これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

清水寺の怪人

2012年02月19日 21時15分41秒 | エッセイ
 2009年12月に、娘を連れて京都に行った。
 外しちゃならない清水寺に着くと、さすがにすごい人ごみである。修学旅行生に熟年夫婦、学生風のグループや団体客、その他大勢が、わんさと押しかけていた。日本人だけでなく、金髪碧眼の白人や、サリーをまとったインド人、アジア人なども目に入る。娘と手をつなぎ、はぐれぬように気をつけた。
「お母さん、ちょっと、あれ見て!」
 そんな状況の中でも、異様な目立ち方をしている人がいる。白ブラウスの襟にはリボン、白いスクールセーターを重ねて、見た目は女子高生だ。しかし、茶色に染まったロングヘアーが縁取る顔は、どう見ても50代のオジさんである……。化粧はしているが、隠し切れないヒゲの黒さが目立ち、ファンデーションはシワでひび割れている。
 それなのに、口角を少々上げて、わずかに微笑んだ表情を崩さない。姿勢もモデル立ちで、多くの人に見られることを意識しているのだろう。丈の短いチェックのスカートからは、筋肉の落ちた絶対領域がのぞき、ルーズソックスを履いている。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 多くの人が彼の姿に衝撃を受けるが、「変なものを見た」という表情を浮かべ、無言で通り過ぎていく。だが、修学旅行の女の子集団は違う。エセ女子高生を見たとたん、大きな悲鳴や笑い声をあげ、騒ぎとなるのだ。
「なにあれ、キッモー!!」
「マジ!? マジ!?」
「写メ撮んなきゃ」
 怖れを知らない少女たちは、はしゃぎながら彼のほうへ近づき、携帯のシャッターを押す。きっと、彼女たちの思い出は、清水寺でも三十三間堂でもなく、エセ女子高生なのだろう。

 去年、娘も修学旅行で京都に行った。しかし、彼の姿はなかったそうだ。
「別に見たいわけじゃないし。一回見れば十分だよ」
「まあ、それもそうね。ほら、コート着ていかないと寒いよ」
「やだ。このコート、丈が長くてダサいんだもん」
 中学校への登下校用として、紺のダッフルコートを買ったのに、娘は気に入らない。この寒さでも、制服にマフラーを巻いただけで家を出る。他の生徒は皆、丈の短いコートだから、恥ずかしいのだという。暖かいほうがいいだろうという親心が、裏目に出てしまった。



 ほとんど着てもらえなかったから、3年経っても、コートは新品のようだ。このまま、来月には卒業してしまう。思いついて袖を通してみると、私にピッタリだった。

 いいじゃん! ちょうどダッフル持ってないし、もらっちゃおうっと♪

 40代半ばにして、スクールコートは犯罪かもしれないが、さほど目立たない。防寒機能もしっかりしているから、活用しない手はないだろう。さらに、後押しするようなささやきが聞こえてくる。

 清水寺のあの人に比べれば、可愛いもんよ。大丈夫。

 強烈なものを目にしたおかげで、私の感覚も狂ってしまったようだ。
 コートの裏には、名前を書く場所があるが、何も記入されていない。



 じゃあ、「砂希」と書いちゃおうかな……。



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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (12)
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