あれから2年の月日は、圭司にとっても大人の男性として心の成長を遂げる切っ掛けとなった。
あまりにも自分本位で、恵子の心の傷を気付くことも出来ずに荒れた生活を1年余りも送ってしまった。
そんなある日、偶然にも街角で、恵子と雅夫が、仲良く笑い声を上げながら手を繋いで歩いているのを見てしまった。
恵子は、スレンダーな身体のラインを隠すようなワンピースを着ていた。
明らかにそのお腹は、幸せの絶頂を表すことが圭司にも見て取れた。
あの時、あの場面で、いくら後悔しても時計の針は戻らない。
その手を繋いでいたのは、俺だったかも知れないと思うと、今の自分は何だ!
ショーウィンドーに映る無精ひげのさえない男の姿がそこにあった。
昼間から酒を煽り、いつまでも女々しく過去を引きずるその姿は、カメラマンとして勝負を賭けた男のギラギラした野心は微塵もない。
彼女との決別をしていなかったのは、圭司だった。
部屋の写真楯に誇りを被ったままの笑顔の君がまだそこにいた。
圭司は、無性に自分の存在そのものを自己否定したくなった。
いや、否定して欲しいという衝動に駆られていた。
圭司は出直すためには、過去との決別をしなければ、一歩も先には進めない。
それにはずっと前から気付いていたが、どうしていいのかさえも解らずに今日までの日々を悶々として、堕落的な生活を送り自分自身を蔑んできただけ、それが惨めであればあるほどに最低の男の烙印に相応しいとさえ思っていたのだ。
彼女に「最低」とひと言で良いから軽蔑の眼差しで心臓を目指して突き刺して欲しい。
心臓が、バクバクするのが他人にも気づかれるのでないかと思うほどに高鳴っている。
手を繋ぐ雅夫と恵子の間を割って通り抜けなければ、意味がない。
圭司は覚悟を決めて、歩き出した。
二人は、互いに顔を見ながら時折、笑顔の横顔を見せながらゆっくりと歩いてくる。
全く圭司に気付くこともないままに繋いだ手を自然に離して、圭司は何も触れることなく間を通り抜けていた。
3歩ほど歩いて、その場で立ち尽くした。
あれほど愛したはずなのに、親友だったはずなのに2人は何事も無かったかのように手をまた繋ぎ笑顔で歩いて行く。
振り返らない人を見てる 僕にできることはもうない
百年かけてみても消せない 償いきれない傷を与えたようで
結局は、圭司自身が傷を引きずっていただけなのか。
二人の背中からは、幸せのオーラが眩しくて、目を開けていられず空を見上げた。
目尻から流れる涙は、眩しくて仕方なかっただけ。
「それじゃね」と僕から切り出すことを許してくれ。
聴こえないはずなのにどこからか彼女の声が聞こえて「ハッ!」とした。
「それじゃね!」
彼女は一瞬振り向いて唇が「それじゃね」とつぶやくのが見えたような気がした。
きっと気のせいだ、しかし君は間違えずに歩いた 僕から離れたのだから。
君はもう悲しむ事もないし、君は間違えずに歩いた。
僕から離れて、親友の飛鳥を選んだ。
人混みに向かう背中を見送る。
僕にできることはもうないことを、今日は思い起こした。
見えなくなった2人の祝福と自分の新たな一歩に腹の底から叫んでみた。
「それじゃねぇ!」
人混みの奥から、微かに1つに重なった声で。
「それじゃね」とつぶやく声が、返ってきたような気がした。
圭司は、もう振り返ることは無い。
進む道は、決まった。
彼女への思いは、飛鳥雅夫に任せた。
今さらながら遅い!と自らに言い聞かせながらショーウィンドーに映る姿は、先ほどとは別人のように精悍な男の姿を映し出していた。
ダビデの紋章「六芒星」を左手で掴んだまま、そのネックレスを圭司はシャツの胸元に戻した。
「つづく・・・。」
※これは、フィクションで、「You are free♪」とは無関係の内容になっていますので、ご了承ください。
あまりにも自分本位で、恵子の心の傷を気付くことも出来ずに荒れた生活を1年余りも送ってしまった。
そんなある日、偶然にも街角で、恵子と雅夫が、仲良く笑い声を上げながら手を繋いで歩いているのを見てしまった。
恵子は、スレンダーな身体のラインを隠すようなワンピースを着ていた。
明らかにそのお腹は、幸せの絶頂を表すことが圭司にも見て取れた。
あの時、あの場面で、いくら後悔しても時計の針は戻らない。
その手を繋いでいたのは、俺だったかも知れないと思うと、今の自分は何だ!
ショーウィンドーに映る無精ひげのさえない男の姿がそこにあった。
昼間から酒を煽り、いつまでも女々しく過去を引きずるその姿は、カメラマンとして勝負を賭けた男のギラギラした野心は微塵もない。
彼女との決別をしていなかったのは、圭司だった。
部屋の写真楯に誇りを被ったままの笑顔の君がまだそこにいた。
圭司は、無性に自分の存在そのものを自己否定したくなった。
いや、否定して欲しいという衝動に駆られていた。
圭司は出直すためには、過去との決別をしなければ、一歩も先には進めない。
それにはずっと前から気付いていたが、どうしていいのかさえも解らずに今日までの日々を悶々として、堕落的な生活を送り自分自身を蔑んできただけ、それが惨めであればあるほどに最低の男の烙印に相応しいとさえ思っていたのだ。
彼女に「最低」とひと言で良いから軽蔑の眼差しで心臓を目指して突き刺して欲しい。
心臓が、バクバクするのが他人にも気づかれるのでないかと思うほどに高鳴っている。
手を繋ぐ雅夫と恵子の間を割って通り抜けなければ、意味がない。
圭司は覚悟を決めて、歩き出した。
二人は、互いに顔を見ながら時折、笑顔の横顔を見せながらゆっくりと歩いてくる。
全く圭司に気付くこともないままに繋いだ手を自然に離して、圭司は何も触れることなく間を通り抜けていた。
3歩ほど歩いて、その場で立ち尽くした。
あれほど愛したはずなのに、親友だったはずなのに2人は何事も無かったかのように手をまた繋ぎ笑顔で歩いて行く。
振り返らない人を見てる 僕にできることはもうない
百年かけてみても消せない 償いきれない傷を与えたようで
結局は、圭司自身が傷を引きずっていただけなのか。
二人の背中からは、幸せのオーラが眩しくて、目を開けていられず空を見上げた。
目尻から流れる涙は、眩しくて仕方なかっただけ。
「それじゃね」と僕から切り出すことを許してくれ。
聴こえないはずなのにどこからか彼女の声が聞こえて「ハッ!」とした。
「それじゃね!」
彼女は一瞬振り向いて唇が「それじゃね」とつぶやくのが見えたような気がした。
きっと気のせいだ、しかし君は間違えずに歩いた 僕から離れたのだから。
君はもう悲しむ事もないし、君は間違えずに歩いた。
僕から離れて、親友の飛鳥を選んだ。
人混みに向かう背中を見送る。
僕にできることはもうないことを、今日は思い起こした。
見えなくなった2人の祝福と自分の新たな一歩に腹の底から叫んでみた。
「それじゃねぇ!」
人混みの奥から、微かに1つに重なった声で。
「それじゃね」とつぶやく声が、返ってきたような気がした。
圭司は、もう振り返ることは無い。
進む道は、決まった。
彼女への思いは、飛鳥雅夫に任せた。
今さらながら遅い!と自らに言い聞かせながらショーウィンドーに映る姿は、先ほどとは別人のように精悍な男の姿を映し出していた。
ダビデの紋章「六芒星」を左手で掴んだまま、そのネックレスを圭司はシャツの胸元に戻した。
「つづく・・・。」
※これは、フィクションで、「You are free♪」とは無関係の内容になっていますので、ご了承ください。