Harumichi Yuasa's Blog

明治大学専門職大学院ガバナンス研究科(公共政策大学院)教授・湯淺墾道のウェブサイトです

神奈川県における緊急財政対策に対する中間意見(案)雑感

2012年07月19日 | 自治体
以前から報じられていたが、昨日、第3回神奈川県緊急財政対策本部調査会が開催され、「神奈川県における緊急財政対策に対する中間意見(案)」が提示された。

県有施設の原則全廃など盛る 神奈川臨調が中間取りまとめ
http://sankei.jp.msn.com/region/news/120718/kng12071820260021-n1.htm

内容を抜き出してみると、次のようになる。

(1) 県有施設について
ア 「原則全廃」の視点による見直しの断行
イ 施設種別ごとの見直しの観点
(ア) 県民利用施設
a 当初の設置目的が薄れている施設は廃止
b 利用実績が低下している施設は廃止
c 利用実態等から県による運営の必然性に欠ける施設は廃止
(イ) 出先機関
a 行政機関
「ゼロベースで検討し、それにより生み出された施設・用地は積極的に売却すべき」
b その他(公の施設、試験研究機関等)
「県民利用施設と同様に設置目的や利用実績、利用実態等から、その必要性を検証すべき」、「試験研究機関については、県としての役割を明確にし、必要性がある場合は統合や独立行政法人化」
(ウ) 社会福祉施設
「施設運営のあり方を精査し、民間活力の更なる導入の可能性について、考えていくべき」
(エ) 県営住宅
「セーフティネットとしての住宅供給機能は認められる」が、「維持管理に多額のコストを要する施設を「保有」するという現在の仕組みは思い切って見直」し、「民間賃貸住宅を借り上げる方式や家賃補助方式などへの転換を推進」

(2) 補助金・負担金について
ア 「一時凍結」のうえ抜本的見直し
イ 見直しの観点
(ア) 団体補助・市町村補助共通
a 長期にわたり運用されている補助金の原則廃止
b 少額補助金の原則廃止
(イ) 団体補助
a 私学助成は別の課題として検討
「団体補助金760億円のうち、445億円が教育分野の補助金であり、かつ、そのほとんどが私学助成に係るものである」が、「教育行政の根幹に係るテーマを内包する課題でもあることから、本調査会での議論の対象とはしない」
b 運営費補助の廃止
(ウ) 市町村補助
a 市町村と協調した見直し
「県が補助金を廃止した場合にあっても、直接市町村民へのサービスを提供する立場の市町村は、何らかの形で事業を継続せざるを得ない場合も想定される。県が補助金を廃止する場合は、市町村も足並みを揃えて、事業そのものを廃止」
b 権限移譲に伴う補助金の廃止
c 市町村との十分な調整
(エ) 負担金
「県の厳しい財政状況を考慮し、既存の負担協定そのものを改めて点検」

(3) 教育のあり方について
イ 参考意見
(ア) 地方に負担を強いる法令や国の制度
(イ) 公立高等学校と私立高等学校との関係
「一般に、公立高等学校を維持するよりも、その分を私学助成に回す方が行財政運営上は県費負担が軽減される」が、「依然として公立志向も高い中、単に財政論的な観点のみでなく、神奈川県における公立学校と私立学校との協調と役割分担をどのように考えるか、慎重に検討」
(ウ) 幼児教育・保育の一元化

(4) 人件費について
ア 大幅な人件費削減を
「県の一般会計予算の約40%、7,500億円を人件費が占め」、「義務的経費による財政構造の硬直化が進展している中、人件費もまた聖域ではな」く、「平成24年度の政策的経費はおよそ3,000億円に過ぎず、仮にこれまでに述べた補助金等の見直しを断行し、施設の売却益を得たとしても、単年度の財源創出効果は限定的」なので、「人件費の大幅な削減に踏み切るべき」
「法令等で職員定数が定められている教員や警察官にあっても、県単独の上積み分については、その必要性を厳しく検証」
イ バランスのとれた人件費削減対策
「給与水準の引き下げと、人員削減によるものが考えられるが、それらの適切な選択、及び組み合わせ」
「抜本的な業務の見直し・効率化や出先機関の統廃合などを通じた組織の大胆な見直しにより、採用抑制等を通じた人員削減に努めるとともに、それでも財源捻出が困難と認められる場合に、給与削減に踏み込む」


県有施設の原則全廃の部分が注目されているが、人件費の削減も主眼となっていることがわかる。
しかし、あえて批判的にコメントするならば、県有施設の原則全廃や補助金の全面的見直しなど、政策経費の削減については「断行」「聖域ではない」などの言葉が踊っているわりには、人件費の具体的な削減方法については奥歯にものが挟まっているという印象である。
「県の一般会計予算の約40%、7,500億円を人件費が占め」、「義務的経費による財政構造の硬直化が進展している中、人件費もまた聖域ではな」く、「平成24年度の政策的経費はおよそ3,000億円に過ぎず、仮にこれまでに述べた補助金等の見直しを断行し、施設の売却益を得たとしても、単年度の財源創出効果は限定的」なので、「人件費の大幅な削減に踏み切るべき」といっているわりには、人件費の大幅な削減の具体的手法が示されていない。それどころか、給与水準の引き下げには非常に慎重であり、「採用抑制等を通じた人員削減」が示されている程度である。
結局、県本体の職員の人件費については採用抑制で人件費削減を図り、いわゆる外郭団体や各種の団体に公共サービスの提供を委ねている部分を「原則全廃」して大幅に経費をカットするという本丸温存型の人件費削減策となっているという見方もできるのではないか。
人件費の問題は、誰でも踏み込みたくないところではある。本人と家族の生活がかかっているのだから、特に雇用問題は避けて通りたいのは、当たり前である。が、それにあえて踏み込むことができるのは、外部の人間にしかできない特権のようなものであろう。そういう意味では、やや物足りない中間意見になっているという印象を受けた。


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