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明治大学専門職大学院ガバナンス研究科(公共政策大学院)教授・湯淺墾道のウェブサイトです

United States v. Jones, 565 U.S. __ (2012) 法廷意見の要約

2012年08月16日 | 情報法
United States v. Jones, 565 U.S. __ (2012)

アメリカ連邦最高裁判所において、GPS装置を被疑者の車両に装着して得られた証拠に基づき被疑者を起訴したのは憲法修正第4条に違反すると判断されたUnited States v. Jones判決(2012年)のスカリア判事の法廷意見の要約です。

I
(事実概要:略)

II
A
政府がGPS装置を自動車に装着し、自動車の動きを監視するために用いたことは、修正第4条 にいう「捜索」に当たる。「本件では何が起きたのかを明らかにすることは重要であり、本件では政府が情報を収集する目的で私有財産を物理的に占拠した。このような物理的な侵害が、修正第4条の採択時に意図されていた『捜索』とみなされることには、疑いの余地がない」。
修正第4条は、少なくとも19世紀後半まではコモン・ロー上の不法侵入と結びつけて理解されていたのである。その後の判決では所有権に依拠したアプローチからは離れるようになり、カッツ対合衆国判決 は「修正第4条が保護するのは人民であり、場所ではない」と判示しつつ、公衆電話ブースに盗聴器を取り付ける行為を修正第4条違反とした。その後の判決では、公務員が「プライバシーの合理的期待」を侵害した場合のみ修正第4条違反となるというカッツ判決におけるハーラン(Harlan)判事の基準 を適用してきた。
本件では、政府はハーラン判事の基準に依拠し、捜査官がジョーンズのジープにアクセスしたのは公道や駐車場など誰の目にも触れる場所であるからジョーンズにはプライバシーの合理的期待は存在しないと主張するが、そのような政府の主張について検討する必要はない。カッツ判決は修正第4条の射程を狭くしたわけではない。ソルダル対クック郡判決 で判示されたように、カッツ判決は所有権的諸権利を修正第4条の絶対的な基準とはしなかったものの、財産権に対する保護としてかねて認識されていたものを消してしまったわけではない のである。
政府は、別の電子的追跡装置であるビーパー の使用についてプライバシー侵害を否定した連邦最高裁の2つの判決に依拠する。第1のケースである合衆国対ノッツ判決 では、自動車に搭載されるコンテナに取り付けたビーパーの使用が修正第4条に違反するかが問題となり、ビーパーの使用は被告人ノッツ(Knotts)のプライバシーの合理的な期待を侵害するものではないと判示されたが、ビーパーはコンテナをカッツが所有する以前から当時の所有者の同意によって取り付けられていたのであって、ノッツ自身もビーパーの取り付け自体については争っていない。「すでに論じたように、カッツ判決のプライバシーの合理的な期待のテストは、コモン・ローの不法侵入のテストの代用ではなく、それに追加されるものである」。ビーパーに関する第2のケースである合衆国対カロー判決 が導く結論も、違うところはない。ノッツ判決では、当初第三者が所有するコンテナにビーパーが取り付けられ、後にコンテナが被告人所有となったが、本件でも当初の所有者の同意によってコンテナにビーパーが取り付けられた後、ビーパーの存在を知らない被告人カロー(Karo)にコンテナが売却された場合に、カローのプライバシーに対する期待を侵害するかという点が問題となった。カローはビーパー共々コンテナを自己の所有として受け入れたのであって、ビーパーがコンテナの場所を追跡するため用いられたとしても、カローにはビーパーの存在に抗議する権利はない。これに対してジョーンズの場合は、政府がGPS装置を取り付けて不法侵入を行ったときにすでにジープを所有していたのであるから、合衆国対ノッツ判決、合衆国対カロー判決とは事情が異なっている。

B
我々が適用しているのは、不合理な捜索に対する18世紀の保障であり、修正第14条が採択されたときに最小限の程度の保障として与えられたものである。他の判事の同調意見は、この考えを共有していない。同調意見では、カッツ判決のプライバシーへの合理的な期待のテストだけに依拠しており、すでに存在する所有権的諸権利をないがしろにするものである。また同調意見は、公道上の人間の動きを比較的短期間監視することは許されるが、長期間GPS監視装置を捜査に使用することは許されないとするが、このような考えは別の問題を惹起する。捜査対象となっている犯罪の性質に応じて「不合理な捜索」が許容されるかどうかについての先例は存在しないからである。4週間は長すぎるというのならば、盗まれた電子機器の捜索のために2日間監視することは許されるのであろうか。テロリストの疑いのある者に対する6ヶ月の監視はどうなのか。このような問題についての解決をここで急ぐ必要はない。

III
政府は、仮にGPS装置の装着と使用が「捜索」にあたるとしても、捜査官がジョーンズに大規模なコカイン取引の指導者であるとの嫌疑をかけるのは十分に合理的であるから、修正第4条の下でもGPS装置の装着と使用は違法とはいえないとも主張する。しかし政府はこの件について論証しなかったので、連邦地裁の判決においてもこの件には触れていない。この件についての主張は失当であると判断する。

コロンビア特別区連邦控訴裁判所の判決は認容される。
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