言語に対する距離感

「男は黙ってサッポロビール」という広告が（かなり昔に）あったが、「沈黙は金なり」という美学（美徳？）がある。アカウンタビリティ（説明責任）やインフォームド・コンセント（説明を受けた上での同意）等という言葉が喧しい昨今においても、普通の生活の中でいまだにあるのかもしれない。ひょっとして自分の中にも…（笑）。わざわざ言葉にすること自体が「野暮」であるという「粋」の姿勢かもしれない、等と言い訳してみたりもする。

現場で出会う職人達は、寡黙な人が多い。中にはお喋りな人もたまにいたりするが、大工、左官をはじめとして、「対話」が得意でない人が現場にはたくさんいる。個人的にはそういう人たちと休憩の時間を利用して打ち解けたり、技術的・専門的な話をするのが楽しく、かつ勉強させてもらっている。一見無愛想な人ほど、話し出すとすごく人間味にあふれ、仕事を離れて家族の話や自分の経験してきた話に発展していく。しかも、断片的に。そういう会話は、その人の歴史を物語っているし、あらゆる職人がその経験を着実に踏み台にして現在を築き上げていることを示していて、聞いている方も心地が良い。

ここで一般化するつもりは全くないのだが、モノづくりに携わる職人というのは、「モノ」への思い入れが大きい。たぶん、もしかしたら施主よりも大きい職人もいる。そういう職人に当たった施主は「幸せ」である。しかし、それもめぐり合わせである。そして「モノ」に対して真摯な人が寡黙であるということは、人間の言語能力としての、一つのあり方を示しているような気がしてならない。

手を動かす人間は、口がおろそかになり、口を動かす人間は、その逆である。というのは、一説ではあるが的を得ているような気がする。モノに対して手を動かすことと「言語に対する距離」との関係は、最近興味あるテーマである。