リヤド飛行場を出てホテルに着いたのは午前4時を過ぎていた。日本はすでに午前10時過ぎである。広い部屋に大きなベッドが一つ。サルタンさんはこの殺風景な部屋に私を置いて自宅へ帰っていった。一人になった私はやっとの思いでシャワーを浴び、荷物を整理する元気もなくベッドの横になった。しかし飛行場での数々の出来事が頭によみがえり、寝ようにも寝られない。ここで酒でも飲んで寝たいところであるが、イスラム社会には酒は一滴もない。仕方なく冷蔵庫にあったペットボトルの水を飲み、また横になる。
ベッドでうとうとしていると8時頃に笑みを浮かべたサルタンさんが現れた。青いローブを着、白地に赤の柄が入った頭巾をかぶっている。朝ごはんを食べようというのである。誘われるがまま外に出ると快晴である。気温は高いのだが、朝の柔らかい日であり、乾燥しているので快適である。町全体がベージュ色で埃っぽい。
サルタンさんの車に乗り10分、レストランに到着した。全面ガラス張りのお洒落な建物である。店の名はアラビア語で書いてあるので分からない。
リヤドのお洒落なレストラン。
朝9時であるが、レストランは混雑していた。案内されるまで外でかなり待たされた。サウジアラビアでは朝食を9時-10時に摂るらしい。やっと案内され中に入ると、黒いローブ、黒い頭巾の、年齢は20代、30代あたりの女性で混みあっていた。女子会なのだろうか、話すのに必死の様子である。亭主の悪口でも言っているのだろう。
サウジアラビアはイスラム教の発祥地であり、イスラム諸国の中でも戒律順守の風潮が強い。女性はイスラム教の経典コーランにおける神の教えに従い、ヒジャーブと呼ばれるスカーフを着けなければならない。数年前に服装の規制は撤廃されたが、ここの女性は全員黒い衣装を着ている。
テーブルに座ると、茶色の制服を着た若いウェイターがやって来て、まずお茶を出してくれた。サルタンさんはにこりともせず、むしろ怒っているのかのような顔で長々とオーダーをする。私には絶対にしない顔である。ウェイターは中腰になりながらメモを取っている。サルタンさんはきっと上層階級で、二人の間には階層の違いがあるのだろうと感じた。ウェイターが下がるとサルタンさんはガラッと態度を変え、満面の笑みを浮かべて私に向き直る。
しばらくしてタミーズと呼ばれるパン、野菜料理、肉料理が次々と運ばれてきた。野菜は国内でたくさん生産されているという。砂漠で育ったのだろうか、味が濃く美味しい。肉料理も美味しい。空港での私に対する扱いには憤慨したが、この食事で帳消しにしよう。
サルタンさんは以前会った時と同様饒舌である。料理、家族、取り留めもなくしゃべる。しかし仕事のことは話さない。私は仕事のこと抜きで食事ができたことに満足した。
レストランでの朝食。
二人では食べきれなかった。サルタンさんはウェイターに残った料理のテイクアウトを頼み、クレジットカードを渡した。そしてウェイターから私に向き直って言う。これからダンマームへ行く、と。ダンマーム?初めて聞く名である。行く目的も聞かされていない。リヤドでの緑化計画の話はどうなっているのか。しかしサルタンさんに従うしか選択肢はなかった。自分はサルタンさんの人身御供になっていることに気が付いた。社会階層でいうと研究者は中産階級である。多分サルタンさんは意識もせず、私を下の階級の人間と見ているのだろう。
(つづく)
ベッドでうとうとしていると8時頃に笑みを浮かべたサルタンさんが現れた。青いローブを着、白地に赤の柄が入った頭巾をかぶっている。朝ごはんを食べようというのである。誘われるがまま外に出ると快晴である。気温は高いのだが、朝の柔らかい日であり、乾燥しているので快適である。町全体がベージュ色で埃っぽい。
サルタンさんの車に乗り10分、レストランに到着した。全面ガラス張りのお洒落な建物である。店の名はアラビア語で書いてあるので分からない。
リヤドのお洒落なレストラン。
朝9時であるが、レストランは混雑していた。案内されるまで外でかなり待たされた。サウジアラビアでは朝食を9時-10時に摂るらしい。やっと案内され中に入ると、黒いローブ、黒い頭巾の、年齢は20代、30代あたりの女性で混みあっていた。女子会なのだろうか、話すのに必死の様子である。亭主の悪口でも言っているのだろう。
サウジアラビアはイスラム教の発祥地であり、イスラム諸国の中でも戒律順守の風潮が強い。女性はイスラム教の経典コーランにおける神の教えに従い、ヒジャーブと呼ばれるスカーフを着けなければならない。数年前に服装の規制は撤廃されたが、ここの女性は全員黒い衣装を着ている。
テーブルに座ると、茶色の制服を着た若いウェイターがやって来て、まずお茶を出してくれた。サルタンさんはにこりともせず、むしろ怒っているのかのような顔で長々とオーダーをする。私には絶対にしない顔である。ウェイターは中腰になりながらメモを取っている。サルタンさんはきっと上層階級で、二人の間には階層の違いがあるのだろうと感じた。ウェイターが下がるとサルタンさんはガラッと態度を変え、満面の笑みを浮かべて私に向き直る。
しばらくしてタミーズと呼ばれるパン、野菜料理、肉料理が次々と運ばれてきた。野菜は国内でたくさん生産されているという。砂漠で育ったのだろうか、味が濃く美味しい。肉料理も美味しい。空港での私に対する扱いには憤慨したが、この食事で帳消しにしよう。
サルタンさんは以前会った時と同様饒舌である。料理、家族、取り留めもなくしゃべる。しかし仕事のことは話さない。私は仕事のこと抜きで食事ができたことに満足した。
レストランでの朝食。
二人では食べきれなかった。サルタンさんはウェイターに残った料理のテイクアウトを頼み、クレジットカードを渡した。そしてウェイターから私に向き直って言う。これからダンマームへ行く、と。ダンマーム?初めて聞く名である。行く目的も聞かされていない。リヤドでの緑化計画の話はどうなっているのか。しかしサルタンさんに従うしか選択肢はなかった。自分はサルタンさんの人身御供になっていることに気が付いた。社会階層でいうと研究者は中産階級である。多分サルタンさんは意識もせず、私を下の階級の人間と見ているのだろう。
(つづく)
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