golden days

nonsense sentence contents and fictional experiments

okimono

2007-08-09 | Weblog
「ちょっとトイレ行ってくるわ。」
と、一緒に飲んでいた職場の同僚に言って、彼は席を立った。

「よぉ、シケた面してんじゃねぞ。もっと楽しく飲めや~。」
便器に向かって勢いよく音を立てていると、目の前の棚にある深海魚のような顔をした変な置物が声をかけてきた。
「いや、仕事があんまり楽しめない状況でさ。投資ファンドなんて商売、もうそろそろ辞めようと思っててさ。儲けているときはイケイケだけど、ちょっとでも風向きが変われば、リスクが多過ぎて精神的に参るよ。」
「なんだ、転がし屋か。博打打ちにはたまんねぇ商売だろうな。まぁ、悪いときもありゃ良いときもある。そんなにへこたれるな。」
「そういうお前はどうなんだよ。そっちこそ、なんだかつらそうな顔してるよ。」
彼が聞くと、その置物は目をグリっと動かして身を乗り出してきた。

「聞いてくれよ、この店のマスターに買われてこのトイレに置かれたときには、俺はもうこの棚から飛び降りようかと思ったくらいだったぜ。ここに置かれてからションベンするヤツらの顔を拝むだけの毎日。女は俺の方を向かないしな。もっと陽のあたる、まぁ夜の商売じゃしょうがないけどよ、せめて客の楽しく飲む声が聞こえる所に置いてもらいたかったぜ。」
「そうか、じゃあとでマスターに話しておくよ。」
「え、本当か?頼むよ、マジで嬉しいぜ。これでトイレの毎日におさらば出来るかもしれない、ありがとよ兄弟!あと、その時に、頭の上のチビ象もどかして欲しいって言っといてくれな。」

<ナニが兄弟だ、このクソ生意気な置物が…>
と彼は置物に背を向け、蛇口をひねりながら鏡を見上げると、自分の顔が深海魚のようになっていて愕然とした。ビックリして置物の方を見ると、深海魚の口がニンマリとゆがんでいた。
「な、兄弟!」

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