映画感想(ネタバレもあったり)

映画コラム/映画イラスト

映画『SKIN 短編』監督の確かな力量を感じる短編映画

2022-09-26 | 映画感想
SKIN 短編(2018年製作の映画)
Skin アメリカ上映時間:21分
監督 ガイ・ナティブ
脚本 ガイ・ナティブ シャロン・マイモン
出演者 ジョナサン・タッカー ジャクソン・ロバート・スコット ダニエル・マクドナルド



監督の確かな力量を感じる短編映画。
ずっとサスペンス。
「頼むから実はいい人たちであってくれ」と願ったけれども、やはりそれでは話にならない。。。
事態は最悪な展開に、
そして思考実験的なラストへ。

**

この短編公開の同年、同監督の長編映画『SKIN/スキン』。
実在の人物をモデルにした長編映画で、この短編とは話のつながりはない、とのこと。
あぁ長編映画『SKIN/スキン』観ますわ。。

もうほんとにいい加減なんとかならないかと思いますけど、、、
答えやヒントが長編映画『SKIN/スキン』にあるのかな。

映画『TOVE/トーベ』これでも喰らえぇっ!

2022-09-26 | 映画感想
TOVE/トーベ(2020年製作の映画)TOVE
監督 ザイダ・バリルート
脚本 エーヴァ・プトロ
出演者 アルマ・ポウスティ クリスタ・コソネン




ムーミンを宝とするフィンランドから「これでも喰らえぇっ!」と放たれた鉄の矢のような映画。

**

ムーミンファンの方からすると「ムーミンは金のために嫌々描いてたの!?」と残念な気持ちになる側面もある映画ではあるかも。
でもきっと
「ずっと好きだった作品を作った人のことがよく知れて良かった!!」
って人もいることでしょう。

**

僕はムーミンもそんなに知らない(子供の頃にアニメ見たことはあるはずだけどどんな話かは知らないし
トーベ自身についてもそんなには知らない。
大人になってから、トーベが女性と島で二人暮らしをしてたというのは聞いたけど、それもなんか童話作家っぽいなと思っていた程度でした。

**

この映画がどれほどトーベ自身を描けたものなのかはわからないけど
トーベの大きな側面が切り取られたものなのだろうと、予想します。
この切り取られたものは、今までそんなに公にされてこなかったことなのでは。
逆の意味で「切り取られて(隠されて)きた」ものなのでは。

**

主演のアルマ・ポウスティの演技が素晴らしい。実在感が素晴らしい。

トーベ・ヤンソンのルックスをそんなに知らないってのもあって本人のように見えて来た。
女優だけでなく監督もされているんですね。
人間臭さ、強さ、弱さが素晴らしい。

**
美術も良かったです。

絵の具の匂い、カンバスの匂い、床板の匂い、天井の高いアトリエの中をめぐる風の匂い。
そういえばほぼ室内でしたね。
凄い決断。
なんかすぐ森とか散歩しそうなのに。しない。
(日本の映画やドラマはすぐ土手を歩いたり橋を渡る。毎回どこに住んでんだよ。)
川べりを散歩するけどめちゃくちゃ夜中で真っ暗。
ラスト踊る人物も逆光。

**

鉄の矢でした。
なめんなよ、と。

映画『いとみち』大空襲と大飢饉とメイドカフェ 

2022-09-26 | 映画感想
いとみち(2020年製作の映画)
上映日:2021年06月25日製作国:日本上映時間:116分
監督 横浜聡子
脚本 横浜聡子
原作 越谷オサム
出演者 駒井蓮 豊川悦司 黒川芽以 横田真悠


恋愛を介さず成長していく主人公の少女がいいですね。
シスターフッド映画として興味ある方は是非。

**

天明の大飢饉や1945年の青森大空襲の話が唐突に挟み込まれてきます。
物語の縦軸である津軽地方の歴史はなかなかのなかなかに重い。。。
その重みを受け止めるのが主人公いとの津軽三味線の響き。
澄んだ音とは言えない、激しく叩きつけるような音がメイド喫茶内に響くと映画前半で語られていた津軽の歴史が自然と思い浮かびます。

**

手を振りかえすシーンでは『あのこは貴族』を思い出した。

映画『ヒヤマケンタロウの妊娠』なんか新しいことに気づいたみたい空気で喋ってるけどそれ女はずっとやってきたことだから

2022-09-26 | 映画感想
ヒヤマケンタロウの妊娠(2022年製作のドラマ)
原作 坂井恵理
監督 箱田優子 菊地健雄
脚本 山田能龍 岨手由貴子 天野千尋
出演者 斎藤工 上野樹里 筒井真理子 岩松了 高橋和也 宇野祥平 山田真歩 リリー・フランキー 細川岳 前原滉



『あのこは貴族』の岨手由貴子監督が入ってるプロジェクトということで、観ました。


菊地健雄監督もいて期待は高かったですが、その期待を超えてくるドラマでした。

**

女性性の強い「妊娠」という役割を男性に移行してみたらどうなるか、という思考実験ドラマ。
無理やり新しい価値観を提案する訳でもないところにとても好感を持ちました。

そのかわりに、日々の微細な違和や齟齬が丁寧に(しかもコメディ風に)描かれていきます。
さすが手練れ集団っ!

**


妊娠する既婚男性を「お母さん」と呼ぶ人が出てきます。

この現象は面白い。
男性であることに変わりはないんだから妊娠しても呼び名変えなくてもいいのに。
「お母さん」ってのは性別ではなく役割による呼び名だと考えている人がいる、ということなんですね。
男であっても妊娠したらお母さん。

お母さんと呼ばれたい男性もいるかもしれないか。

**

妊娠した男性たちの悩みとして、妊娠することで男として扱ってもらえないというのが出てきます。

体が子供を産み育てるのに必要な変化をしていく様子を見て
「男なのに女みたいだ」とバカにする人たちが多く描かれます。
当事者自身も「男らしさがなくなるのが嫌だ」と苦しみます。
そこから「らしさって何だ」というテーマがこのドラマの最後まで語られ続けます。

やはりここでも、
妊娠する男性は「妊娠する男性」なだけではなく、「てことは女」ってなるんですね。

**

妊娠した夫の妻の苦悩も描かれます。


「ほんとは私がやらなきゃいけないことなのに」と。
妊娠&出産という役割も男に奪われたら女は何をしたらいいの、と悩んでしまう。
「らしさ」や社会構造による悩みですね。
夫が産休・育休とるなら妻が働けばいいけど、男性と同じ収入を得るのは難しい、とか。

**

ヒヤマは内省しながらいろんなことに気づいていって
それをのうのうと語るんだけど
女性たちからは
「なんか新しいことに気づいたみたい空気で喋ってるけど、それ女はずっとやってきたことだから」
と呆れる、というシーンがいくつかあるのが面白い。
何か新しいことに気づいたんじゃなくて
対話と想像が足りてなかった、
「らしさ」に縛られすぎてるんだよ、
という話。

**


ヒヤマは広告代理店。


クライアントの企業イメージをアップさせるために様々な人種のモデルやLGBTQの人の写真を選んでいるシーンがあって
「貴社の先進的なイメージを訴求するためにこういう写真を使おうと思います」っつって人間たちの写真が並べられる。
企業イメージのために〝珍しい人〟が利用されている感じがちょっとしちゃって
ちょっとヤだな……と思いました。
でもこのドラマならちゃんとどっかで問題意識を感じるシーンが出てくるだろうと思ったらなかった。

これはミスか、
広告業界はこの暴力性にまだ気づいていないという示唆なのか。

↑この点はちょっと残念。


ドラマ『僕もアイツも新郎です。』広く深いものを描こうとしている意欲的なドラマ

2022-09-21 | 映画感想
僕もアイツも新郎です。(2022年製作のドラマ)
公開日:2022年03月13日製作国:日本
ジャンル:単発ドラマ
脚本 中村允俊
出演者 葉山奨之 飯島寛騎 永野宗典



2時間やって欲しかった。
もしくは全3話くらい。

突然カミングアウトし始めるお婆ちゃんとか
ゲイだと知らずにずっと思いを寄せていた幼馴染の女友達など
もっと時間をかけて描いてほしい、面白い人物がいっぱいいました。

50分では足りないくらい、広く深いものを描こうとしている意欲的なドラマだと思います。

****

僕はBLが苦手なんですが、、
このドラマは2人の閉じこもった世界ではなくて
リアルに存在する外の世界の人たちをも巻き込んだ物語になっていました。
しかもその人物がどれもモブではなくちゃんと血の通った人間(として描こうという意志はあった……)。

カミングアウトする側だけじゃなく
される側、
される側の中にも受け入れられる人と受け入れるのに時間がかかった人とまだ受け入れられない人、
そもそもカミングアウトできない人、
もっと早くカミングアウトしてくれればよかったのに!と思う人などなど。

(このドラマの中ではフィーチャーされてなかったですが
他人のカミングアウトとかどうでもいい人、もいますよね。)

いろんな視点で語られていたので、すごく豊かなドラマになっていたと思います。

****

ただ50分ではちょっと短かったんだと思います。

だから人物をもうちょっと掘り下げて描いて欲しくなっちゃったり、、
ラストが急激すぎるな、とか、、
ちょっと説明的すぎるな、、とか、、
教育的だな、、とかは身時間が短すぎただけのことだと思います。

***

日本でこういうゲイコメディが作られて、普通に受け入れられているって、ちょっと前だったら考えられなかったですよ。

(もっとお笑い寄りとかもっと悲劇的とかはあったけど)
ちゃんと進んでるんだなと思いますし
若い人たちがこういうドラマを見て心を強くしてくれるといいなと思います。

映画『激突!』(1971) モンスター=SNSでイキってる匿名垢

2022-09-20 | ネタバレあり
激突!(1971年製作の映画) Duel
上映日:1973年01月13日製作国:アメリカ上映時間:89分
ジャンル:アクションスリラー
監督 スティーヴン・スピルバーグ
脚本 リチャード・マシスン
出演者 デニス・ウィーヴァー キャリー・ロフティン


面白っ!

タンクローリーが「SNSでイキってる匿名垢」に見えてきた。
粘着質でネチネチ追いかけてくるし待ち伏せするし
割と攻撃的なんだけど

主人公が顔を見ようと近づくとササっと逃げるし。

犯人は誰だ!っていうミステリーではなく
モンスター映画として作ったとのことですけど
SNSのある現代では逆にこのモンスターがリアルな存在に見えてくるのが面白い。

経年に耐える傑作どころではなく
時代が変わったことで新たな魅力が加わる、という。

ヘビとかタランチュラの関係なさもくだらなくていいですね。

力も抜けている。
すげーなスピルバーグ!まさに巨匠だね!

映画『やさしい人』ネタバレあり ギヨーム・ブラック監督 映画の途中に断絶がある

2022-09-20 | ネタバレあり
やさしい人(2013年製作の映画)
Tonnerre 上映日:2014年10月25日製作国:フランス上映時間:102分
監督 ギヨーム・ブラック
脚本 ギヨーム・ブラック エレーヌ・リュオ
出演者 ヴァンサン・マケーニュ ソレーヌ・リゴ ベルナール・メネズ




原題は地名。

邦題『やさしい人』は、「彼ホントはやさしい人なの……」のときの〝やさしい人〟かな。

**

これで今見れるギヨーム(『宝島』以外)はコンプリート。
いやぁやられた、今作。。
おれが知ってるギヨームじゃなかった。。
途中ドン引きしました。。

終盤の展開まで眠くて眠くて眠くて眠くて眠くて。。
油断してたらあれよあれよとトンデモ展開。。
観客についてきてもらおうなんて思ってない展開。。

****

『本気のしるし』に近いと思いました。

『本気のしるし』は〝青年漫画誌のラブコメのヒロイン〟が現実世界にいたら?というホラーコメディなわけですが、
『やさしい人』もドラマチックロマンスを現実でやったら?
という話かな。

****

監督曰く

「途中からフィルム・ノワール、ジャンル映画に変わってしまう、何か映画の途中に断絶がある、そういった映画にしようと思っていました。」
とのこと。
前作『女っ気なし』のヒットを受けて、逆に『女っ気なし』とは違うタイプにしようとも思ったそう。

**

ネタバレは以下に





僕はそもそもマクシムがメロディのことをそんなに好きだったとは思えなかった。
都落ちしたロックスターである自分を褒めてくれる若い娘(メロディ)と出会って
メロディが自己肯定感を上げるのに役立ってくれると期待したんじゃないか。
年齢も上だしこっちがメロディを利用しようと思ってたのに、すぐにメロディは離れてしまったし、1番言われたくない「ロリコン」
と言われてしまった。
マクシムは湧き上がる負のエネルギーを健全に発散できるような、人間関係も趣味も仕事もない。
クズ扱いしてる父に相談したら自分も同じクズだと明かすことになるから言えない。
一向に消えない負のエネルギーと持ち前のネチネチとした粘着質な性格によって、マクシムの犯行はとても計画的に進められる。
まずはクロロホルムの効果を確かめる。
犬で試してみたら成功。
(↑ドン引きシーン。観客を置いていく覚悟。)
イヴァンに銃を突きつけ、メロディを捕獲しクロロホルムで眠らせて、雪山のロッジに軟禁。
もう不幸せしか来ない状況。
イヴァンの通報のおかげ?で優秀なフランス警察がメロディを保護、マクシムは逮捕。
到底ラブコメの主役が入るとは思えない部屋に二重鍵で閉じ込められる。
※前半で昔の監獄?でメロディとマクシムがキスするシーンありましたね
メロディはマクシムは銃を持っていなかったと嘘の供述でマクシムをかばう。
イヴァンは「なんでやねん」と思いつつもマクシムへの告訴?を取り下げる。
マクシムは釈放。
マクシムと父、家に帰る。
犬も無事生きてる。
事件前よりも仲の良さそうな父と息子。
ギターで歌う。
クズ2人。
父は一貫して〝良い人〟。
マクシムに対してずっと優しい。
マクシムも発狂する前は良い人。
2人とも優しいけど弱く傷つきやすい。

映画『スワンソング』ネタバレあり スワンソングの意味 次世代に繋ぐもの 

2022-09-13 | ネタバレあり



****

■トッド・スティーブンス監督

とても良い映画。良い映画作家。

近い将来アカデミー賞作品賞の『Coda コーダ あいのうた』枠でノミネートくらいはされそうなポテンシャルを持った映画作家ですね。

ライトにも見れるし、セリフで語っていないことがものすごく多くて、実は情報量が豊か。
永遠に味のするガムのようにいつまででも噛んでいられる奥行きがある。

しかも軽やか。押し付けがましくない。うっとおしくない。

で、俳優の演技が全員素晴らしいでしょ。
で、さらに現状はB級感もある(かなり低予算映画らしい)。

コーダ枠に入って欲しいわけではないけどその力は絶対にあるし、すでにプロジェクト動いてるはずですよ。

そもそもウド・キア先生を主演に連れてこれる人ですから。相当。

***



■「あまり感情表現をしなかった」

ウド・キア先生のインタビューによると
「あまり感情表現をしなかった」とのこと。

「このような物語や流れに起伏がある場合は演じる側が過剰に表現すべきではない」的な。

だからソファに座ってリタの孫から言葉を聞くときも、パットはノーリアクション。
でも観客は150%わかるわけよ。パットの気持ちが。それが映画よ。

ここで感傷的な音楽流したり涙流して抱き合ったりしねーのよ。



***



■自分にもあったのか

年老いたゲイが「昔の業界は良かったわ。今の業界はつまんないわ」って愚痴を言う映画だったら、まさかこんなに褒めませんよ。

主役のパットにはヘアメイクドレッサーとして華やかな時代もあったけど、パートナーも90年代に失って世間から酷い差別も受けて、その辺のおじいさんと見分けがつかないルックスになってひっそりと暮らしている状態(友達もいなそう)。

楽しかった時代からすると相当な落差。
常に諦めて生きてきた結果の、冒頭のパットのシーンなんだと思いますよ。
そんなに寂しそうだったり辛そうなわけではない。
色々捨ててきた境地なんだろうなという暮らし。

でも、諦めていたものや寂しく感じることがあったわけよね。

それが、元親友の死化粧をするという道中(過程)で、自分達が死の恐怖を味わった時代を知らない若い世代が"のびのびゲイ"として暮らしている様子を見て、
「あぁ自分はそうじゃなかったけど、若い世代が希望を持って生きられる世の中になったことは悪い変化じゃないよな」と思ったわけよね。

で、「自分はそうじゃなかった」と諦めていたけど、パットは若い世代のゲイからある一言を言われたことで「自分にもあったのか」とハッと気づく、という。

ほ〜ら、良い映画じゃん!



ネタバレは以下に



色々語られてないことがある。いっぱいあるので書ききれないし、僕もわかってないとこ多いと思う。
まずパットの彼氏は90年代にHIVに感染しAIDS発症となり亡くなったらしい。
AIDSパニックの時代だし田舎町だったので酷い差別に遭ったのだろう、と。
おそらくその為にパットのヘアサロンは閉店。
親友だったリタも「怖くて」パットの彼氏の葬儀に出席できなかった。
葬儀に出席したらうつると思われていたのかも。
パットと交流があることがバレるとリタも差別に遭うと思ったのかも。
で、以降パットとリタは断絶したしパットは信頼していたのに裏切られた!と思ってリタの印象がどんどん悪くなっていった。
一方でリタはパットに対して罪悪感を持っていただろうし、気性の荒さ(リタの孫のダスティン曰く)もあったけどどうやらリタは地元では人望もある人物だった模様。
リタによる「死化粧はパットに」という遺書によって2人は再会(リタは幽霊として)。
幽霊リタが「あの時は怖かったの、ごめんなさい」と。
「まぁそうか、怖いわな。彼氏を失った自分を支えるどころか見捨てたリタをクソだと思ってたけど、自分も悲しみや怒りをリタにぶつけてただけだったな」とパットが思ったかどうかは知らんけど、パットはリタに死化粧をする。
で、リタの孫のダスティンのセリフ
「祖母にカミングアウトした時、祖母は"自分にはゲイの素晴らしい友人がいる"と話してくれた。あなた(パット)は僕を救ってくれた」
パットが酒に酔って死んだ友人をハッテントイレから引きづり出してきたときに、
「目の前でゲイカップルと子供」の姿を2人で見た。
「良い変化だ」と言いつつも「でも自分は何も次に残せない」と呟いた。
これがパットが諦めたことであり諦めきれてなかったことなんでしょうね。
でも違った。
実はパットの存在が知らないところで若者(ダスティン)を救っていた。
もっと言うと服屋の店主スーもパットに救われた1人。
自分はあたかも「点」のような存在だと思っていたけど、次の世代に影響を与えることができていたのか、と。

スワンソングとは「人が亡くなる直前に人生で最高の作品を残すこと、またその作品を表す言葉」とのこと。
パットにとってリタの死化粧もスワンソングだけど、
ダスティンという存在自体も実はパットにとっての作品の一つだったんだよね、と。
あ〜も〜ほら、いい映画!

映画『燃ゆる女の肖像』ラストネタバレあり 「描くのです!」って言われたもう1人の画家

2022-09-13 | 映画イラスト
燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
Portrait de la jeune fille en feu上映日:2020年12月04日製作国:フランス上映時間:120分


【ネタバレあり】四コマ映画『燃ゆる女の肖像』 → https://4koma-eiga.jp/fourcell2/entry_detail.htm?id=2859
 



【ネタバレあり】四コマ映画『燃ゆる女の肖像』 → https://4koma-eiga.jp/fourcell2/entry_detail.htm?id=2859

現代よりも情報量もなく正しい知識もなかったであろう1700年代で、同性愛者、ましてや女性が生きるのは、ほとんど暗闇を手探りで進むようなことだったんだろうなと思いました。

****

■異常に精細な音と映像


衣装の生地のそれぞれ風合いまでが克明に映されてました。
ドレスってこんなにもいろんな種類の生地で作られていたのかと初めて知りました。

それらの全てを精細に映す撮影が素晴らしかった。海も、砂も、岩も、ほつれた髪の一本も、腕毛さえも、全部鮮明に映す。

あと、音も。
黒炭が紙を滑る音。筆で絵の具を混ぜる音、掬う音。ドレスが擦れ合う音。鼻息。唇が触れあう音。離れる音。
ASMRか!ってくらいの微細な音でした。

****

■不在の男性による抑圧

ここまで全ての音を録って、物を映しているのに、男だけはほとんど映していません。
(序盤と終盤に出てきますが話には関わってこない)

男は映らないけど男に支配された世界。

この映画に悪人は出てこない。
娘たちを閉じ込めていたあのお母さんも悪役としては描かれていなかった。

女性の集団に対してすぐに「本当は仲悪いんでしょ?」と揶揄したり
「女同士のプライドを賭けた戦い!」を男が高みの見物をするような映画も多いですけど
この映画の女性たちは皆同じく苦しみながら連帯していました。


****

■地
面スレスレのスカート

あの時代の女性のスカートって見るたびに異様に思うんですが、ほんとに地面スレスレ。
あれで泥道も草原も砂浜も歩く。どう考えても汚いし、不便だったはず。
でも女性はスカートを脱ぐことは許されなかった。あのスカートは抑圧の象徴に見えます。

そのスカートが燃えました。

ちょうど裾から火がついて、このままスカートが燃えてしまえば「自由」になるけど、それは命を危険に晒すもの。
自由か死か。
その数秒後、女性たちによって火は消されます。
スカートは燃えなかったけど、エロイーズとマリアンヌの心にはむしろ火がついてしまいました。


で、初キスからの、どうみても女性器の形を模したような岩の割れ目に2人は吸い込まれてのキス。

キスもなんか、あんまりいやらしく見えなかったです。
あんまりみたことのない雰囲気でした。
男目線で撮られないからでしょうか。



ラストネタバレ


純白のドレスを着たエロイーズはほとんど幽霊みたいな雰囲気で結婚へと進みます。
マリアンヌは絵の先生として生計を立てつつ、画商のオークション(?)に出品。
女性画家の絵は売れないってことで父の名前で。
マリアンヌの知人っぽい初老の男性のみ話しかけてきましたが、他は誰もマリアンヌの絵を見ません。
その会場にエロイーズの肖像画があることを知るマリアンヌ。走り寄ります。
そこにはエロイーズとおそらく彼女の娘であろう可愛らしい少女。目力は彼女譲りに見えます。
エロイーズの手には本が。マリアンヌが拘っていた手です。人差し指が28ページを開いています。
28ページにはマリアンヌの自画像が描いてあるのです。もしかしたらいつかマリアンヌが見るかもしれない。伝われ、マリアンヌへ!とメッセージをこめた28ページ。
画家「あの、奥さん、、その本、、めくれてますけど…」
エロイーズ「いいのです。全て描いてください」
画家「はぁ…」
エロイーズ「何ページが開かれていますか?」
画家「え、あ、28ページです…」
エロイーズ「描いてください」
画家「はぁ…(怖い人だなぁ)」
っていうやりとりがあったかも。
ラスト。オーケストラ。
マリアンヌに勧められたオーケストラ演奏会にエロイーズが来ます。
初めてなのか、何度目なのかはわかりません。
それをマリアンヌが遠い席から発見します。
エロイーズはマリアンヌに気付きません。
でも、オーケストラの演奏が始まるとエロイーズは記憶の中のマリアンヌを呼び出します。
鮮明に撮影された皮膚、髪、唇が離れた時の唾液。
ソファと服が擦れる音、呼吸音、彼女と一緒に聞いたさざなみ。
これらがこのシーンで効いてきます。
マリアンヌは双眼鏡でその状態のエロイーズを観察します。
でも、もう画家とモデルという観察ではありません。
「明らかに私のことを思い出してるっ!私のこと思い出してああなってるっ!」という喜びがマリアンヌはあったことでしょう。

画面には恍惚とするエロイーズの顔しか映っていませんが、観客にもエロイーズとマリアンヌとの逢瀬が鮮明に蘇ります。
ほとんどオルガズムのような表情で映画はおわり。

***

その後の2人をこの映画は決めていません。
会場の出口で張っていればマリアンヌはエロイーズと再会することは容易いでしょう。
でも、再会したところで結ばれるのは難しいですよね。時代的にも、経済的にも。

再会も、再び結ばれることもないけど、確かにお互いを思い合う愛があることを確認できたラストですね。

***

差別、抑圧の苦しみを描きつつ、心の自由さを描いた
差別と抑圧の苦しみが描かれた映画ですが、自虐的な人物はいませんでした。
「私たちみたいな人間は一人で生きていくしかないのよ!」などという呪いの言葉を誰も言いません。
呪いの言葉で苦しみの中に閉じ込めようとする人物はいません。
本来誰もが自由であり心の自由は誰にも奪われないのだと伝えてくれる、傑作映画でございました!!


映画『みんなのヴァカンス』 こんな映画が撮れちゃうってことがわかったら他の映画作家は落ち込んじゃうんじゃないの? 

2022-09-03 | 映画イラスト
みんなのヴァカンス(2020年製作の映画)
A l’abordage
上映日:2022年08月20日
監督 ギヨーム・ブラック
脚本 ギヨーム・ブラック カトリーヌ・パイエ
出演者 エリック・ナンチュアング サリフ・シセ エドゥアール・シュルピス アスマ・メサウデンヌ アナ・ブラゴジェヴィッチ リュシー・ガロ マルタン・メニエ セシル・フイエ ジョルダン・レズギ イリナ・ブラック・ラペルーザ








目次

  1. こんな映画が撮れちゃうってことがわかったら他の映画作家は落ち込んじゃうんじゃないの?
  2. 人物がとにかく自由
  3. 以下は加瀬亮さんの言葉
  4. 人種差別

こんな映画が撮れちゃうってことがわかったら他の映画作家は落ち込んじゃうんじゃないの?

っていうくらいにずっと奇跡でした。
アドリブも多いとのことなんですがそれが全然わざとらしくない。アドリブと台本通りのシーンに全く差を感じない。
画面の奥に映るモブ一人一人も自然。
モブにありがちな固さがない。ヴァカンスに来た観光客の一人一人にしか見えない。
画角があるのがもったいなかったです。この画面の外で行われていることにもきっと物語があっただろうと思える映画。
全然閉ざされていない。

人物がとにかく自由

物語の流れ上必要なセリフを言うためだけの人物、みたいなのが1人もいない。人物が物語に消費されていない。
観客に好かれようなんて思っていない言動をしていく。
(だけど嫌いにはなんなよね、この人たちを)
一番好印象であろうシェリフもよく考えてみたら人妻に近づくヤバいやつだし、フェリックスの話では「いつも彼氏持ちや旦那持ち」を相手にしているやつみたいだし、ストレートに心優しいとは言い切れない人物。
以下は加瀬亮さんの言葉
「簡単に言っちゃえば不倫なんだけど、エレナにしても結婚して子供を産んで夫の無理解に苦しむという経験を経なければシェリフの魅力には気づかなかったのでは。」
とユーロスペースでのトークショーにいらした加瀬亮さんが言っておられました。
この映画を見て「え、これ不倫じゃーん!不倫を擁護する映画だ!」と怒る人はいないのではないでしょうか。
人物と物語を丁寧に描いてくれていることで、その先の人間らしさを観客は受け取ることができる。


人種差別

主役の黒人俳優2人は「黒人であることを強調したくない」と映画作りの前に主張していたそう。
監督としては、あたかも人種差別がないような世界を描くのはまた不自然である的なことでこの映画では差別描写を幾つが盛り込んでいます。
が、どれもうっかりしていると気づかない程度。
差別を描くことがテーマではないけど、差別を描かないこともまた映画としておかしい、的なこともパンフに書かれてました。

(詳しくはパンフを参照)

例えば、嘘をつかないと休みを取れない状況であるとか、相乗りアプリに普通に黒人男としてアカウントを作っていたら誰も乗せてくれないから女性のふりして偽垢作る必要があったとか、そもそも車を持ってないとか電車賃が出せないとか、フランスであっても黒人として生活するのが大変であることが実はじわじわと描かれている。
ただ上記の全てがコメディシーンとして活かされているとことがこの映画の豊かなところ。
また、主役の黒人青年2人にも白人に対する差別意識がある。そもそも店長は正直に言えば休みをくれるタイプの人だったし、シェリフが高学歴エスカレーターを降りたのは「白人ばかりの学校はいけ好かない」という思い込みがあったから。

実は誰しもに思い込み(ものによっては差別と言えるレベルの)があって、この映画の中でそれらが少し緩和されていく。
群像劇とも言えるくらいにそれぞれの物語が勝手に動いているけど、大きな枠としてそれぞれが囚われていたものから少し自由になるという点で共通している。
だからこそ見終わった時に爽やかな気持ちになったんだと思う。
割とクズ人間ばかり出てきていたのに彼・彼女らを好きになってまた会いたくなっちゃうのは、この映画を包む力強い明るさがあるからだと思います。



映画『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』 シリーズ初の女性悪役 サヨナ・サントス最高でしたね 

2022-09-03 | ネタバレあり
ジュラシック・ワールド/新たなる支配者(2021年製作の映画)Jurassic World: Dominion
上映日:2022年07月29日製作国:アメリカ
監督 コリン・トレボロウ
脚本 エミリー・カーマイケル コリン・トレボロウ
出演者 クリス・プラット ブライス・ダラス・ハワード ローラ・ダーン ジェフ・ゴールドブラム サム・ニール ディワンダ・ワイズ マムドゥ・アチー B・D・ウォン オマール・シー イザベラ・サーモン

目次

  1. シリーズ初の女性悪役 サヨナ・サントス最高でしたね〜
  2. 知的層にも安心して楽しんでもらえるパニック映画
  3. これでいい、これがいい
  4. 一番は1。二番は今作。
  5. 以下ネタバレありです
  6. 何にも問題解決してない
  7. 映画として面白い
  8. マルタ島でのチェイスシーン
  9. 悪役サヨナ・サントス
  10. 翻ってマルタ島でのチェイスシーン


シリーズ初の女性悪役 サヨナ・サントス最高でしたね〜






知的層にも安心して楽しんでもらえるパニック映画

先月ジュラシックシリーズの1〜5を見直してました。
ジュラパ・ジュラワまとめ|フクイヒロシ(映画垢)|noteジュラパ・ジュラワまとめnote.com
このシリーズが目指したものは「知的層にも安心して楽しんでもらえるパニック映画」。
パニック映画なんかを見て楽しんでいるようなバカだと思われたくない知識層に「この映画は知的なんですよ〜」という雰囲気を纏わせてあげることで安心してパニック映画を見てもらおう、という映画。
映画の冒頭でDNAとかカオス理論とか高知能的な単語を出したり、白衣来た人たちが実験道具を持ってる映像写したりして、ちゃんと理屈は通ってますよ感を出しておくのがこのシリーズの通例。
実際はDNA操作もカオス理論もただただ言ってるだけ。。


これでいい、これがいい

高尚さや重厚さを出そうなんてこれっぽっちも思っていない、素晴らしいじゃないですか。
恐竜出てきて「ワーッ!」ってなって、生命とか環境の話も出てきてなんかちょっと頭使った気がする感じで映画を終えられる。
作り手がちゃんとこのシリーズのゴールがちゃんとわかってる。素晴らしいのよ、この潔さ。


一番は1。二番は今作。

最高なのは1ですね。壮大なロマンとスリルと夏休みの自由研究レベルの疲れない知的さ。
普及の名作と言っていいでしょうよ。
次に良いのが今作『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』。
心配してたんですよ。ラストだから変に気合い入れて高尚さや重厚さ出してきたらどうしようかと。
ごめんなさい、心配無用でした。このシリーズのゴールを続編の中で一番わかっている作品でした。

以下ネタバレありです








にも問題解決してない

この映画始まった時と終わる時で何にも解決してないですからね。
「共存はできるはず」って勝手に言うだけですからね。。
「どのように共存できるようにするか」が重要なのに全くそんな話出てこない。気合いの問題。
屋外の結婚式の最中にプテラノドンが新郎をさらっていく危険性は永遠に続くわけですよ。な〜んにも変わってないの、映画始まった時と。
良いよね、でも。だって恐竜は絶滅したもん。恐竜との共存方法なんて考えなくて良いんですよ。


映画として面白い

スリラーなんですよ。「恐竜に殺されちゃうかも〜」っていうスリルが一番のポイント映画。
その点で言うと(1を除いて)一番スリルがありました。
要因は、マルタ島でのチェイスシーンと悪役サヨナ・サントス。
マルタ島でのチェイスシーン
どうしたっていうくらいに素晴らしいチェイスシーン。
実は、恐竜がすぐそばまで来てる!っていうスリルシーンは上手かったんですが、動きのあるシーンはこのシリーズは苦手だったんです。
あと、トレーラーが落ちちゃう!とかガラスが割れちゃう!とかもハラハラドキドキしたけど、恐竜関係ねーので。
今作のチェイスシーンはちゃんと恐竜(アトロキラプトル四姉妹ちゃん)も絡んでるし、良かったね。


悪役サヨナ・サントス

サントスがかっこいいし面白いし極悪非道でとても良い。
サントスはアトロキラプトル四姉妹ちゃんたちを飼ってまして、サントスが殺したい相手にレーザーを照射するとラプトルちゃんたちが「アイツね!」ってな感じで殺しにかかる、というシステム。
どんなに追い詰められてもサントスはピッてやればいいだけ。卑怯。ずるい。カッコイイ。
で、ほんとに殺されちゃうんだからサントスはマジで極悪なんですよ。
翻ってマルタ島でのチェイスシーン
ここでまたチェイスシーンを褒めます。
このチェイスシーンが緊迫感が強くて、ラプトルちゃんたちも割と強くて賢くてしつこかったのでマジで殺されるんじゃないかとすら思えました。
ジュラシックワールドでダメなとこは、主役側は絶対に死なないと決定しているところ。どんなに危機的状況を作っても「どうせこいつら死なないし骨折さえもしない」とわかっちゃってるからシラける。
ただこのチェイスシーンは素晴らしかった。
で、ここで「殺されるかも!」っていう緊迫感があったからこそサントスの凶悪性(ほんとに殺すつもりだった)ってのがわかって、両者が高め合っている素晴らしいシークエンスなのよ。


女性活躍

ジュラワではブライス・ダラス・ハワードが活躍してますが、実はあまりセリフは多くない。
映画において女性キャラクターのセリフ量が男性キャラクターに比べてものすごく少ない。
という問題があるんですが、今作は女性たちが活躍してますし(パイロットのケイラもカッコよかったね!)、割と喋っていたと思います。


興行成績

『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』の国内の興行成績は60億弱程度。
ジュラワの中ではだいぶ低い。
シリーズ通しても下から2番目に低い(一番下は3)。
じわじわと「そんなに面白くないよね……」ってのがバレてしまったんですかね。。
ま、しょうがないですよ実際そんなには面白くないから。。