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石ころ

子育ての日々を想う


姪達を乗せたバスが出た直後、私は自分の過ちに気が付いて動転した。バスはスピードを上げて走り去って行った。家に飛んで帰り玄関で出会った小学四年生の長男に、バスを間違えて乗せたことを言ってしまった。彼は即座に自転車に飛び乗って「見てくるわ」と言い残すとフルスピードで走って行ってしまった。

姪達は、幸いバスの運転手さんの機転で、無事に家に戻ったとの連絡があって、ホッとしたものの、慌てて飛び出して行った息子のことが心配でたまらなくなった。乗って行った自転車は新しく買ったばかりで、彼にはちょっと大きくて、恐がって乗っていない物だった。

彼は用心深くて恐がりで、いつも人よりも遅れて行動することが多い子だった。日が暮れて、夕暮れの山道を走るそのバスを、何処まで追いかけていったのかと不安でいっぱいで、どのようにして夕食の準備をしたのかを覚えていない。

真っ暗な中を帰ってきた彼は、青い顔して飛び込んで来るなり「おかあちゃん、終点まで行ったけどおらへんかった!」「大丈夫、ちゃんと帰ったって電話があったよ」それを聞いてホッとしたのか、何事もなかったかのように食卓に着いた。

未だにその時の様子を聞いていないけれど、彼は夢中で大きな自転車を乗りこなしていたのだろう。始めて通る山道の恐さも、いとこの不安を思う方が大きくて、恐くなかったのだろう。私は何も言わなかったけれど、気の弱いと思っていた長男をすっかり見直して、この子は大丈夫だと嬉しかった。

それから彼も中学に入って、小学校時代からしていたサッカーを部活で続けていたが、夏休みを控えたある日「部活を止めたいねん」と言った。その頃は、部活を途中で止めることは、根性のない脱落者のように言われていた。私は「夏休み中、ちゃんと続けられたら止めても良い」と言って様子を見ようと思った。

夏休みの間、朝早くから練習に通う元気な様子を見て、やはり一時的な気の迷いだったのだと思っていたが、9月に入ると彼は「もう止めるよ」と止めてしまった。夏休み中、楽しくてやっていたわけではなく、私との約束のためにだけ続けていたことに、その時始めて気が付いた。そんな長男は落伍者じゃないと私は彼を信頼することが出来た。

二学期の成績はグンと上がった。何よりも嬉しかったのは、通知簿に「正しい判断をしています」と書かれていたことだった。体の小さな彼には、親に言えない無理をしてもいたのだろうと後で感じた。

子供とは、親の失敗を時に覆って成長し、親の信頼に応えて成長するものだと、つくづく今感じている。親も弱くて賢くもないけれど、神様は、子供の中にたくましさと優しさを備えていてくださるのだろう。

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