2021年2月時点で、元「従軍慰安婦」によりこの問題を韓国政府がICJ(国際司法裁判所)へ付託するよう要請が出ている。国際法を勉強している者としてはこの件は大変興味深い。日本政府に対し主権免除の原則を無視して”「従軍慰安婦」に賠償せよ”とした裁判結果が韓国裁判所で確定しているが、人権強行範、法の遡及の可否、主権免除、植民地支配への補償など国際法にても困難でかつこれからの世界の成り立ちに大いにかかわる問題が満載されていて実際のケーススタディとして絶好なので、ぜひ韓国政府によりICJ付託を実施してもらいたいものだ。
ただし、ICJでもし韓国政府が「従軍慰安婦」問題で敗訴したとしても(つまり、日本の主権免除が認められたとしても)、韓国ではそれは”不当判決”ということになり「従軍慰安婦」問題はやはり解決しないと予想する。この場合、ICJで違法とされた韓国国内で確定している日本政府への賠償判決をどう韓国内で法的に処理をするのかが興味深い。
もしICJで日本は敗訴し”主権免除”が認められないときはさらに広範で底の深い問題が出てきて、それこそ世界中の昔の植民地主義を閉じ込めたパンドラの箱が開いてしまう状態となるだろう。欧米諸国の昔の植民地支配を旧植民地国がその国内法で今から裁いて有罪とすれば欧米諸国に賠償させることが国際的に国際法上認められたとのメッセージとなるからだ。
日本による韓国・台湾に対する植民地支配、欧米諸国のアジア・アフリカに対する植民地支配は唾棄すべきものである。これを道徳的に正当化することはできない。ただ、今から旧植民地の国内法でこれを裁いて賠償請求することが世界中で起これば今の世界の体制そのものが危機に瀕することになる。賠償金額はいったいいくらが正当かなどは決めようもない。この引き金をICJが引くとは普通に考えればないと予想される。ICJそのもが欧米優位の世界体制から発していることも主権免除が認められるであろうことの理由である。
韓国の文大統領は
① 「被害者(元「従軍慰安婦」)の納得がいくことが大切である。」(ということはICJ付託を主張している元「従軍慰安婦」の主張どおりICJ付託を行うということだろうか?)
②「2015年の日韓の「従軍慰安婦」合意は2国間の合意として有効」(ICJにて裁判を行えば、当然すでに「従軍慰安婦」については2国間で最終的・不可逆に解決と合意しているではないか?との話になるであろう。)
と言っているとの報道がある。この2つをいったいどう整合するのかなんともわからない。文大統領の任期終了まではこのまま放置するとの意味であれば理解はできる。