東京新聞 2020年10月13日付社説
「待遇格差判決 非正規差別を正さねば」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/61699?rct=editorial
賞与や退職金…正社員と非正規労働者との間にある待遇差を高裁が「不合理」としたのに、
最高裁は覆す判断をした。
「同一労働同一賃金」の制度下では、もっと非正規への差別が正されるべきだ。
「私たち非正規を見捨てた判決だ」と原告の女性は言った。
確かに旧労働契約法20条では、有期雇用による不合理な待遇の格差を禁じている。
だが、問題は不合理な待遇差とは何か、その範囲もあいまいなことだ。
原告の一人は医科大でアルバイトとして採用された。
1年契約の秘書で、教員のスケジュール管理などの事務を担当した。
ほぼフルタイム勤務だったのにボーナスはなかった。
大阪高裁は「不合理で違法だ」として、「正職員の60%を下回らない」という賞与額も示した。
だが、最高裁はこれを見直し、ボーナス分を棄却してしまった。
「正規職員は業務内容の難易度が高く、人事異動もある」との理由だ。
別の原告らは地下鉄の売店で働く女性たち。
契約社員で約10年も働いたのに退職金がもらえなかった。
東京高裁は「長年の勤務への功労報償の性格があり、不合理」と判断していた。
正社員と同じ算定法で少なくとも25%は支払われるべきだとも…。
だが、最高裁は「不合理とは言えない」と覆した。
いずれのケースも格差是正に至らなかったのは極めて残念である。
法の趣旨は「有期雇用か否か」で労働条件に待遇格差を認めない。
そのため雇用主側は労働者個人の実績や責任の重さ、転勤の有無などに応じて格差が生じる
~そう説明したりする。
最高裁判決はまさに雇用主側に立った見方だ。
だが、このまま非正規への差別が温存されていいはずがない。
日本では非正規の賃金は正規の60%といわれる。
フランスだと90%、ドイツだと80%とも…。
少なくとも西欧レベルに賃金は引き上げるべきである。
退職金も「長期雇用への動機づけ」だと説明されたりするが、
賃金の後払いの性格もあるはずだ。
非正規雇用者数は約2200万人、労働者の実に38%だ。
賞与や退職金ばかりか、夏季休暇など福利厚生にも厳然と差別があってはならない。
「同一労働同一賃金」の制度は、非正規労働者の待遇改善を図るための国の政策である。
政府も企業も是正を進める責任を負っていることをかみしめてほしい。
-------------------------------------------------------------------------------------------------
朝日新聞 2020年10月14日付社説
「待遇格差訴訟 是正への歩み止めるな」
https://www.asahi.com/articles/DA3S14656984.html?iref=pc_rensai_long_16_article
訴えが退けられたからといって、働く環境の改善に向けた歩みを止めてはならない。
非正社員に対する待遇格差の当否が争われた二つの裁判で、最高裁はきのう、
企業側が賞与や退職金を支払わなかったのは不合理とまではいえないとする判決を言い渡した。
いずれについても、正社員との間で、
仕事の内容や責任、配置転換の有無に一定の違いがあることや、
それぞれの企業で人員整理や人事制度の見直しが行われていたことなどを理由に、処遇の差異を正当化した。
働く者より経営側の事情を重くみた感は否めず、
曲折を経ながらも進んできた格差是正の動きに水を差さないか心配だ。
一方で、今回の結論がすべての労働現場に当てはまると考えるのは大きな間違いだ。
働いた対価の後払いか業績に連動した報酬かなど、
賞与や退職金の性質や算定方法は企業によってさまざまだ。
裁判所がそうした事情を精査・検討した結果、
格差が不合理にあたると判断する場合ももちろんある。
厚生労働省が2年前に定めたガイドラインも、
会社の業績への貢献に応じて支払う賞与については「同一の貢献には同一の支給を」と明記している。
各企業は今回の判決を都合良く解釈することなく、
自社の制度が均衡原則にかなうものになっているか、不断に点検し、必要に応じて見直す必要がある。
今回の退職金をめぐる訴訟では、2人の裁判官が
「企業は労使交渉などを通じて、労働者間で均衡のとれた処遇を図っていくことが法律の理念に沿う」
との補足意見を表明。
非正社員にも在職期間に応じて一定額の退職金を支払うことや、
企業型確定拠出年金の活用に言及した。
労組の姿勢も問われる。
いまや非正規の働き手は雇用されている人の4割弱を占める。
しかし賃金水準は正社員の6割程度と言われ、欧州諸国の7~8割に及ばない。
一人ひとりが確かな生計を営むことが安定した社会につながる。
非正社員の待遇の改善・底上げは、社会全体の要請であることを忘れてはならない。
ところが実際は、非正規で働く人々への理不尽な仕打ちは一向になくならず、
このコロナ禍でも休業手当が払われなかったり、
テレワークが認められなかったりする問題が噴き出した。
誰もが納得できる透明性の高い賃金体系や職場環境の整備・充実は、
企業にとっても、良い人材を確保し、生産性を高めることにつながる。
この国から「非正規」という言葉を一掃する――。
内閣が代わっても、この目標に向けた取り組みの大切さは変わらない。
-------------------------------------------------------------------------------------------------
誰もが安定した暮らしを求めているはずだ。
そのために、人は正社員になりたくて仕事を求める。
しかし、日本社会は依然として「年功序列型」であり、「新卒採用」が最優先される。
そのため、転職雑誌が生まれたとしても、35歳以上に対して扉を閉める会社が目立つ。
何より、大企業のリストラ(退職勧奨&整理解雇)は「一律40歳以上」の形から変わらない。
正社員の求人票を見て応募しても、
年齢を理由に「パート」じゃないと面接しないと言われたことはないか?
そんな社会だから、やむを得ず非正規雇用しか選べない現状がある。
今回の最高裁の判決は、そんな非情な社会をまったく見ていない非情な判決だ。
原告の方が「最低裁判所だ」というコメントに私は同意する。
非正規雇用の方々はその怒りをマグマのような熱を秘めて日々をやり過ごし、
先の杉田水脈議員の差別発言とそれに対する自民党の「門前払い対応」に対しても
次の総選挙で与党たる自民公明党政権に「No ! 」を突き付ける必要がある。
それが出来ないなら民じゃない、ただの「家畜」だ。
「待遇格差判決 非正規差別を正さねば」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/61699?rct=editorial
賞与や退職金…正社員と非正規労働者との間にある待遇差を高裁が「不合理」としたのに、
最高裁は覆す判断をした。
「同一労働同一賃金」の制度下では、もっと非正規への差別が正されるべきだ。
「私たち非正規を見捨てた判決だ」と原告の女性は言った。
確かに旧労働契約法20条では、有期雇用による不合理な待遇の格差を禁じている。
だが、問題は不合理な待遇差とは何か、その範囲もあいまいなことだ。
原告の一人は医科大でアルバイトとして採用された。
1年契約の秘書で、教員のスケジュール管理などの事務を担当した。
ほぼフルタイム勤務だったのにボーナスはなかった。
大阪高裁は「不合理で違法だ」として、「正職員の60%を下回らない」という賞与額も示した。
だが、最高裁はこれを見直し、ボーナス分を棄却してしまった。
「正規職員は業務内容の難易度が高く、人事異動もある」との理由だ。
別の原告らは地下鉄の売店で働く女性たち。
契約社員で約10年も働いたのに退職金がもらえなかった。
東京高裁は「長年の勤務への功労報償の性格があり、不合理」と判断していた。
正社員と同じ算定法で少なくとも25%は支払われるべきだとも…。
だが、最高裁は「不合理とは言えない」と覆した。
いずれのケースも格差是正に至らなかったのは極めて残念である。
法の趣旨は「有期雇用か否か」で労働条件に待遇格差を認めない。
そのため雇用主側は労働者個人の実績や責任の重さ、転勤の有無などに応じて格差が生じる
~そう説明したりする。
最高裁判決はまさに雇用主側に立った見方だ。
だが、このまま非正規への差別が温存されていいはずがない。
日本では非正規の賃金は正規の60%といわれる。
フランスだと90%、ドイツだと80%とも…。
少なくとも西欧レベルに賃金は引き上げるべきである。
退職金も「長期雇用への動機づけ」だと説明されたりするが、
賃金の後払いの性格もあるはずだ。
非正規雇用者数は約2200万人、労働者の実に38%だ。
賞与や退職金ばかりか、夏季休暇など福利厚生にも厳然と差別があってはならない。
「同一労働同一賃金」の制度は、非正規労働者の待遇改善を図るための国の政策である。
政府も企業も是正を進める責任を負っていることをかみしめてほしい。
-------------------------------------------------------------------------------------------------
朝日新聞 2020年10月14日付社説
「待遇格差訴訟 是正への歩み止めるな」
https://www.asahi.com/articles/DA3S14656984.html?iref=pc_rensai_long_16_article
訴えが退けられたからといって、働く環境の改善に向けた歩みを止めてはならない。
非正社員に対する待遇格差の当否が争われた二つの裁判で、最高裁はきのう、
企業側が賞与や退職金を支払わなかったのは不合理とまではいえないとする判決を言い渡した。
いずれについても、正社員との間で、
仕事の内容や責任、配置転換の有無に一定の違いがあることや、
それぞれの企業で人員整理や人事制度の見直しが行われていたことなどを理由に、処遇の差異を正当化した。
働く者より経営側の事情を重くみた感は否めず、
曲折を経ながらも進んできた格差是正の動きに水を差さないか心配だ。
一方で、今回の結論がすべての労働現場に当てはまると考えるのは大きな間違いだ。
働いた対価の後払いか業績に連動した報酬かなど、
賞与や退職金の性質や算定方法は企業によってさまざまだ。
裁判所がそうした事情を精査・検討した結果、
格差が不合理にあたると判断する場合ももちろんある。
厚生労働省が2年前に定めたガイドラインも、
会社の業績への貢献に応じて支払う賞与については「同一の貢献には同一の支給を」と明記している。
各企業は今回の判決を都合良く解釈することなく、
自社の制度が均衡原則にかなうものになっているか、不断に点検し、必要に応じて見直す必要がある。
今回の退職金をめぐる訴訟では、2人の裁判官が
「企業は労使交渉などを通じて、労働者間で均衡のとれた処遇を図っていくことが法律の理念に沿う」
との補足意見を表明。
非正社員にも在職期間に応じて一定額の退職金を支払うことや、
企業型確定拠出年金の活用に言及した。
労組の姿勢も問われる。
いまや非正規の働き手は雇用されている人の4割弱を占める。
しかし賃金水準は正社員の6割程度と言われ、欧州諸国の7~8割に及ばない。
一人ひとりが確かな生計を営むことが安定した社会につながる。
非正社員の待遇の改善・底上げは、社会全体の要請であることを忘れてはならない。
ところが実際は、非正規で働く人々への理不尽な仕打ちは一向になくならず、
このコロナ禍でも休業手当が払われなかったり、
テレワークが認められなかったりする問題が噴き出した。
誰もが納得できる透明性の高い賃金体系や職場環境の整備・充実は、
企業にとっても、良い人材を確保し、生産性を高めることにつながる。
この国から「非正規」という言葉を一掃する――。
内閣が代わっても、この目標に向けた取り組みの大切さは変わらない。
-------------------------------------------------------------------------------------------------
誰もが安定した暮らしを求めているはずだ。
そのために、人は正社員になりたくて仕事を求める。
しかし、日本社会は依然として「年功序列型」であり、「新卒採用」が最優先される。
そのため、転職雑誌が生まれたとしても、35歳以上に対して扉を閉める会社が目立つ。
何より、大企業のリストラ(退職勧奨&整理解雇)は「一律40歳以上」の形から変わらない。
正社員の求人票を見て応募しても、
年齢を理由に「パート」じゃないと面接しないと言われたことはないか?
そんな社会だから、やむを得ず非正規雇用しか選べない現状がある。
今回の最高裁の判決は、そんな非情な社会をまったく見ていない非情な判決だ。
原告の方が「最低裁判所だ」というコメントに私は同意する。
非正規雇用の方々はその怒りをマグマのような熱を秘めて日々をやり過ごし、
先の杉田水脈議員の差別発言とそれに対する自民党の「門前払い対応」に対しても
次の総選挙で与党たる自民公明党政権に「No ! 」を突き付ける必要がある。
それが出来ないなら民じゃない、ただの「家畜」だ。