陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「The Fifth Wheel」 Act. 2

2006-09-10 | 感想・二次創作──魔法少女リリカルなのは

はやては二人のおちょこに強引に冷や燗を注ぎこんだ。
口から溢れ出た酒が指先を伝い、太ももに滴りおちても、シグナムは不動の姿勢で杯をいただいていた。おなじように注がれたヴァイスも、おちょこから溢れんばかりを眺めて、思わず口を付けたくなったが、シグナムの威嚇する目線が恐くて喉の奥をぐうと鳴らせた。

「はーい。ほな、ふたりも乾杯な」

言うなり、はやては二人の手首を握って、むりやりにおちょこの口をかちあわせた。
シグナムは惜しむ様子もなく、両手で丁重に捧げもった盃を一気に飲み干した。ヴァイスはそれに続いて、男らしくぐい飲み…しようとしたが、

「祝言の盃やなぁ、めでたし、めでたし」

という声を耳にして、思わず勢いよく吹き出した。アルコールの霧が吹いて、足もと近くの芝草が艶つやにかがやいている。

「は、はやてさん、今なんてぇッ…?!」
「主はやて。今日は冗談も絶好調ですね。深酒が過ぎたのではありませぬか?」
「そやろ、やっぱ、気分がいいもんや」

主と騎士がなかよく戯言めいている横で、ヴァイスはわずかでも興奮して反応してしまった自分が馬鹿をみたのだとほぞを噛んでいた。

「主も一献」と、自分の空にしたおちょこを差し出して、シグナムが盃を返した。
湯呑み茶碗を左右の手で直角に添える、あの儀式ばった持ち方で受けたはやては、それをうまそうに口にした。二人の主従はそのやりとりを二度くり返したが、どちらも手つきが作法のようにうつくしく整っている。こんなしぐさの応酬のなかに、はやてとシグナムの間にある解きがたい絆を感じて、ヴァイスはまいったなぁという顔つきをしていた。

「シグナムはあいかわらず、えぇ飲みっぷりやな」
「恐れ入ります」
「な、惚れてまうやろ?」
「は、はぁ、そっすね」

はやてに促されて、萎縮した返事をする男をシグナムはちらりと睨んだ。
思うところありで熱のあるまなざしを送ったのだが、眉ひとつ下がらずに目の光りだけが鋭くなるシグナムのそれは相手には威嚇としか思えない。八神はやて以外には。



【目次】魔法少女リリカルなのは二次創作小説「Fの必要」シリーズ






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