一風変わったアート映画をご紹介しましょう。
1999年のスペイン・フランス映画「裸のマハ」は、スペインが生んだ巨匠フランシス・ゴヤの描いた連作「着衣のマハ」「裸のマハ」にまつわる殺人劇を描いたサスペンス。タイトルからアダルトビデオみたいに思われますが、いちおう史劇です。官能的なシーンはありますけど、思ったほどいやらしい感じがしません。
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王妃マリア・ルイーさが全権を握っていた1802年の輝けるスペイン。
社交界の花形として王妃に並ぶ権勢を誇るカイエターナ・アルバ公爵夫人の邸で、彼女主催の晩餐が供される。その翌日、カイエターナが急死。
死因が不審なことから、カイエターナの遺産相続人たる夫や、世話係のメイド、侍医らが審問に付される。寝室に残されたグラスに猛毒の絵の具が付着しているのを発見した宮廷画家ゴヤは、カイエターナが自殺を図ったのではないかと見るが…。
時系列が入り組んでいて、過去にさかのぼって人物の愛憎関係を細切れに描写するかたちになっているので、筋書きが追いにくくはありますね。カイエターナは宰相マヌエル・デ・ゴドイの愛人でありながらも、ゴヤとも深い仲になっていました。
ゴドイはゴヤの憶測を退け、皇太子の仕業ではないかと怪しむのですが。ゴヤが描いた傑作「裸のマハ」を中心として、カイエターナ、ゴドイの正妻であるチンチョン伯爵夫人、ゴドイが拾って寵愛しているジプシー出の美しい情婦ペピータら、女の情念がうずまく複雑な人間関係が浮きあがってきます。
史実の有名人を謎解き役にしたミステリーというには、やや真相の組み込み方が中途半端。
ゴヤの「裸のマハ」にまつわるスキャンダル──裸婦像では、皺やヘアなどを描かないという当時の古典絵画の禁則を破ってしまった。そのためゴヤは異端審問にかけられ、のちにスペインを追われることになる──を知っていなければ、「フランスの流行」とつぶやくシーンの意味あいが分からないでしょう。歴史好き、アート通好みの映画といえますね。
監督はピガス・ルナ。
出演はアイタナ・サンチェス・ギヨン、「オール・アバウト・マイ・マザー」のペネロペ・クルス、「カラヴァッジオ」のジョルディ・モリャ、ホルヘ・ベルゴリア。
ゴヤが出てくる映画ならば、「宮廷画家ゴヤは見た」のほうが好みですね。本作のゴヤは、いささかハンサムすぎてなじめないです。でも公爵夫人との関係は事実らしいので、この役者に似て美男子だったのでしょうか。
(2011年5月1日)
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