11月12日(土)・11月13日(日)の両日に、明治大学中野キャンパスで開催された
情報ネットワーク法学会2016年度研究大会についての感想をまだ書いていなかった。
まず、開催校である明治大学の
菊地浩明・大会実行委員長、藤村明子・プログラム委員長には、研究担当副理事長として深く感謝したいと思う。ここまでのご苦労は、並大抵のことでは無かっただろうと思うからである。特に、個別報告と分科会の数が非常に増えたことから、その管理はさぞかし大変だっただろう。
また、理事や当日の運営にあたったメンバー、アルバイトの学生さんたちにもお礼を申し上げたい。
昨年に
北九州市で開催した2015年度研究大会から、当学会としては初めて2日間の研究大会開催とした。これは、1日だけの開催では、個別報告と分科会をさばききれなくなったというのが一つの理由である。
今年は昨年の大会よりもさらに個別報告と分科会の数が増えた。なんと個別報告は32件、分科会は第16分科会までという陣容となったのである。発足当初の研究大会は、基調講演が1件か2件、その後にいまの分科会にあたるシンポジウムが数個あるという規模で、シングル・セッション(シングル・トラック)で進行していた。今回の研究大会では、個別報告は同時5セッション(5トラック)、分科会は初日の土曜日が同時3セッション、日曜日は同時4セッションでの開催となった。理系の学会であれば、それぐらいのセッションがあるのはごく普通だろうと思われるが、かぎられた人数と予算で運営している社会科学系の学会としては、これはかなり大規模なほうに属すると思う。
同時に、この個別報告と分科会が増えたために同時開催のセッション(トラック)の数を増やして対応するという方法が、別の問題を生んでいることも事実である。それは、聞きたい個別報告や分科会が、重複してしまって、どれか一つしか聞くことができないという点である。
この点に関しては、会員の間からも苦情の声が出てきていることは承知している。実際に、私自身も「あれも聞きたかったな」と思うような場面が何度かあり、どれに出るかを選ぶのに迷うようなことがあった。発足以来、数年間の研究大会は上記のような状態で、「この後の分科会はつまらなそうだな」と思って休憩室にサボりに行ったところ、同じことを考えた会員が多かったと見え、休憩室が妙に活気を呈していたというようなこともあった。それに比べると、隔世の感がある。
ただ、2日間での開催ということを考えると、同時開催のセッションの数が増えてしまうことは、ある程度はやむを得ない。
初日の受け付け開始時間とセッション開始時間をもう少し早くすれば、多少は同時開催セッションの数を減らすことができるのかもしれないが、そうすると、今度は遠方からの参加者は初日の朝には間に合わずに前泊しなければならないということが起きる。そうすると、週末のホテル代が高騰している昨今、特に東京で開催する大会の場合には遠方からの参加者にさらに費用負担を強いることになってしまうので、それも避けたいところである。そういう次第で、会員各位にはご寛恕をお願いしたいと思う。
なお、夏井高人先生からは、ブログで
「情報ネットワーク法学会の講演を終えて」と題する詳細なコメントをいただいている。学会の創立メンバーのお一人である夏井先生からこのようなメッセージをいただいたことで、当日の運営にかかわった関係者は実に勇気づけられたと思う。
夏井先生のブログの中で、私自身のこともちょっと触れていただいているが、夏井先生に少し申し上げたのは、学会財政の現状と学会誌の編集に関する問題である。
理系の研究者からは驚かれるが、文系の学会の多くは、会員から年会費を徴収し、その年会費の中から学会誌の発行費用や研究大会等の運営費用をやりくりしている。その年会費よりも、情報処理学会等に属する研究会が開催する「第○回○○シンポジウム」の類に1回参加するために支払う参加費のほうが高い、という場合は、決して少なくない。
先日、情報処理学会に属するある研究会が開催したシンポジウムに参加するために参加費を支払った際、非常に複雑な思いに囚われた。というのは、その参加費の額は、ある地方の公立短期大学の年間の個人研究費の額と、ほぼ同じだったからである。その短期大学は財政が非常に厳しいために教員の研究費がきわめて少額であるところに、四年制大学への改組の動きがあり、その経費を捻出する関係でさらに研究費を削られるかもしれない、という話だった。
情報ネットワーク法学会も、1万円の年会費で運営しており、その中から学会誌を編集・印刷して学会員に送付し、研究大会を運営すると共に(学会会員からは、参加費を徴収していない)、特別講演会と称するシンポジウムや公開の研究会を年に数回開催している。学会誌に論文を投稿して掲載された場合、理系の学会誌のように掲載料を徴収するということもない。専従の事務局を置いて事務員を雇用することはできないので、事務局業務を代行する業者に主として会員名簿管理と会費収受を委託しているが、それ以外の学会の業務は理事や元理事を中心とする会員の手弁当となっている。
初期の学会誌を見ると、研究大会の基調講演の内容、論文が数本、研究大会のシンポジウムが2、3本というような内容であった。これならば、査読や編集も学会員の手弁当で何とか回すことができる。
しかし、論文の投稿の数が増えて20本近くになってきたことによって、査読や編集を担当する理事(それも、2、3人)の手には余るようになった。このため、発行をお願いしてきた商事法務とは別に、原稿のとりまとめや督促、進行管理を別の会社に外注せざるを得なくなった。また、学会誌には研究大会のシンポジウム(分科会)の内容をテープ起こしして掲載してきたが、分量が増えたために、投稿論文を中心とする論文号とは別に講演録号という形で発行せざるを得なくなった。
問題は、学会会員数の増加のペースよりも、それに伴って生じる各種のコストの増加のペースのほうが速いということである。学会誌への投稿論文の数は、初期の頃の5倍以上になっているが、かといって会員数が初期の5倍になったわけではないので、学会の収入が初期の5倍にはなっていないのである。しかし、費用のほうは、5倍とまでは行かないまでも、確実に肥大しつつある。このギャップをどうすれば埋めることができるのか、非常に難しいところである。
しかし、夏井先生がブログに書いていらっしゃるように、「とにかくマネジメントは楽ではない。しかし,それはどの学会でも同じなので,合理的な努力を重ねて課題を解決」するほかはないのであろう。
最後に、情報ネットワーク法学会は、役員の固定化・高齢化を防ぐということが、主要な創立メンバーの先生方の間で共有されていたようで、理事の重任の制限、年齢別の理事枠など、さまざまな工夫が凝らされている。私は、主要な創立メンバーの先生方からは一回り若い世代に属するが、いま、自分自身がこの学会を創立された頃の先生方の年齢に近づいてきて、若い世代に学会活動の中核を担ってもらうことの重要性を強く感じている。研究担当副理事長にご推挙いただいたときに、多く創立メンバーの先生方から、若手へのバトンタッチという点を強くご助言いただいた。ある先生からは、中継ぎリリーフの投手であると心得よ、というような意味のことを言われたこともある。
今回の研究大会の運営においては、若手の理事や元理事を中心とするメンバーが中心的な役割を担って、実にスピーディに意思決定を行い、次々に発生する諸問題に対処していた。その様子を見て、なんとか自分が中継ぎリリーフの役割を果たすことができたのではないかと思い、ほっとしている。