アメリカ国防総省は今年10月11日、「Fiscal 2005 Enlisted Recruiting from Oct. 1, 2004 - September 30, 2005」と題する2005年度(04年10月~05年9月)の新兵募集の結果を公表した。
それによると、海軍、空軍、海兵隊はそれぞれ目標を達成したが、陸軍のみ正規兵、州兵、予備役合わせて2万4035人、割合にして15%目標を下回った。
こんな事態はアメリカ陸軍始まって以来のことである。(詳細は以下の通りである。陸軍正規兵:目標8万人、実績7万3373人。陸軍州兵:目標6万3002人、実績5万0219人。陸軍予備役:目標2万8485人、実績2万3859人)
なぜこのような事態に至ったのか、以下はその報告である。
■「9・11から4年」アメリカに勝利はあるか?~募る新兵不足の危機~
メキシコから移民したアメリカ海兵隊員、ユシス・ソアレス・デル・ソラー上等兵が死亡したのは開戦から1週間後のことだった。20歳になったばかりの若者は、イラク戦争が始まって52人目の犠牲者だった。国防総省は敵の銃弾に当たって戦死と発表したが、のちに味方が発射したクラスター爆弾の不発弾を踏んで爆死した、と訂正した。
「ブッシュ大統領の開戦理由は全てウソでした。しかし戦死した若者たちはテロは差し迫った脅威だと信じ込まされていた。だから戦争をする理由があると信じていたんです」
『イラクの自由作戦の英雄』と刻まれた墓石の前で、父親のフェルナンドさんは息子の死をそう語り、息子の死をきっかけに、子供をイラクで殺された貧しいヒスパニック系の家族に送金する運動や、子供たちを軍隊に送らない活動を始めた。ウソを承知で戦争を続けるブッシュ政権に対する怒りがそうさせたのだった。
これまで、この戦争で死亡した海兵隊員を人種別にみると、白人が76%、次いでユシスさんのようなヒスパニック系が15%、アフリカ系黒人5%と続く。陸軍も同じような傾向にある。死亡年齢でいえば21歳以下が最も多い。
低年齢層での死者が多いのは、例えば海兵隊の場合、18歳から20歳までの若い兵士が全体の78%(2001年)を占めるなど、軍そのものが若年層で成り立っているからである。軍隊というものは若者の出入りが激しく、新陳代謝の激しい組織なのだ。
また黒人やヒスパニック系社会で、17~8歳の若者たちが入隊を希望する最も大きな理由は、大学に行きたくても行けないという貧しい環境がある。だから、学費は全部面倒見る、戦場に行きたくなければ別の軍務もある、仕事だって見つけてやる、外国にも行ける・・・。入隊を勧誘する募集担当者のこういった巧みな言葉が、夢を追う若者たちの心をずっと惹きつけてきたのだった。
だが、イラク戦争の泥沼化は、このような若者たちの軍隊離れを引き起こしていた。こんな事態は、アメリカの軍隊では初めてのことだった。イラク派遣の中核部隊となっている陸軍を例にとれば、今年度(去年10月~今年9月)の新兵採用目標は8万人だったが、今年に入ってからは月間目標も下回る有様で、達成率は7月現在で85%に留まったままである。
なぜこのような危機を招いたのか、その理由はいたって簡単だ。全米で毎日どこかの地方紙が『わが故郷出身の××兵士が路肩に仕掛けられた爆発物で殺されました』というニュースを報じたり、ときには手足を失った兵士の映像が流されれば、誰だってためらう。それに加えて、日々高まる反戦世論が若者たちを躊躇させているからだ。
「テロと戦う、といって軍隊をイラクに投入したことは間違っている」
息子を失ったフェルナンドさんは、これまで全米67都市の高等学校を訪ねながら、そう訴えてきた。
「テロとの戦いは軍事力で解決するのではなく、イスラムとは何かを理解し、尊敬と寛容の精神で解決していくことなのだ・・・」
だが、いまの国防総省はまず〈力〉から考える。ブッシュ政権が2001年に成立させた〈落ちこぼれゼロ法〉という法律がある。この法律の中にある要の一章。
〔各高校では、軍の新兵募集担当に生徒の個人情報を渡すこと。拒否すれば、州からの助成金が打ち切られる〕
生徒の個人情報には住所・氏名のほか家庭環境や親の職業、年収から市民権の有無、携帯電話番号までもが含まれる。募集係はこの情報と言葉を武器に、貧しい地域の貧しい家庭を次々に訪ね歩く。こうして2004年度には19万人の新兵を獲得してきた。
しかし、2005年度の募集予測に危機感を募らせた国防総省は、陸軍に対して成績不良の生徒や薬物、犯罪歴のある生徒にまで枠を広げるなど、「質よりも量」作戦を促したという。それでも結果は85%なのである。
新兵募集の危機は、裏を返せば軍隊の老化を意味する。イラク戦争に突入したアメリカは、いま自らが招いた戦争に怯え始めたのだ。
これは、ベトナムの二の舞なのではないか、と。(9月27日『琉球新報』掲載)
今年9月、3回にわたって地方紙に掲載した記事を再録しました。だが、状況はさらに深刻になっているようです。例えば派遣命令を拒否した兵士や脱走した兵士は、すでに1万人にもなろうとしています。アメリカにベトナム戦争以来の危機をもたらそうとしている〈テロとの戦争〉、次回はその実態を報告します。
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