ちょうど今は、卒業最後の論文提出に向けて、
本当は忙しい時期なのだろう。
書きかけのレポート用紙、手をつけかけの実験道具。
いいの?
本当にここにいていいの?
そう、言いたくて。
くちびるが、かすかに動く。
でも、言葉にはならなかった。
視線が重なる。
「いいよ。」
やわらかく微笑む。
ホームズが言いたいことは、手に取るように判った。
この不安を少しでも、減らしたい。
出会った時から、そう思った。
だからこそ、声をかけた。
「ここにいていいよ。」
思いもかけない言葉に、戸惑いを隠せない。
まだ自分は何も話していない。
なのに、
彼には判っているなんて。
人は例えば無人島のような、誰もいない場所に一人いても、
孤独とは感じない。
しかし、集団の中で、その中に交われないと孤独だと感じる。
今までのホームズは、後者の心境だった。
学校に上手くなじめず、一人でいつ時間が長かった。
自分の居場所が見つけられず、とても淋しかった。
その中で、モリアーティが接してくれるあたたかさが、
どれほど嬉しいか。
本人以外には、きっと判るまい。
言い表せない表情を表現するのに、ホームズはただうなずき返すのが、
精一杯だった。