山村有佳里のミュージック+プラス

ヴァンサン・デュボワ

Vincent Debois organ recital 

バッハではなく、オールフレンチプログラムの
ヴァンサン・デュボアのパイプオルガンのリサイタル。ベルギーの大作曲家フランクで始まり、
2部はなかなか攻めたプログラム。
この世の裂け目から聴こえて来る音楽の様な。

ノートルダム大聖堂が火事になったニュースは
フランスにいた人だけでなく、私の様に住んだ国
以外では一番訪ねた国、パリのあの大聖堂にはやはり思い出は深く、デュボアはそのノートルダム大聖堂の要職で3人しかいないパイプオルガン奏者のひとり。ただ今回のプログラムはバッハの様な神様に捧げる荘厳な祈りのような音楽、というよりは、
気がついたらこの世はもう終わりです、
または終わったんですよ、と言われた感じ。
2部にコシュロー、フロレンツ、
そしてメシアンが来たのもあるかもしれない。
本人の即興の繰り広げ方がどこまでも飄々としている割には壮大で。
いずみホールのアルザス地方の重厚というよりは明るい音色のパイプオルガンで奏でられていて。

ヴィム・ベンダース監督の「ベルリン 天使の詩 」で、天使がスーツを着て人間のそばにいるじゃないですか。あんな感じ。
プログラムノートをみると、フロレンツは1947年生まれ(デイヴィッド・ボウイ、エルトン・ジョンも)でヴィム・ベンダースが45年生まれ。
なるほど。

そしてそのプログラムノートの解説が白沢達生さん。思わぬところで懐かしい友達に会った感じで、仲間の活躍は嬉しい。白沢さんらしい語り口で作曲家の門弟のつながりから背景がよくわかります。

ホールへ向かっている時、
「今度、いずみホールにお父さんとオペラ観に行くねん。優雅やろ」って笑いながら話していた人の事を大阪ビジネスパーク駅のあの長いエスカレーターを上がりながら不意に思い出して、
あれから何度もいずみホールには来ていて、そんな会話のやりとり自体を忘れていて思い出さなかったのに、急になんで、と思ったけど、
ああそうか、それを言ったのは今日もし良かったら是非一緒に聴きに来て下さい、と言われていた方の亡くなったお母様だったな、と。
エスカレーターから地上が見えて来るのはこの世の裂け目みたい。

家を出た時は京都は雪で、
ホールから出たら雪は降ってなかったけれど、
三日月が綺麗で凍てつく指で撮ってみる。
バッハはなかったのにずっとパイプオルガンの音でバッハを頭の中で感じながら。

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