スリル&ロマン&サスペンス

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何てこったい!「HOTEL」(第4話)フィクション

2014-03-12 15:03:26 | フィクション
圭司は、シャワーを頭から浴びて酔いを醒まそうとしていた。

どうやら部屋の造りからして、どこかのホテルのスウィートルームなのかも知れない。

シャーを浴びるときに備え付けられたバスタオルなどにあるマークは高級ホテルのそれと同じだった。

白いバスローブを纏って、そっと部屋に戻った途端に圭司は凍りついた。

彼女が、遮光カーテンを全開にして窓際に全裸で立っている。

窓から眩しすぎる光が差し込み、思わず手の甲で目の辺りを重ねた。

その光に長い髪が亜麻色に輝いて見え眩しすぎる。

黒髪だと思っていた長い髪は、光を受けて亜麻色に変って見えたのと同じく、昨夜の彼女とは別の役柄の女優がそこに居るような錯覚を覚えた。

どう話を切り出せば良いのか、バスローブの腰紐を握り締めながら男としての未熟さを痛感していた。

彼女は、レースのカーテンをクルリと巻き付け悪戯っ子のように赤いマニキュアの親指の爪を噛みながら上目使いに微笑んだ。

――ズキューン!――

これが、映画やドラマのワンシーンならここで、擬音の効果音が鳴るはずだと思った。

ハートを撃ち抜かれた。

  「私もシャワー浴びて来るね。」

モデルだけあってウェストのくびれは、さすがと感心しつつヒップは成熟した女性の桃と言うよりプラムのようだと鑑賞してしまった。

彼女は、少女のように全裸のままバスルームに駆けて行ったが、横切って走ったことで圭司は少女と浮かんだイメージを即座に消し去っていた。

彼女が、トップモデルではなく、女優として名を馳せたのは、この胸のせいかと昔カメラマンになりたての頃、モデルの胸について男の願望とは真逆の体系を求められていることを知った。

そういう意味では、彼女はそのまた逆の裏切りをしていた。

後姿からは想像できないほど、日本人離れしたフォルムを隠さずバスルームに消えた。

こんな時に・・・どうぞって・・一歩下がってしまった。

バカな俺。と圭司は昨夜のことを思い起こそうとしていた。

テーブルの上のワイングラスの・・・・。

―――ない。――

確かにワイングラスに入っていた輝く指輪が無くなっている。

眩しすぎる裸体に目が釘付けになっていたので、彼女の指を見ていなかった。

鏡に映し出されている間抜けな姿を立ち尽くしながら呆然と見ていた圭司は、急に羞恥に見舞われた。

それは、昨夜の記憶のピースがひとつひとつ埋まることでこれからの展開を期待するのと後悔するのと葛藤していたからに他ならない。

圭司は、指輪のことが気になっていた。

いや、違う。

指輪の意味に困惑していたのだ。

女優である彼女のことは良く知っている。

しかし、それは演じる役柄のことでしかない。

本名も知らないし、何故ここで今こうしているのか。

知ってることもある。

この前の記者会見で、人気俳優と婚約したこと。

知らなかったとは言えない程にワイドショーを連日賑わしたのだから言い訳もできない。

自問自答しても答え何て出てこない。

このことが、バレたらどうなるんだろう。

最悪の事態が、頭をよぎる。

週刊誌やワイドショーに追われて、逃げ惑う彼女の姿。

俳優と言えば、どちらかと言うと視聴率男の異名を持つ人気俳優だが、スキャンダルでその座を降ろされるかもしれない。

圭司は、その間男として社会から抹消されるかも知れない。

両方のファンに八つ裂きにされるかも知れないと想像は膨らむばかりだった。

不安を通り越して、恐怖が全身に覆いかぶさり、急に身体が震えてきた。

一夜の過ち・・・。

代償は大きすぎる。


その時、シャワールームのドアが閉まる音がした。

ベッドのシーツにくるまれたまま彼女の方に背を向けてシーツの端を握り締めて固まっている。

ベッドが揺れた。

彼女の温もりを感じたのは、シャワーを浴びたまま濡れた身体を背中に密着させて来たからだった。

ほんのりと熱を持っているのがシーツ越しに温もりと共に彼女の鼓動が伝わって互いの心臓の鼓動が激しくコラボしているような錯覚に陥る。

  「もしかして・・怖いの?」

見透かされたことの方が、怖かった。

彼女の手が横を向いている圭司の肩越しに廻され唇に冷たいものが触れた。

左手の指輪だった。

いつの間にか左手の薬指に指輪を嵌めて、それを唇に押し当ててくる。

このまま口を開けて指輪を飲み込みたい衝動を押さえつつ、その意味も意図することも理解できずにされるがまま微動だにしなかった。

いや、そんなことをできるはずもない。

圭司の脳裏に渦巻くものは、もう不埒なことしか浮かばないまでに混乱して、もうおかしくなりそうで限界まで来ていた。

普通なら隠すものじゃないのか、迷いが見え隠れしているのは圭司だった。

圭司は、向けていた背中を翻して、彼女を力いっぱいに抱きしめた。

背中に感じた手の温もりが淡い痛みに変り、そして徐々に痛みを増してきた。

もうどうなっても構わない、シーツの渦に巻き込まれてアンモナイトのように深く静かな海の中に沈んでいくのを感じながら深い闇の中に溺れていった。





大きなサングラスに派手で大きな帽子から長く伸びた髪の毛先を巻いている。

マイクロミニで颯爽と歩く姿は、道行く人の視線を独り占めしている。

これが、渋谷や六本木でも怪しげなスカウトなら腰が引けるような堂々としたウォーキングだった。

しかし、ここは、繁華街とは程遠い住宅街の一角。

高級マンションでもない、2DKのアパートだ。

似つかわしくない場違いとは、まさにこのことか・・自分も含めて。

手を繋いで歩くことなど、想像もできなかった。

しかし・・・夢の日は、そう長く続かなかった。





圭司は、不釣合いと言われることよりも売名行為とスキャンダラスに書き立てられたことが悔しくて悲しくて、そして情けなかった。

有名女優と視聴率俳優の婚約から僅か1か月での破局。

その原因が、「無名のカメラマンの間男」と報道陣に囲まれて袋叩きにあった。

ワイドショーは、連日のようにアパートに押し寄せて、アパートの奥様連中は、ここぞとばかりにインタビューに備えてお化粧にも余念がない。

アパートの出入り口は、常に防犯カメラよりも厳しく監視能力の高い、音声付のアパートのミセスが監視カメラの役割りと共に広報をも兼ねて、井戸端会議でインタビューの練習にも時間を費やしていた。

彼女は、そんなこともどこ吹く風で、大きなサングラスに大きな帽子で腕を組み歩こうとする。

100メートル先からも目を惹きそうなファッションは、雑誌の表紙で見たことのある彼女そのものだった。

彼女が、CDデビューもしていたが、主役のドラマの主題歌を女優が歌うというお決まりの歌手デビュー。

評判は、賛否両論だった。

それを二人の着信音にしてということを快く受け入れたものの、そのメロディーが流れる度に仕事場や電車内では、失笑と含み笑いと共に視線が突き刺すのを耐えるしかなかった。

売名間男のスキャンダルを否定したかったが事実として仕事が激増した。

時の人になった圭司は、雑誌社やイベント会社から引っ張りだこの状態だった。

カメラマンとして、噂の間男として、撮影希望の女優やモデルが指名してくるのだ。

圭司は、チャンスさえあればと願っていたあの頃を思い出していた。

これが、本当にチャンスと言えるのだろうか・・・。

実力の伴わない人気カメラマン、売名カメラマンの総称は消せない焼印のようになって心にも身体にも傷を作っていた。

それでも仕事にありつけたことで、もう格差カップルとは言わせないとうい意地もあった。

携帯からあのメロディーが流れていた。

ファインダーから視線を時計に移して、もうこんな時間だったかと圭司は、約束の時間をもっと遅らせておけば良かったと後悔したが、仕事なんだからという大義名分もあって、撮影を続けていた。

すっかり、忘れていた。

携帯を見ると、彼女からの着信履歴がスクロールしても続いていた。

留守番電話にもその内容が残されていた。

圭司は、愕然として膝から崩れ落ちた。

これは夢なのか、何が間違っていたのか、圭司は何度も彼女の携帯に電話をしてメールもしたが、何の返信もないまま月日が流れていた。

アパートのミセス達は、哀れな子犬でも見るかのような寂しげで、好奇に満ちた眼で見ては、ヒソヒソ話に花を咲かせている。


もう一度、もう一度でいいからお願いだ。

圭司は、胸に輝くダビデの紋章「六芒星」を握って呟いていた。


「・・・続く。」

※これは、HOTELや恋人はワイン色の歌詞とは関係ないもので、フィクションです。
何てこったい!

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