っていたボールを審判に投げつけた。
〈審判にボールを投げつけるガルベス(右)と唖然とするダンカン(左)〉
当然審判は激高してガルベスのもとに駆け寄ると、ガルベスも審判のほうに走って殴りかかろうとした。興奮して暴れるガルベスを抑えるために巨人ベンチから大量の選手が出てきた。その中で、吉原孝介はガルベスから肘鉄を食らい、口から出血をするケガを負うなど、巨人のベンチ前は狂気の沙汰となっていた。
翌8月1日。セントラルリーグは、審判にボールを投げつけベンチ前で暴れたガルベスに対し、「1998年シーズン残りの出場停止」、加えて巨人も「無期限出場停止」の処分を下した。
暴れたら手がつけられない凶暴な助っ人・ガルベスだが、その実力は本物だった。メジャーリーグ経験はほとんどなく、台湾で活動していたガルベスは、1996年に巨人にテスト入団した。150キロを越える速球を武器にいきなり16勝を挙げて、最多勝とチームのリーグ優勝に貢献した。翌97年もチームトップの12勝を挙げ、続く98年は前述した事件を起こすまではリーグトップの9勝を挙げるなど、巨人のエースとして大活躍をした。事件後、ガルベスは解雇されず翌99年には巨人初の外国人開幕投手を務めるなど、ガルベスは圧倒的な実力があった。
しかし、2000年は今までの活躍とはうって代わり、開幕から6連敗を喫する。その後も調子が上がらず、日本シリーズ前に退団をした。
ホッパーとガルベス。両者は、暴力的な性格と圧倒的な実力を兼ね備えていたが、終わり方も同じで呆気ないものだった(ホッパーは鳥に食べられた)。その生きざまから察するに、ホッパーとガルベスは1998年に最も輝いた悪役だった。
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