圭司は、掴みかけたチャンスを逃したくなかった。
チャンスは、どんな形であってもそれを現実のものとして生かせるかであって、そのプロセスなんてどうでも良いと考えていた。
夢は見るもんじゃない、叶えるもんだとの根拠のない自信だけはあった。
その為には、どんなことでもやってきた。
先輩カメラマンの無理難題にも笑顔で従って、邪魔なプライドも笑顔の裏に隠し続けて来た。
プライドだけは捨てずに隠し通せる自信があったからだ。
だが、それもこれもチャンスを掴むまでの我慢だと自分自身に言い聞かせてこのチャンスをやっと手に届くところに見えた矢先に・・・・。
思わずアクセルを踏み込んでしまった。
深夜の高速道路は、無機質で単調な光のバトンを送り続けて眠気を誘う。
突然光のバトンが途切れ、明るい洞窟に思わず肝を冷やしブレーキを踏み込んでしまう。
昼間とは逆で、トンネルの中の方が明るいからだ。
前を走る車のテールランプが、瞬きしているかのような錯覚を何度も覚えた。
このまま走り続けることが、正しいのか・・・。
圭司は、幼馴染の雅夫からのメールを頼りに横浜の赤レンガ倉庫に向かっていた。
――大事なひとが待ってる。―――
今までのことが、走馬灯のように頭を駆け巡る。
彼女からの久しぶりの電話は、何も言わず電話の向こうで、すすり泣きした声だけで切れた。
あの時、意地を張らずに直ぐに折り返して電話すべきだった。
圭司は、幼馴染の雅夫に少しの負い目と感謝の気持ちで車を走らせていた。
幼馴染の雅夫からの依頼で、フレンチレストランのカメラマンを引き受けた時のセンセーショナルなまでのアクシデント。
決して、交わらないはずの線と線が結ばれたあの夜。
全ては、そこから始まった。
高速道路の繋ぎ目が単調なリズムを奏でながら圭司に訴えかける。
光の洞窟をくぐり抜ければ、やり直せるはずだ。
光の洞窟は、迷宮の入口なのか、それとも出口か。
いくつもの光の洞窟をくぐり抜けても、そこは闇の世界にしか今の圭司には見えなかった。
あれは、全て幻だったのか、白く陶器のような肌の温もりさえも今はもう記憶の欠片へと壊れてしまった気がする。
まるで造りもののような端正な顔立ちに理想というボディを兼ね備えた女優だった。
あれは、妄想の世界の幻人なのかとさえ圭司は焦りと困惑に包まれていた。
予感が胸を詰まらせる。
圭司は、彼女の本当のこころが知りたかった。
思わせぶりな笑顔と優しさが、圭司を不安へと誘う時が確かにあった。
彼女の心は、いつも掴みどころがない。
それは、身の程知らずだと一歩も二歩も引いてしまったことへの罰なのか。
いつも思わせぶりな彼女の罪を認めてくれるなら、彼女真実の心に触れられるとしたならその罰を甘んじて受けたい。
失いたくない。
圭司は、次の光の洞窟までに答えを探していた。
彼女を失いたくないのか、この掴みかけたチャンスを失いたくないのか・・・。
身分不相応な恋だから男としては、負い目を受けていた。
好奇の目に晒されてもそれは、いずれ優越感の快感へと変貌していったのを覚えている。
しかし・・・。
彼女は、カーテンを勝手にピンクにしてみたり、何日も連絡が取れないことは日常茶飯事だった。
仕事柄それも仕方のない事と、勝手に聞かずに言葉を飲み込んでいた。
携帯電話しか彼女のことは、聞かされていない。
聞くのが怖かった。
詮索することが、悪のようにさえ思えるような笑顔と言う名の圧力に屈して操られていることを選んでしまったのだ。
いや、そうではない。
その選択肢しか与えて貰えなかったのかも知れない。
そういうオーラを身に纏うのが、女優である彼女なのだ。
それは最初から解っていたこと。
我儘を口に出して言わない分、見つめる瞳に色々な表情を持つ特別なひと。
いつも誰かを演じているかのように思わせぶりな小悪魔で演技を続けている。
愛しているという言葉を聞いたことはない。
そんなことは、口に出さなくても朝を迎えた時に身体に残った彼女の余韻で解り合えてたはずだった。
その不安をいつも引きずっていたのは圭司の方だった。
このままじゃ前に進めない。
不安と後悔と掴みそうで掴めない彼女へ真実の心の内が見えない。
焦りだけが心を支配していく気がしておかしくなりそうだった。
次の光の洞窟までに答えを出さなくては、心に決めたのに唇を噛み締めたまま答えが出せないでいる。
高速の出口から赤レンガ倉庫の脇を抜けたら雅夫のレストランだ。
あの夜以降は、雅夫とも会えずにいた。
やましい気持ちも多少はあった。
それは、男同士だからと圭司は自問自答して答えを出しているのに彼女となると答えが出せないでいる。
きっと、彼女から真実が聞きたいと願う気持ちが支配しているからに違いないと納得させるしかなかった。
レストランは、もうとっくに終わっていて店内のテーブル一つにキャンドルの明かりだけで充分だった。
顔から表情を読み取られるのが怖かったのでこの方が都合が良かったと胸を撫で下ろした。
こんなところに雅夫を通じて、呼び出すこと自体が覚悟をしなければならないのだと答えはもう出ている気持ちを掻き消しながらここまで走ってきた。
どんな言葉でも構わない。
本当のことが彼女の口から聞きたかった。
はやる気持ちを押さえつつ、冷静に木製の扉を開けてローソクの明かりへ導かれるままに胸の鼓動は張り裂けそうになる。
雅夫が、奥の厨房からこちらをチラッと見たが、何も声を掛けなかった。
軽く頷くだけで、解り合える幼馴染で、自分のことを一番知ってくれている親友。
入り口から背にしてテーブルに座る彼女のシルエットが、ローソクの陽炎に揺れている。
ここは、明るく気持ちを立て直さないと、嫌われる方が怖かった。
圭司は、三段跳びの要領で、ホップ・ステップ・ジャンプしてテーブルの前にまで回り込んで満面の笑顔で彼女を見下ろした。
その瞬間。
圭司は、そのまま背面飛びをするかのようにのけ反って後ろのテーブルに仰向けになっていた。
――元気だった?――
ショートカットにエクボの笑顔がそこにあった。
――恵子・・・。――
圭司は、思わず胸に輝くダビデの紋章「六芒星」を右手で掴んで言葉を失くして腰が砕けて落ちた。
「つづく・・・。」
※これは、フィクションで、「迷宮のreplicant」や「予感♪」とは無関係の内容になっていますので、ご了承ください。
チャンスは、どんな形であってもそれを現実のものとして生かせるかであって、そのプロセスなんてどうでも良いと考えていた。
夢は見るもんじゃない、叶えるもんだとの根拠のない自信だけはあった。
その為には、どんなことでもやってきた。
先輩カメラマンの無理難題にも笑顔で従って、邪魔なプライドも笑顔の裏に隠し続けて来た。
プライドだけは捨てずに隠し通せる自信があったからだ。
だが、それもこれもチャンスを掴むまでの我慢だと自分自身に言い聞かせてこのチャンスをやっと手に届くところに見えた矢先に・・・・。
思わずアクセルを踏み込んでしまった。
深夜の高速道路は、無機質で単調な光のバトンを送り続けて眠気を誘う。
突然光のバトンが途切れ、明るい洞窟に思わず肝を冷やしブレーキを踏み込んでしまう。
昼間とは逆で、トンネルの中の方が明るいからだ。
前を走る車のテールランプが、瞬きしているかのような錯覚を何度も覚えた。
このまま走り続けることが、正しいのか・・・。
圭司は、幼馴染の雅夫からのメールを頼りに横浜の赤レンガ倉庫に向かっていた。
――大事なひとが待ってる。―――
今までのことが、走馬灯のように頭を駆け巡る。
彼女からの久しぶりの電話は、何も言わず電話の向こうで、すすり泣きした声だけで切れた。
あの時、意地を張らずに直ぐに折り返して電話すべきだった。
圭司は、幼馴染の雅夫に少しの負い目と感謝の気持ちで車を走らせていた。
幼馴染の雅夫からの依頼で、フレンチレストランのカメラマンを引き受けた時のセンセーショナルなまでのアクシデント。
決して、交わらないはずの線と線が結ばれたあの夜。
全ては、そこから始まった。
高速道路の繋ぎ目が単調なリズムを奏でながら圭司に訴えかける。
光の洞窟をくぐり抜ければ、やり直せるはずだ。
光の洞窟は、迷宮の入口なのか、それとも出口か。
いくつもの光の洞窟をくぐり抜けても、そこは闇の世界にしか今の圭司には見えなかった。
あれは、全て幻だったのか、白く陶器のような肌の温もりさえも今はもう記憶の欠片へと壊れてしまった気がする。
まるで造りもののような端正な顔立ちに理想というボディを兼ね備えた女優だった。
あれは、妄想の世界の幻人なのかとさえ圭司は焦りと困惑に包まれていた。
予感が胸を詰まらせる。
圭司は、彼女の本当のこころが知りたかった。
思わせぶりな笑顔と優しさが、圭司を不安へと誘う時が確かにあった。
彼女の心は、いつも掴みどころがない。
それは、身の程知らずだと一歩も二歩も引いてしまったことへの罰なのか。
いつも思わせぶりな彼女の罪を認めてくれるなら、彼女真実の心に触れられるとしたならその罰を甘んじて受けたい。
失いたくない。
圭司は、次の光の洞窟までに答えを探していた。
彼女を失いたくないのか、この掴みかけたチャンスを失いたくないのか・・・。
身分不相応な恋だから男としては、負い目を受けていた。
好奇の目に晒されてもそれは、いずれ優越感の快感へと変貌していったのを覚えている。
しかし・・・。
彼女は、カーテンを勝手にピンクにしてみたり、何日も連絡が取れないことは日常茶飯事だった。
仕事柄それも仕方のない事と、勝手に聞かずに言葉を飲み込んでいた。
携帯電話しか彼女のことは、聞かされていない。
聞くのが怖かった。
詮索することが、悪のようにさえ思えるような笑顔と言う名の圧力に屈して操られていることを選んでしまったのだ。
いや、そうではない。
その選択肢しか与えて貰えなかったのかも知れない。
そういうオーラを身に纏うのが、女優である彼女なのだ。
それは最初から解っていたこと。
我儘を口に出して言わない分、見つめる瞳に色々な表情を持つ特別なひと。
いつも誰かを演じているかのように思わせぶりな小悪魔で演技を続けている。
愛しているという言葉を聞いたことはない。
そんなことは、口に出さなくても朝を迎えた時に身体に残った彼女の余韻で解り合えてたはずだった。
その不安をいつも引きずっていたのは圭司の方だった。
このままじゃ前に進めない。
不安と後悔と掴みそうで掴めない彼女へ真実の心の内が見えない。
焦りだけが心を支配していく気がしておかしくなりそうだった。
次の光の洞窟までに答えを出さなくては、心に決めたのに唇を噛み締めたまま答えが出せないでいる。
高速の出口から赤レンガ倉庫の脇を抜けたら雅夫のレストランだ。
あの夜以降は、雅夫とも会えずにいた。
やましい気持ちも多少はあった。
それは、男同士だからと圭司は自問自答して答えを出しているのに彼女となると答えが出せないでいる。
きっと、彼女から真実が聞きたいと願う気持ちが支配しているからに違いないと納得させるしかなかった。
レストランは、もうとっくに終わっていて店内のテーブル一つにキャンドルの明かりだけで充分だった。
顔から表情を読み取られるのが怖かったのでこの方が都合が良かったと胸を撫で下ろした。
こんなところに雅夫を通じて、呼び出すこと自体が覚悟をしなければならないのだと答えはもう出ている気持ちを掻き消しながらここまで走ってきた。
どんな言葉でも構わない。
本当のことが彼女の口から聞きたかった。
はやる気持ちを押さえつつ、冷静に木製の扉を開けてローソクの明かりへ導かれるままに胸の鼓動は張り裂けそうになる。
雅夫が、奥の厨房からこちらをチラッと見たが、何も声を掛けなかった。
軽く頷くだけで、解り合える幼馴染で、自分のことを一番知ってくれている親友。
入り口から背にしてテーブルに座る彼女のシルエットが、ローソクの陽炎に揺れている。
ここは、明るく気持ちを立て直さないと、嫌われる方が怖かった。
圭司は、三段跳びの要領で、ホップ・ステップ・ジャンプしてテーブルの前にまで回り込んで満面の笑顔で彼女を見下ろした。
その瞬間。
圭司は、そのまま背面飛びをするかのようにのけ反って後ろのテーブルに仰向けになっていた。
――元気だった?――
ショートカットにエクボの笑顔がそこにあった。
――恵子・・・。――
圭司は、思わず胸に輝くダビデの紋章「六芒星」を右手で掴んで言葉を失くして腰が砕けて落ちた。
「つづく・・・。」
※これは、フィクションで、「迷宮のreplicant」や「予感♪」とは無関係の内容になっていますので、ご了承ください。