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石ころ

墓参そうして、北斎



 老姉妹でお墓参り・・でも、そんなにしっとりとした光景ではなく、ワアワアと騒ぎながらの珍道中。というのもお墓までの道筋の記憶があやふやなことによる。
京都の地下鉄さえも初めてで、市バスに乗るにも、ああでもない、こうでもないとかまびすしく・・。
それは、少しははしゃいでいることであって、なぜか少し嬉しくて、少しワクワクもしている。
お墓参りなのに・・。

 長らく気になりながら来られなかったから・・
母方のお墓は、今ではあまり来る人もないだろうとお掃除の準備をしていたけれど、綺麗にされてお花まで立ってられていた。
教会の方がお世話を続けていてくださったのだろう。帰った早速にお礼状などを・・と決めた。

クリスチャンにとってのお墓はどうにも微妙なところで、妹がお墓参りを誘ったとき、「おはかに~わたしは~いません~」あやふやな歌詞と調子外れの歌で応じたものの、すでに心では付き合おうと決めていた。


 それでも、実行するまでには一週間延びて、その日が雪混じりの悪天候の中の出発となったのだけれど、午後は予報通りに晴れて穏やかな陽差しの中少しも寒くはなかった。
妹が墓石をゴシゴシと擦りながら、墓を取り巻いている柾を指して「名前知っている?」と聞く、「知っているよ。おばあちゃんの名前」
「まさき」という祖母の木を、墓に植えた祖父の気持ちがじわりと伝わって来る。

在りし日の彼らの仕草や声音が思い出される。
いつも薄暗い夕闇の迫った部屋で、祖父は体を丸くしてひとりで祈っていた。彼らは私に何も言わなかった。つまり伝道や教育はしなかった。

日曜日に教会まで付いていったことはある。教会の前の石段に座って遊んだこと。近くの塔に登って遊んだこと・・。賛美歌を一緒に歌った覚えはないけれど、聞いて覚えた歌もあった。


 お墓参りが思ったよりもスムーズに行ったので、午後は寄り道をして北斎展に行こうということになった。
妹は絵を見るのが好き。私も好き。
何の知識もないけれど本物は心を揺さぶる。その感覚が共通している。

臆面もなく尋ねつつ・・というのも年寄りには迷う事が厳禁なのだ。
初めての京都の地下鉄にも乗ることが出来て、無事に「京都文化博物館」に辿り着いた。
ロビーで、ペットボトルを手持ちしている人が、仕舞うように注意されているのを見て、二人で慌ててお茶を飲む。渇くことは疲れにつながる、これからの時間は疲労との戦いになのだから・・と、ワクワクを押さえて準備運動。

 まず、思ったよりも小さいサイズだった。
しかしその小さい絵のなかに、とんでもなく大きな世界が、まるで3Dのような迫力をもって広がっていたのだ。永谷園では感じたことのない世界!

線の繊細なこと精密なことに驚いて、その当時の生活が写実的に切り取られ、ひとり一人の仕草に見とれ、滑稽な姿にフッと笑ってしまったり・・、どこか懐かしくさえ思えるほど時にリアル・・。着物姿の流麗な描き方にため息したり・・。

富士山の写真とはまるで違う独創的な描き方に度肝を抜かれ、離れていた妹を引き寄せてささやく、「どう思う?あり得ないよね。逆さ富士ったって・・このように映るわけがないでしょう。」なんて異議を申し立ててみて遊んだ。

藍の美しいこと。濃淡の端々まであざやかで・・うっとりするばかり。ただ藍とピンクで出来ているようなのに、どうしてこれほどに多くの色彩を感じるのだろう・・。
この中でどれが一番好きかなぁって思ったけれど、そんなの決められるわけもないのですぐに考えるのを止めた。一枚上げるって言われたら、本当にどれでも全部良いしね。

始めに予想していたよりもはるかに枚数が多くて、その予想は皆同じらしくて、初めの方は混んでいたのだけれど、中程になると絵の前はだんだん空いていた。つまり私たちと同じで疲労困憊。置かれているベンチでダウンしている。

控えめなライトに照らされている、一枚一枚に目を懲らして見続けることは、思ったよりも疲労することがわかった時はすでに遅し。
実に残念だけれど・・ついに落後せざるをえなかった。
それでも、今日もまだまだ余韻にひたっているのだから、私たちにはこれで充分だった。


道々「もう、何処にも行きたくないね。」と妹が言う、私も心から同意した。
なのに、京都を後にした特急電車の中で「こんど日展に行かない?私良く行くけれど良いよ。それぞれ本物の魅力があるよ。」と言ったので、「先ほど、何処にも行きたくないって言ったばかりでしょう。」と大笑い。
少し疲れが取れたのだろう・・。
私も「行こうか・・」って、「見てみたいなぁ・・」ってその気になっていた。

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