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落語「そそっかしい人」(雷門助六の枕)

2017-02-04 | 落語

 ええ、お笑いを申し上げます。

 顔かたちが違うにつけまして、みな、お心持というものが違いますようでございます。

 大変、この、忘れるという、ものを忘れるそそっかしい方がよくございますように、自分がかけている眼鏡を探してみたり、マスクの上から煙草を吸ってみたり、人の名前を忘れる、これはまあ、我々でもございますが、中には甚だしい方がいらっしゃいますようで・・・。

 ああ、向こうから来る人、どっかであったことがある人だね、あの人は。どっかで見た顔だよ、あの顔は。どこの人だっけな?ああ、こっち見て笑ってやがる。やっぱり知ってる人だよ。えっ!知ってる人だったら、そばへ来りゃ、何とか言わなくちゃならねえんだけど。いやだよ、そばへ来るよ。冗談じゃねえな。弱っちゃったね、こりゃ。ええっと、どこの人だったかな?どっかで見た顔だけど・・・!

 「ええ、どうも!ご無沙汰いたしまして!ちっともお目にかかりませんが、このごろはどっかへお出かけになり・・・えっ、ああ、さようですか。わたくし、そそっかしいもんで、つい、おみそれをいたしまして。どっかでお目にかかったと思うんでございますが、どちらの方でございましょうか?」

 「馬鹿野郎!おれはお前の親父だ」

 ひどい方があるものです。

《八代目雷門助六「長短」の枕》


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