陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「血と骨」

2011-06-15 | 映画──社会派・青春・恋愛
かつて、これほど、血も涙もない極悪な父親を、邦画で観たことがありませんでした。本日の映画は2004年作の「血と骨」

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1920年代、多くの朝鮮人同胞とともに海を渡ってきた男、金俊平。終戦後、彼は大阪の下町の長屋の一角に、蒲鉾工場を構えます。
業つくばりの俊平は、劣悪な労働条件で従業員や、まだ幼い長男長女ふくめた家族までを酷使しています。妻の李英妃は夫からの暴力や暴言にもひたすら耐え忍ぶ日々。
ある日、俊平の息子だと名乗る風来坊の青年、朴武とその愛人が金一家に転がり込んできます。金を無心するとはいえ武は、誰一人ととして頭の上がらない俊平に対等にもの申すことのできた人物。しかし、武が家を出てしまったことから、ふたたび家族は地獄の底に突き落とされてしまいます。

蒲鉾工場が経営難に陥ると、俊平は資金を元手に高利貸しをはじめます。妻とは別居状態で愛人と同棲。やがて成人した長男の正雄は苦労をかけた父親に反発、激しく対立していきます。そのいっぽう、父親の影から逃れたい一心で好きでもない男と結婚した長女の花子にも、母と同じ不幸に見舞われてしまいます。

傲慢ぶりでお金に汚く、誰も信じない俊平の生き方に、彼に関わった人びとの運命がことごとく狂わされていってしまう。ここに書き尽くせないぐらい惨たらしい日常の連続ですが、しかし、この主人公がそれほど憎々しく思えないのは、暴力をふるう彼の底に潜む一人になることへの恐怖心が、家族の死をきっかけにして見えてくるからでしょう。
本妻やその子どもたちには微塵も愛情をかけないのに、年若い愛人に寄せる優しさ。相手が美人で慎ましやかであったというより、日本女性といっしょになり、日本社会に溶け込もうとした在日朝鮮人としての俊平の切望がそこに表れているのかも。さらに、次の愛人とは三人もの子をなすことで、俊平は家族の絆を歪んだまま広げようとしています。
自分の思いどおりにならないと、暴力で憂さ晴らしをする男。周囲にとっては傍迷惑なタイプですが、野性的で、そして感情表現が不器用ともいえます。

晩年には自分が虐げた家族にそっぽを向かれ、あれほど欲望のほとばしった肉体も衰え、極寒の祖国で最期を迎えてしまう。一代で財を築いた男のエネルギー、そして不幸に陥れた被害者たちからしてみれば、当然の寂しい終わりです。

家庭内暴力、児童虐待、高額借金の返済、暴力団など現在でも尽きない社会問題をこれでもかとばかりに孕んでいますが、第二次大戦中の朝鮮人学徒出陣や、朝鮮戦争、政治運動などを、これまでの邦画では描かない視点から切り取っていて興味深くはありますね。石原裕次郎あたりが主演した青春映画のような高度経済成長期の華やかさに埋もれた、日本史がここにはあるのです。
ただし暴力描写がかなり過激ですので、あまり市民権を得られる作品ではないかと思われます。R-15指定ですが、十八禁レベルの危うさに満ち満ちています。

主演のビートたけしは、うってつけ。
短い台詞回しで啖呵を切っていくヤクザ者の壮年期から、虚勢の皮が剥がれて老いさらばえながらも意地汚く生きていく老年期まで、実にうまく演じています。ふだんの滑稽な喋りが嘘のよう。しかし、妻役の鈴木京香をはじめとする女性の体当たり芝居(邦画で濡れ場を演じると一流と認められるという評価はあまり好きではありませんが)や、オダギリジョー、北村一輝などの存在感が生きていますね。伊藤淳史の用い方がいいですね。

監督は「クイール」の崔洋一(さいよういち)
原作は梁石日のベストセラー小説。

(2010年6月26日)

血と骨(2004) - goo 映画



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