【論説・04.30】：スマホ新法案 巨大ＩＴの専横許すな
『漂流する日本の羅針盤を目指して』：【論説・04.30】：スマホ新法案 巨大ＩＴの専横許すな
政府はスマートフォンの利用に際して、巨大ＩＴ企業の競争制限的な行為を禁じる新たな法案を閣議決定した。スマホの基本ソフト（ＯＳ）で寡占状態の米アップルとグーグルが念頭にある。ＩＴ大手はその市場支配力を背景に、専横的なビジネスモデルの押し付けが目立つ。公正な競争環境の整備と消費者の利益向上へ、巨大ＩＴ企業に歯止めをかける時だ。
名称は「スマホ特定ソフトウエア競争促進法案」で、公正取引委員会がまとめた。今国会へ提出、成立の上、２０２５年末までの施行を目指す。法案は、ＯＳやアプリストアを提供する一定規模以上の事業者を対象に、禁止・順守事項をあらかじめ示して行為を制限する「事前規制」を導入したのが特徴だ。既存の独禁法は問題の立証作業に時間を要し、変化の速いデジタル分野には不向きな面があった。事前規制の仕組みの採用は合理的と言えるだろう。
新法で網をかけるのはＯＳ、アプリストア、ウェブブラウザー、検索エンジンを提供する一定規模以上の事業者。「禁止事項」では、スマホにアプリをダウンロードする際に使うアプリストアや、ゲームのアイテム購入時などに利用する決済システムにおける他社の参入阻害を明示。インターネットの検索結果で自社のサービスを優先的に表示することも認めないとした。加えて「順守事項」として、アプリ起動やブラウザーに関する初期設定を利用者が容易に変更できるよう対応を求めた。
いずれもＩＴ大手の自社利益優先によって、スマホ利用者やアプリ開発事業者が不都合を被ってきた点ばかりだ。是正されれば消費者がより多くのアプリを低価格で入手できたり、開発事業者から巨大ＩＴへ支払う手数料が下がったりすることが期待できよう。
現状は、アップルやグーグルの支配力が強くなりすぎて、市場に委ねていては公正な競争や消費者利益の回復が困難な状況と言える。
重要なのは新法の実効性だ。対象となるＩＴ大手には毎年度の報告を求め、違反行為には行政処分として国内の関連売上高の２０％に相当する課徴金を科すとした。独禁法の同様のケースは６％のため、３倍超の厳しい措置となる。違反を繰り返した場合は３０％へ引き上げる仕組みも設けた。
巨大ＩＴによる競争阻害的な行為は後を絶たず公取委は２２日、グーグルがＬＩＮＥヤフーの「検索連動型広告」事業を制限したとして、初の行政処分を下した。影響力を増すＩＴ大手に対抗するには、法整備に加えて規制当局による今まで以上の監視強化が肝要だ。
日本が参考にした欧州連合（ＥＵ）は巨大ＩＴ規制で先行しており、自社サービスの優遇を禁じる「デジタル市場法（ＤＭＡ）」が３月に全面適用された。米国でも司法省などが同月、アップルを反トラスト法（独占禁止法）違反で提訴し「ＧＡＦＡ」と呼ばれるＩＴ大手への包囲を各国・地域が強めている。
日本では、巨大ＩＴに取引条件などの開示を義務付けた法律が２１年に施行。新法は規制第２弾に当たり、欧米の動向に足並みをそろえた格好だ。
今後、ＩＴ大手による規制をかわそうとする動きが出てこよう。政府には、変化に応じて迅速・柔軟に法制度などを見直してもらいたい。
元稿：山陰中央新報社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【論説】 ２０２４年０４月３０日 ０４：００：００ これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
