ものすごく良い意見なので、転載させていただきます。
北海道新聞2017年12月30日付社説
「回顧2017 多様な言論確保する場を」
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/154380?rct=c_editorial
国内、外で混迷と亀裂が深まった。残念ながら、こうくくらざるを得ない1年である。
「米国第一」を掲げるトランプ大統領が就任し、
超大国のリーダーとは思えぬ傍若無人な振る舞いに全世界が翻弄(ほんろう)されている。
北朝鮮は6回目の核実験を強行し、弾道ミサイルの発射を繰り返す。
ミサイルは2度も北海道の上空を通過した。
これに対し、圧力一辺倒の米国に日本も同調するものの、解決の糸口は見えない。
この北朝鮮情勢や少子高齢化問題などを時代がかった「国難」と訴えて、
安倍晋三首相は10月の衆院選に大勝し、政権に返り咲いてから丸5年を迎えた。
首相は経済指標の好転を強調するが、景気拡大の長さが高度成長期の「いざなぎ」を超えても、
一向に実感はわかず、将来への不安や閉塞(へいそく)感は晴れない。
むしろ、今年の流行語大賞に「森友」「加計」問題を象徴する「忖度(そんたく)」が選ばれたように、
長引く「安倍1強」のひずみが国民にも意識されたと言えよう。
■寛容さを失った米国
温暖化対策の枠組み「パリ協定」からの離脱、イスラム圏からの移民制限、
エルサレムをイスラエルの首都と認定―。
トランプ米政権の発足以来、次々に打ち出される極端な政策に、多くの人が不安を抱いたろう。
白人至上主義者と反対派の衝突が流血の惨事となった際、
大統領が両者を同列視する認識を示し、非難されたことも記憶に新しい。
こうした言動が反発を招いても、トランプ氏は意に介さない。
それどころか、批判をうそと決めつけ、口汚く罵倒する。
女優のメリル・ストリープさんが「軽蔑は軽蔑を生み、暴力は暴力を生む」と懸念したように、
対話を拒絶し、他人を侮辱するような権力者の態度は、社会に悪影響を及ぼさずにはおくまい。
米国では差別主義者が行動をためらわなくなったとの指摘があり、人種対立が激化した。
米国が民族や文化の多様性を認め合う寛容さを失えば、分断は世界に波及する恐れがある。
トランプ氏は現実を直視し、軌道修正してもらいたい。
■真摯な議論はどこへ
こうした事態は、日本には無縁と言い切れるだろうか。
特定秘密保護法、安全保障関連法に続き、安倍首相は今年も、国論を二分する「共謀罪」法を数に物を言わせて
強引に通した。
安倍1強の下で、こうした手法が繰り返されるうちに、国会での審議は形骸化し、
真摯(しんし)な議論さえ成り立たなくなっている。
首相自身がやじを飛ばしたり、声を荒らげたりしたが、深刻なのは、ぞんざいな対応が官僚にも広がったことだ。
端的に表れたのは「森友」「加計」問題である。
財務省や文部科学省の担当者の口からは「記憶にない」「記録を廃棄した」といった驚くべき答弁が飛び出した。
官僚は、時には、しゃくし定規なまでに、法律と手続きに忠実であるべき公僕だ。
職務上の誠実さを捨てて口をつぐむのは、首相の意向を「忖度」してのことか、それとも、圧力を受けたせいか。
官僚を含め政府がこぞって、まともな答弁を放棄した。
野党議員だけでなく、その背後にいる国民を軽んじたに等しい。
それは、ひいては国会の権威を損ねることになる。
■民主主義の原点こそ
民主主義は本来、多様な民意を反映させようと努力する手間暇のかかるプロセスだ。
ところが、現状は「決められる政治」「果断な指導力」と称して、
熟議や手続きを省略し、少数意見を切り捨てている。
権力の乱用と指摘されても仕方あるまい。
年の暮れ、米軍基地が集中する沖縄で、看過できない卑劣な出来事が起きた。
米軍ヘリが窓を落下させる事故があった小学校に、「やらせ」「後から建てた方が悪い」といった電話やメールが相次いだ。
沖縄の現実への偏見と悪意に満ちた中傷である。
他人の意見に耳を傾けることなく、ひたすら相手をののしるヘイトスピーチ(憎悪表現)とほとんど変わりがない。
私たちは、こうした不当な圧力を受ける人の声に耳を澄まし、その訴えを伝える努力を続けたい。
多様な言論の場を確保することが、民主主義の原点であり、
権力の乱用に歯止めをかけることにもつながると信じるからだ。
今年のノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏は
「分断の時代に人々がまとまるようなことに関わりたい」と語った。
世界の人々に向けて発せられた切実なメッセージだろう。
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同時に、もうひとつコラムを。
朝日新聞 2017年12月30日付け「天声人語」
君たち、戦争だけは……
https://www.asahi.com/articles/DA3S13296225.html
北海道新聞2017年12月30日付社説
「回顧2017 多様な言論確保する場を」
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/154380?rct=c_editorial
国内、外で混迷と亀裂が深まった。残念ながら、こうくくらざるを得ない1年である。
「米国第一」を掲げるトランプ大統領が就任し、
超大国のリーダーとは思えぬ傍若無人な振る舞いに全世界が翻弄(ほんろう)されている。
北朝鮮は6回目の核実験を強行し、弾道ミサイルの発射を繰り返す。
ミサイルは2度も北海道の上空を通過した。
これに対し、圧力一辺倒の米国に日本も同調するものの、解決の糸口は見えない。
この北朝鮮情勢や少子高齢化問題などを時代がかった「国難」と訴えて、
安倍晋三首相は10月の衆院選に大勝し、政権に返り咲いてから丸5年を迎えた。
首相は経済指標の好転を強調するが、景気拡大の長さが高度成長期の「いざなぎ」を超えても、
一向に実感はわかず、将来への不安や閉塞(へいそく)感は晴れない。
むしろ、今年の流行語大賞に「森友」「加計」問題を象徴する「忖度(そんたく)」が選ばれたように、
長引く「安倍1強」のひずみが国民にも意識されたと言えよう。
■寛容さを失った米国
温暖化対策の枠組み「パリ協定」からの離脱、イスラム圏からの移民制限、
エルサレムをイスラエルの首都と認定―。
トランプ米政権の発足以来、次々に打ち出される極端な政策に、多くの人が不安を抱いたろう。
白人至上主義者と反対派の衝突が流血の惨事となった際、
大統領が両者を同列視する認識を示し、非難されたことも記憶に新しい。
こうした言動が反発を招いても、トランプ氏は意に介さない。
それどころか、批判をうそと決めつけ、口汚く罵倒する。
女優のメリル・ストリープさんが「軽蔑は軽蔑を生み、暴力は暴力を生む」と懸念したように、
対話を拒絶し、他人を侮辱するような権力者の態度は、社会に悪影響を及ぼさずにはおくまい。
米国では差別主義者が行動をためらわなくなったとの指摘があり、人種対立が激化した。
米国が民族や文化の多様性を認め合う寛容さを失えば、分断は世界に波及する恐れがある。
トランプ氏は現実を直視し、軌道修正してもらいたい。
■真摯な議論はどこへ
こうした事態は、日本には無縁と言い切れるだろうか。
特定秘密保護法、安全保障関連法に続き、安倍首相は今年も、国論を二分する「共謀罪」法を数に物を言わせて
強引に通した。
安倍1強の下で、こうした手法が繰り返されるうちに、国会での審議は形骸化し、
真摯(しんし)な議論さえ成り立たなくなっている。
首相自身がやじを飛ばしたり、声を荒らげたりしたが、深刻なのは、ぞんざいな対応が官僚にも広がったことだ。
端的に表れたのは「森友」「加計」問題である。
財務省や文部科学省の担当者の口からは「記憶にない」「記録を廃棄した」といった驚くべき答弁が飛び出した。
官僚は、時には、しゃくし定規なまでに、法律と手続きに忠実であるべき公僕だ。
職務上の誠実さを捨てて口をつぐむのは、首相の意向を「忖度」してのことか、それとも、圧力を受けたせいか。
官僚を含め政府がこぞって、まともな答弁を放棄した。
野党議員だけでなく、その背後にいる国民を軽んじたに等しい。
それは、ひいては国会の権威を損ねることになる。
■民主主義の原点こそ
民主主義は本来、多様な民意を反映させようと努力する手間暇のかかるプロセスだ。
ところが、現状は「決められる政治」「果断な指導力」と称して、
熟議や手続きを省略し、少数意見を切り捨てている。
権力の乱用と指摘されても仕方あるまい。
年の暮れ、米軍基地が集中する沖縄で、看過できない卑劣な出来事が起きた。
米軍ヘリが窓を落下させる事故があった小学校に、「やらせ」「後から建てた方が悪い」といった電話やメールが相次いだ。
沖縄の現実への偏見と悪意に満ちた中傷である。
他人の意見に耳を傾けることなく、ひたすら相手をののしるヘイトスピーチ(憎悪表現)とほとんど変わりがない。
私たちは、こうした不当な圧力を受ける人の声に耳を澄まし、その訴えを伝える努力を続けたい。
多様な言論の場を確保することが、民主主義の原点であり、
権力の乱用に歯止めをかけることにもつながると信じるからだ。
今年のノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏は
「分断の時代に人々がまとまるようなことに関わりたい」と語った。
世界の人々に向けて発せられた切実なメッセージだろう。
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同時に、もうひとつコラムを。
朝日新聞 2017年12月30日付け「天声人語」
君たち、戦争だけは……
https://www.asahi.com/articles/DA3S13296225.html