木を見て森を想う

断片しか見えない日々の現象を少し掘り下げてみたいと思います。

同調圧力から見るアメリカ大統領選挙

2020-10-26 18:00:00 | 時事

予想以上にトランプ氏の票が伸びた前回のアメリカ大統領選挙

民度の話からいきなりそれますが、前回話題にした同調圧力に絡めて、来月3日に投票日が迫った米国大統領選について考えてみたいと思います。報道ではトランプ大統領の劣勢が伝えられています。しかし、なんとなくその報道を鵜呑みにできないものを感じます。前回の大統領選でも事前の支持率の報道と実際の得票数はかなりかけ離れていて、その要因が様々なメディアでその要因が分析されていたように記憶しています。私の考えではトランプ氏の支持率が実際の投票行動より低くなる社会背景は全く変わっておらず、同様のことが起こると予想しています。

支持率調査と実際の投票行動では何が違うのでしょうか。Chinaや北朝鮮やロシアでは知りませんが(一般人による投票があるのかすらわかりませんが)、普通の先進国では投票は完全に匿名性が保証されます。一方で支持率調査はどうでしょうか。アメリカの支持率調査がどのようになされているかは知りません。日本では自宅の電話にマスコミを名乗る人から政治思想に関わる調査を受けます。そこに匿名性の保証はありません。もちろん誰を支持しようが、何党を支持しようが、いわゆる先進国では思想信条の自由が保障されています。本来であれば支持率調査と投票行動との間に乖離はないはずです。それでは何がこのような乖離をうむのでしょうか。私はここに同調圧力を強く感じます。

ポリコレは同調圧力

前に同調圧力として危険視すべきものにポリティカルコレクトネスを挙げました。いわゆる差別用語やヘイトに通じる言葉は排しようという運動です。もちろん身体的な性質や血統など、自分でどうしようもないことについて、侮蔑的に表現する言葉は下品ですし、排すべきだと思います。しかしある特定の思想の押しつけを感じさせるポリコレも少なくありません。

私はとある小さな大学で教員をしています。自分の研究テーマや学生の教育に大きなやりがいと喜びを感じていますし、このような仕事の環境を与えてくれる大学には感謝しかありません。ですので今のこの職を失いたくありません。

テレビによく出演されているような無敵の大学教授しかご存じない方々には意外に思われるかもしれませんが、普通の大学教員というのは教育および研究能力に関する評価をとても気にして生きています。社会貢献についても評価される大学も多く、社会的評判もすごく気にします。教育・研究能力がないと評価されるとだんだん大学に居場所がなくなっていきます。それは当然のことなので、私たちは一所懸命教育研究に取り組みます。社会的評判も然りで、ハラスメント常習者や差別主義者と思われることは致命的です。どこに地雷があるかわからない今の時代、できれば政治的に目立ちたくないのです。

私はポリコレには賛同しませんが、ポリコレを求められれば、自分の主張と違っていても従います。ポリコレに従わない理由をうまく説明できず、あるいは理解してもらえず、差別主義者という烙印を押されることを恐れるからです。ポリコレに関する強い同調圧力に屈しています。

トランプ支持はポリコレに反する?

トランプ氏の支持者についても同様のようなことが言えるように思います。トランプ氏は常識にとらわれない、ポリコレをものともしない破天荒な言動でしばしば人々を驚愕させます。そのためトランプ氏に対して「差別主義者」とのレッテルが貼られることも多いです。しかし実際には、トランプ氏は不法移民を取り締まったり、暴動に対して強硬な姿勢で臨んだり、いわゆるリベラルな姿勢とは程遠いものの、トランプ氏自身の差別を是認するような発言は見当たりません。

トランプ氏が差別主義者であるという明白は証拠がないにもかかわらず、多くのマスコミ(NHKを始めとして日本のそれも含む)は、トランプ氏を差別主義に凝り固まり合理的な判断ができない人物と印象付けようとしているように見えます。したがって、アメリカにおいて(多分日本でも)トランプ氏を支持表明することは、一種ポリコレに反するような空気があると推察します。

社会的評価を気にするとトランプ氏支持と表明できない?

実際に報道などでトランプ支持を表明しているのは教育レベルや収入レベルがあまり高そうではない人々、保守的で差別主義に凝り固まっているように見える白人(男性)がほとんどのように見えます。すごく失礼な物言いですが、社会的な評価をあまり気にしなくてもよさそうな人が多いという印象です。

なぜ社会的な評価を気にする人はトランプ氏支持を表明しないのでしょうか。マスコミ等によって行われる支持率調査の匿名性が保証されることに対する危惧があるのではないでしょうか。自宅の電話番号から個人を割り出すことはマスコミなら簡単にできるでしょう。そして多くのマスコミがトランプ氏イコール差別主義者という報道姿勢を鮮明にしている中、社会的評判を気にする人々がトランプ氏支持を表明するのは大きなリスクを伴うと思います。差別主義者とレッテルをはられる人物を支持するという情報が漏れて、自分も差別主義者の烙印を押されかねないというリスクです。マスコミ等に示される支持率よりも得票が多かった理由はこのようなところにあると考えています。

これと同じ現象が昨年のイギリスのEU脱退の国民投票でした。EU脱退に賛成なのは高齢者と低所得者とされており、脱退支持は劣勢だったように思います。しかしふたを開けると脱退派の勝利でした。EU脱退と移民難民問題を絡めて議論されることも多く、ポリコレ的にはEU残留が正しかったのでしょう。ポリコレを気にしなければならない人々には、たとえ脱退支持でもそうと表明しにくい空気があったのでしょう。社会的評判を気にしなくてもよい高齢者や低所得者に賛成表明が多かった理由が見えてきます。

同調圧力が隠すトランプ氏支持

上記のように考えるとトランプ氏はマスコミの予想よりはるかに多くの得票を得ると予想できます。一部が暴徒化した黒人デモに対応して、治安の強化を訴えるトランプ氏の断固とした姿勢も、サイレントマジョリティーからの支持を取り付ける結果になるのではないかとも推察します。選挙結果は投票箱を開けてみなければわかりませんが、同調圧力に隠された隠れトランプ氏支持がどの程度あるのが楽しみです。

最後にトランプ大統領に対する日本のマスコミのあげつらい方は目に余るものがあります。個別の政策や政策の一貫性、戦略等については批判すべきは批判すべきでしょう。ただアメリカという国および民主主義への敬意があるならば、アメリカの国民によって支持された大統領に対する最低限の礼儀をわきまえることこそが私たちが心しなければならないことだと思います。知識人ならば、良心的ジャーナリストならば、トランプ氏の知性や人間性を揶揄してなんぼ、という風潮に何とも言えない違和感を覚えます。