スリル&ロマン&サスペンス

楽しくなければ人生じゃない!

何てこったい!「ふたりなら」(第8話)フィクション

2014-07-21 11:32:18 | フィクション
圭司は、クローゼットの奥に仕舞い込んだ仕事道具のカメラを引っ張り出していた。

「何やってんだ・・・俺は。」

埃を被った大きな衣装ケース。

勝手に封印したのは、カメラではない。

あのころの自分自身を晒したくなかっただけ。

雅夫にこれでもかと殴られた痛みよりも恵子の心の痛みに気付いてやれなかった後悔。

それを素直になれなかった歪んだPRIDE。

そんな思いを混ぜこぜにして、この衣装ケースにぶち込んで勝手に封印してしまった。

人生から逃げていただけ、その証がここに詰まっている。


圭司だけが、時間が止まっていただけだと思い知った。

女々しく、過去を引き摺っていたのは恵子のためでもなく雅夫のことでもなかった。

自分と向き合うのが怖かっただけなんだ。

一旦は堕落したカメラマンへの夢。

迷いに迷って辿り着いたのは結局のところふりだし、もう恐れるものもない。

カメラマンとして一から出直そう。

衣装ケースの中のカメラと望遠レンズと一緒に色褪せたアルバムが圭司の目に止まった。

色褪せたアルバムを開けることから始めよう。

そこには圭司の姿は無い。

ファインダー越しに被写体へのアングルは全て記憶に残っている。

そして、記憶は容赦なく笑顔とを誘発して今の圭司はそれも心地よく感じていた。

圭司が泣く意味は、悲しいだけじゃない。

溢れる涙は悔しいだけじゃない。

心が熱くなるのを抑えきれず、溢れ出る感情が涙となって溢れているだけ。

アルバムの中の女性は、笑顔のままだった。

目を閉じて、ファインダー越しの景色を脳裏に描いてみる。

微かに鼻孔の奥に薔薇の香りがしたような錯覚を覚える。

圭司は思った。

人の記憶は視覚だけではなく嗅覚をも一緒に思い出の中に閉じ込めてしまうことに気付く。

思わず涙が溢れ出る。

これはいったい何の涙なんだろう。

写真の中の君は、あの日のままの笑顔で何かを伝えようとしている。

その唇が、何かを告げようとしたまま停止しているかのようだ。

遠い約束!

そうだった。

あの時、彼女と交わした約束があった。

あの時、守れなかった遠い約束。

守ろうともしなかったのに約束と言えるのだろうか。

鼻孔の奥に感じた薔薇の香り以外に風を感じた。

このまま目を閉じていたかった。

目を開けて、現実の世界に帰りたくない。

このままあの頃の記憶の中を漂いたいだけなのかも知れない。

圭司は、ふと思った。

いまだに過去と決別できない自分は、このアルバムを持つ資格がない。

過去の世界に逃げ込もうとする自分を許してはいけない。

このアルバムは永遠に見れないように処分しよう。

圭司は色褪せたアルバムをショルダーバックに納めて部屋を飛び出した。





どこに向かおうとしているのか、このアルバムをあの思い出の詰まった港の見えるあのレストランへと導かれるように圭司は思い出の中に浸っていた。

港の見える丘で圭司は再び別れを惜しむかのように色褪せたアルバムをもう一度眺めていた。

白いドレスに長い髪。

まるでこのアルバムから切り取ったような女性の後ろ姿に当時の面影を投影して遠くの女性を眺めて過去の自分を重ね合せて暫く動けなかった。

鼻孔の奥に薔薇のほのかな香りを探しながら、圭司は懐かしい風を感じずにはいられなかった。

どれだけ過去の思い出に浸っていたのだろうか。

目を閉じていると薔薇の香りが、更に鼻孔の奥を刺激する。

風が頬を撫でていく。

頬を撫でているのは、風だけではない彼女の長い髪の毛が頬を撫でているかのように・・・。

その瞬間、温かい感触が閉じている両目を覆う。

「誰~れだぁ~」

あまりにも突然の出来事で、圭司は身を固くした。

これは夢の中なのか。

圭司は、夢の中を迷子になっているのかも知れないとさえ思いながら振り払う事も出来ずにいた。

この感触は、夢ではない。

現実としてもこれはあり得ない。

この時間が、直ぐに終わるのが怖かった。

夢なら覚めないでくれと無抵抗のままの圭司。

その時、あの懐かしい携帯電話のメロディが圭司の耳に聞こえた。

嗅覚だけではなく、肌の感触そして耳にまで聞こええるあのメロディ。

「ずっと待ってたのよ」

その声は、間違いなくあの日のままの君。

あの日、君と出逢ったとき。

ふいに風が どこかを抜けたあの時間。

遠い約束 守れたようだ。

彼女は目に覆っていた手を離そうとした。

圭司は、その手をもう一度押さえていた。

「もうちょっと、このままにして。あの頃の俺に戻りたいから」

時間に少し 遅れたけど。

薔薇の香りに髪が頬を撫でる感触。

そして手の温もり。

懐かしいものが増えつづけては

ふたりのすべてになる。

もう少し、このままで・・・・。

冷たいけど、温かいものが手の中に溢れ出ている。

彼女はそれを感じているのだろう。

肩越しに彼女の涙を頬に感じていた。


ダビデの紋章「六芒星」のネックレスを彼女が握っているのを圭司は感じていた。


 「つづく・・・。」


※これは、フィクションで、「ふたりなら♪」とは無関係の内容になっていますので、ご了承ください。
10話で完結する予定です。

残りあと2回です。

ラストの曲をどうするか・・・。(悩む!)

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