デ某の「ひょっこりポンポン山」

腎がんのメモリー、海外旅行記、吾輩も猫である、人生の棚卸しなど。

吾輩も猫である 45 ( 或る弔辞 )

2014-03-29 21:37:46 | 吾輩も猫である
 吾輩は主人の日記を時々読む。愚痴や出来もしない夢が綴られている。が、稀に、ごくごく稀に、興味をそそられることも無いではない日記も有るにはある。「閑話休題」は主人のカテゴリーであるが、「吾輩も猫である」の閑話休題として転載する。

   【此頃なぜかお気に入りの主人の椅子の上】

【若干の前置き】 主人の前任〇〇さんは2008年4月1日、副腎がんで亡くなった。以下その葬儀「お別れ会」について記されたものである。「彼女」とあるのは主人の前任の亡くなった〇〇さん、親しい人の間では「〇っちゃん」と呼ばれた女性である。
 翌2日、「お別れ会」で友人を代表し弔辞を読んだのは彼女の学生時代の同期、〇〇大学長。主人「ペーパーなしに語られた弔辞ゆえ曖昧だが記憶をたどり記した」と。

 弔辞

 〇っちゃん、今日は頑張って泣かんと言うから、マジメに聞いてくれ。

 〇っちゃんが一時退院して入ってたホテルのスウィートルーム、なんちゅう豪華な部屋やったんや。「一晩でええから泊めてくれ」言うたら、あんた、ベッドがない!って。それでオレ、「あんたのベッドで寝てやるから」言うたら、「私にはその気はないっ」。「オレかてその気はない」。そう言うて、あとは二人で大笑いやったなぁ。

 夜、急に〇っちゃんに会いたくなって、「今から行ってもええか?」って電話したら、 「来てもええけどイチゴのケーキ買って来な、部屋入れへんで!」って。

 去年のクリスマスイブ…。例によってオレの家でやるパーティに〇っちゃんも来てくれたな。ええんか?言うたら、ええねん!って。その日、アンタいっぱいみんなと写真とってたな、ニコニコ笑いながら…。お別れ写真のつもりやってんなぁ。

 〇っちゃんのホテルの部屋で開いた年末の忘年会には、オレ、行けへんかった。すると夜中に、「早よ来い」って。しかも「お酒が足りひんからワインと焼酎もってこい」。オレ、ビンテージもんのワインと幻のナントカ言われる焼酎もって行った。あたりまえやけど、オレ、ちっとも惜しい思わんかった。


   【亡くなる少し前のある出来事を報じた朝日夕刊】

 続きはなく、行を開けて「もう、そのあとは思い出せない。涙でボロボロやった」と。
 その日から3年、2011年4月1日の主人の日記にはつぎのように記されている。

 新規採用の100人余に彼女の話をした。彼女が好きだった川崎洋「いま始まる新しい今」を朗読した。20~30人くらいの表情に、心が伝わったことを感じた。

 翌年も、翌々年も、同様のことを話した。どうしても彼女のことに触れないではいられなかった。今年の4月1日は、これがたぶん彼女について話す最後になると思っていた。

 が、彼女のことは話さなかった。3月11日、大震災に襲われた東北の人々のことを話した。卒業式を、入学式を、迎えることなく逝った子ども達のことを話した。

 ほんとはもう一回、彼女の話をしたかった。けどもうおしまいにする。大震災の話をすることにきめた。それでも大震災同様、彼女のことは忘れへん、いつまでも。


 以上である。主人は結局その年の暮れに辞任、翌2012年以降4月1日に話す機会はなくなった。なくなったが、今年もまた一人書斎にこもり誰にともなく話すことだろう。

[ 追記 ]
 〇〇さんは亡くなる10日ほど前から意識がなくなり始めたそうである。まだ意識があった或る日、桜が大好きだった〇〇さんは「もう一度、桜が見れるかなぁ。もう一度、桜を見たいなぁ」と仰った由。棺には友人から添えられた一枝の桜が納められた。

   
               友人QPによる「夢さくら」

  【補遺】… 2023.3.26 記
      〇〇さん。親しい者は「延(のべ)っちゃん」と呼んでいました。
      過激な学生運動歴とともに 社会に出てからもその片鱗がうかがわれました。
      このブログを記してから9年、そしてのべっちゃんが旅立たれて15年が経とうとしています。
      あなたが好きだった桜が咲く時季まではまだひと月あまりあります。

          


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 【過去ログ目次一覧】
 吾輩も猫である~40 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/58089c94db4126a1a491cd041749d5d4
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 腎がんのメモリー http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/bee90bf51656b2d38e95ee9c0a8dd9d2
 旅行記 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/23d5db550b4853853d7e1a59dbea4b8e
 ごあいさつ http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/7de1dfba556d627571b3a76d739e5d8c

12 コメント

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時を同じくして・・・ (michi)
2014-03-30 06:32:09
なんとなく憂いていた方を知り胸キュンです。
桜には本当にいろいろの想いが詰め込まれているのですね
今朝も雨音が聴こえております。
今ブログの友も、周りの友も不調で病気と闘っているいる人が多いです。
そしてどうゆう訳か最近逝った人を沢山思い出します

書きたい事は沢山ありますが、貴方様の(*^。^*)
博学の前に何も書けない委縮した私が居ます
追々地が出るとは思われますが・・・・
今日はこれで失礼します(笑)
ノックターン、心に染み入りました
ありがとうございました。
返信する
カンパネラ (デブと某医)
2014-03-30 08:52:47
michiさん

おはようございます。
こころにしみるコメント、ありがとうございました。

> なんとなく憂いていた方を知り胸キュンです。

michiさんと同じく私も一昨日、眼科を受診しました。
4月中旬に黄斑上膜と白内障(左眼のみ)を手術・・・もの憂い気分でした。

> 桜には本当にいろいろの想いが詰め込まれているのですね

私自身はほんとうは満開の桜は好きではありません。
かつてなんども!「サクラチル」の電報が届いたこともありますが(笑)
寧ろ花びらが地面を敷き詰め葉桜となった光景にこそこころ魅かれます。

> 今朝も雨音が聴こえております。
> 今ブログの友も、周りの友も不調で病気と闘っているいる人が多いです。
> そしてどうゆう訳か最近逝った人を沢山思い出します

こちらも昨夜から雨模様となりました。
私もここに記した人をはじめ、
同期の友(今秋、友人らと山口へ墓参します)、直属の上司だった人など、しきりに…。

> ノックターン、心に染み入りました

こちらこそKOKIA「ありがとう」ございました。
辻井伸行「カンパネラ」をおくります。
演奏後の拍手はまるで聴衆が鐘を打ち鳴らす様です。
http://www.youtube.com/watch?v=8EaXf6fOFnA
返信する
またまたお邪魔します (michi)
2014-03-30 09:13:50
腎がんのメモリーをいっきに読ませて頂きました。
京都の病院まで行かれたのでしょうか?
懐かしい名前をみつけました
「二十歳の原点」もうほとんど思い出す事もありませんでした。
青春の蹉跌とか・・・・何だか遥か彼方のように思います。
「カンパネラ」は大好きな曲です。
ありがとうございました
返信する
お邪魔しました。 (てん)
2014-03-30 11:05:07
小豆島を見つけて下さってありがとうございました。
こちらに伺って、人の構成がわかりました。
私の連れ合いも二度がん患者となり、他界しました。
生きることを楽しみながら、逝きました。
闘病日誌も書き、書けなくなってからは続きを私が書きましたが、そのノートは今も眠ったままです。
小豆島に目を向けるようになったのは自分が立ち直るためでした。
我が家の桜も昨日から一気に咲き始め、今日は雨と風に打たれています。
私は桜を見ると悲しくなります。
そのわけを口にすることはありません。でも今にそのことも誰にも笑いながら話せる気がします。
初めてですのにおしゃべりが過ぎました。
これから、ゆっくり読ませていただきます。
返信する
いつでもなんどでも… (デブと某医)
2014-03-30 11:47:00
michiさま

> 腎がんのメモリーをいっきに読ませて頂きました。
> 京都の病院まで行かれたのでしょうか?

高校の同期が泌尿器科医のため、彼の出身医大の後輩を紹介して貰いました。
友人も見舞いに訪れ主治医とも話し、それだけでも安心感がありました。
なお、大阪府の北部にいますので、京都までJRでも私鉄でも20分程・・・近いんです。

> 懐かしい名前をみつけました
> 二十歳の原点・・・青春の蹉か・・・何だか遥か彼方のように思います。

昔っから!昔の話をする癖がありました(笑)
誰にとってもそう!でしょうが、青春は生涯の「原点」のように思います。

> 「カンパネラ」は大好きな曲です。

F.ヘミング、S.ブーニンなどそれぞれ見事なまで異なる演奏、
でも私には辻井伸行さんのピアノがいちばんしっくりとどきます。
またいつでもお訪ねくださいまし。
返信する
てんさんに (デブと某医)
2014-03-30 12:35:52
てんさん

お訪ねくださりありがとうございました。
「花〇てん」という名の友人(「語り」の仕事をしています)がいますので・・・

> 小豆島を見つけて下さってありがとうございました。

袖すりあう・・・ご縁、嬉しく思いました。
大阪にいますし、四国、淡路島には何度か行きましたが、なぜか小豆島は遠く・・・。

> 連れ合いも二度がん患者となり、他界しました。
> 生きることを楽しみながら、逝きました。

がんも「不治」から「治る」病になりつつあります。
しかしやはり手ごわいことも奥の深いことにも変わりはありません。
二度闘かわれながら生きることを楽しまれたおつれあいに
こころから敬意を表し、安らかなれとお祈り申し上げます。

> 闘病日誌も書き・・・そのノートは今も眠ったままです。
> 小豆島に目を向けるようになったのは自分が立ち直るためでした。

一歩づつ、少しづつ…。
おこころの在りように添っておすすみください。

> 我が家の桜も昨日から一気に咲き始め、今日は雨と風に打たれています。

こちらも今朝は一時烈しく降りましたが、今は小やみになりました。
いつもの私は、雨でもアノラックでスロージョギングなどしますけど、
昨日今日は少しこころが塞ぎ・・・引き篭っています(笑)

> 私は桜を見ると悲しくなります。
> そのわけを口にすることはありません。
> でも今にそのことも誰にも笑いながら話せる気がします。

桜には華と翳りがいっしょに宿っているような気がいたします。
人のこころもそう!なのかもしれません。
「機が熟す」と言う言葉がありますように、そのときが訪れるまでどうぞゆるやかに・・・。

> 初めてですのにおしゃべりが過ぎました。
> これから、ゆっくり読ませていただきます。

ありがとうございました。
「お邪魔します」などと仰らずどうぞお気軽にお訪ねください。
てんさんのますますのご活躍とご健勝そしてご健筆をお祈りします。
返信する
Unknown (Anne)
2014-04-01 09:57:40
桜の季節になると必ず自分に思うことがあります。
美しい桜を見れるのは有限ってこと!
たとえ健康でも、必ず死ぬのが生きているものだから
春も有限で、寿命を設定して逆算すると、その回数が少ない!
設定した寿命どおりじゃないかもしれないから尚更ですよね!

そうやって食事も時として、3倍したら何回か計算出来るからやってみます。
そうすると「今」がとても大切で愛おしく感じて、
今日、仕事なんかサボってでも行きたいところには行ったり!
そうして生きるようにしています。
楽しむために生まれて来たから!

こういうお話を拝見させて頂くと、また改めて今の大切さを感じさせて頂けます。
返信する
生きているだけで・・・ (デブと某医)
2014-04-01 10:52:23
Anneさん

おはようございます。
思いゆたかにあふれるコメント、ありがとうございました。
窓に春のあたたかな光がさし、やさしい風がとどきます。
きょうからもう4月なんですねぇ。

> 桜の季節になると必ず自分に思うことがあります。
> 美しい桜を見れるのは有限ってこと!

友人のメールに「ブログ、暗い話題ばかりは、ダメよ」とありました。
そうやなぁ、ちょっと暗いなぁ、明るい話をしなきゃ…と思っていたところに、
昨夜、もう寝ようとした時、四十数年来の友人の訃報がとどきました。
医師は「今年の桜はみられないでしょう」と仰っていたそうですが、
「後三日…」と言われて退院し帰宅する車の窓から「まっ白に咲く桜をみた」そうです。
Anneさんのコメントに今あらためて胸がつまります。
ごめんなさいね、暗い話はダメ!と思っていたのに・・・。

> 「今」がとても大切で愛おしく感じて、
> 仕事なんかサボってでも行きたいところには行ったり!
> そうして生きるようにしています。楽しむために生まれて来たから!

確かに、そう思うと・・・楽しいこと幸せなこと、いっぱい!ありますね。
かつて大病を患った友人が「生きてるだけで丸儲け」と・・・。
言葉のアヤ!だと思っていましたけど、いま、「ほんまやってんなぁ」と思います。

さて今朝の本田圭佑選手、いいアシストもあったけど絶好のシュートをはずしガックシ!
まぁ、ミランでプレーしてるだけで丸儲け!と言ったところでしょうか(笑)

ではでは・・・。
ありがとうございました。Anneさんのますますのご活躍をお祈りします

返信する
素敵なお話しをありがとうございます。 (SORA)
2014-04-01 20:46:25
季節が巡るたび思い出す事が多くなってきました。

春の桜をみれば・・・
新緑の季節には・・・
木々が赤や黄色に染まる季節には・・・
白い雪が空から舞い降りれば・・・

何かを見て誰かを思い出す時、きっと、その人は姿はなくとも傍にいるんだよ。そう誰かが言っていました。
デ某さんが、前任の〇ちゃんを思い出される時には、デ某さんのお隣で〇ちゃんが微笑んでらっしゃる事でしょう。

新入社員に混じって私もデ某さんのお話しを聞いてみたかったなぁ~デ某さんのお話し。。。
しかし新入社員100人もの前でお話しするって!凄いですね。
私は、人前で発表とかお話しするのは大の苦手でドキドキして声が震えそうになってしまいます。いやいや震えてるかもしれへんわ~(笑)大勢の前で堂々とお話し出来る人、尊敬してしまいます。
返信する
人生の扉 (デブと某医)
2014-04-01 21:45:55
SORAさん

こんばんは。
素敵なコメント有難うございました。

> 季節が巡るたび思い出す事が多くなってきました。

『春がまた来るたび/ひとつ年を重ね/目に映る景色も/少しずつ変わるよ・・・」
竹内まりやさん「人生の扉」を思い浮かべ、「SORAさんの雰囲気に似てるかも」と・・・。

> 春の桜をみれば・・・新緑の季節には・・・
> 木々が赤や黄色に染まる季節には・・・白い雪が空から舞い降りれば・・・

そして、人生の景色・・・時代の景色・・・心象風景・・・いつも新しい世界・・・。
人生では知らず知らずなんども私たちは生まれかわっているのだと思います。

> 何かを見て誰かを思い出す時、きっと、その人は姿はなくとも傍にいるんだよ。

そのことをほんとうに深く・・・実感する瞬間がありますね。
彼女が亡くなったとの電話に深夜、病院(ホスピス病棟)まで車をとばしました。
年度末~年度初の慌ただしい日程が走り手帳には彼女のことは一切記されていません。
しかしその刻々の総てがそれ以後の何かの出来事に生々しくふっと甦ります。

> 新入社員に混じって私もデ某さんのお話しを聞いてみたかったなぁ~デ某さんのお話し。。。

詳しく記すのは憚られますが、
志高くこの道を選んだ若い人たちばかり・・・いつも高ぶる気持ちでお話をしました。
明日を担う若い人たちであり、更に未来を担う世代を育む人たちでもありました。

> 人前で発表とかお話しするのは・・・ドキドキして声が震えそうになってしまいます。

私もいつもそうで、どきどき、時にわくわく・・・しなくなったらお仕舞だと思っていました。
ちょうど4年間、荷の重い、濃密な、しかし時にわくわくする4年間でした。

今夜は、彼女を思い、そして昨夜逝ってしまった四十年来の友を偲ぶ夜になりました。
彼女と彼の人生を重ね、また新しい人生の扉を開けてまいりたいと思います。
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