北海道新聞 2020年1月10日付社説
「2020年の政治 権力のゆがみを正す時だ」
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/381854?rct=c_editorial
今年、東京五輪・パラリンピックが開催される日本は、急速な人口減少が進んでいる。
祭典の後に、持続可能な経済や社会をどう構築していくか。
2020年代に入った国の確かな方向を示すのが政治の責務である。
だが、その課題を負っている安倍晋三政権は、1強政治のおごりとひずみが極点に達している。
権力の私物化を疑わせる数々の問題が指摘されている「桜を見る会」は、昨年の臨時国会閉会後も新たな論点が浮上している。
政権の成長戦略の看板である統合型リゾート(IR)を巡って、汚職事件の捜査が進んでいる。
8年目に入った長期政権の腐臭が漂っている感すらある。
政権に忖度(そんたく)する官僚は懲りずに公文書の廃棄を繰り返す。
国会論議を素通りし駆け足で決まった自衛隊の中東派遣が示すように、立法府の空洞化が著しい。
つまりは、主権者の国民がないがしろにされているに等しい。
民主主義が深刻な危機にある。
権力のゆがみを正し、まっとうな統治を取り戻さなければ、実りのある政策は生まれない。
20日召集予定の通常国会を政治の再生の第一歩にする必要がある。
■空疎な年頭記者会見
安倍首相は6日の年頭記者会見で、社会保障を子育て世代にも手厚くする全世代型社会保障改革を
「最大のチャレンジ」と語った。
この改革の焦点は、一定の所得がある後期高齢者の医療費の窓口での支払いを、1割から2割に引き上げる負担増の議論である。
国民に痛みを求めるなら、欠かせないのは政治への信頼だ。
安倍政権にそれがあるのだろうか。
首相は会見でIR汚職には言及せず、
桜を見る会ではマルチ商法を行っていたジャパンライフの元会長を首相枠で招待したのかどうかについて明言を避けた。
招待状がマルチ商法の勧誘に使われ、結果として被害を拡大させた可能性があることをどう認識しているのか。
何も語らないのは行政の長として不誠実極まりない。
それでいて、桜を見る会で首相の説明が不十分との回答が多数の世論調査結果には
「謙虚に受け止め、丁寧に対応する」と述べた。
どこまで本心なのだろう。
「謙虚」「丁寧」は森友・加計(かけ)問題で何度も聞かされた。
言葉でうわべだけを取り繕う空疎な政権の体質が会見に凝縮されていた。
■改憲解散など筋違い
通常国会で野党は桜を見る会やIR汚職を徹底追及する構えだ。
首相はこれまで質問をはぐらかし、論点をすり替えるごまかしの答弁で審議を不毛にしてきた。
与党は野党の要求を拒み、首相を極力審議に出さない「首相隠し」の国会対応を続けている。
いずれも、断じて再現されてはならない。
行政に監視の目を光らせることは、与野党を問わず国会議員の使命だ。
与党は充実した国会審議の実現に努めるとともに、政権のゆがみを内部から是正する自浄能力を発揮すべきである。
首相は改憲を「私自身の手で成し遂げる」と言う。
だが目標の20年はおろか、来年9月までの自民党総裁任期中の実現も厳しい情勢だ。
発言は焦りの裏返しだろう。
与党内には改憲を争点に年内の衆院解散があるとの臆測もある。
だが、改憲の発議権は国会にある。
首相が権限のない改憲を争点に解散することには、自民党内からも違憲との指摘が出ている。
到底認められるものではあるまい。
■「安倍後」の政策論を
自民党の総裁任期は連続3選までとされており、安倍政権は来年にかけて幕引きの時期を迎える。
政権内には党則改正による4選を支持する声もあるが、
内政・外交とも行き詰まりが目立つ政権の延長より、「ポスト安倍」の政策論議を始める時ではないか。
アベノミクスによる景気回復の実感は乏しいままだ。
外交はトランプ米政権への追随が目に余り、北朝鮮の拉致問題やロシアとの北方領土問題は停滞している。
春には中国の習近平国家主席が国賓として訪日する予定だ。
香港や新疆ウイグルを巡る人権問題、強引な海洋進出に国際社会は厳しい目を注いでいる。
その大国との向き合い方も重い課題となる。
現政権に代わりうる処方箋を描く役割は、自民党だけではなく、野党にも求められている。
多弱を脱し、再び二大政党の一翼を担う選択肢を国民に示す。
年末から立憲民主党と国民民主党が行っている合流協議は、その第一歩という位置付けだったはずだ。
だが、今見えるのは「対等の合流か吸収合併か」といった相変わらず内向きのメンツ争いである。
大局を見失って党内抗争に明け暮れた民主党政権時代の愚を繰り返すようでは、民主政治の危機はますます深刻化する。
「2020年の政治 権力のゆがみを正す時だ」
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/381854?rct=c_editorial
今年、東京五輪・パラリンピックが開催される日本は、急速な人口減少が進んでいる。
祭典の後に、持続可能な経済や社会をどう構築していくか。
2020年代に入った国の確かな方向を示すのが政治の責務である。
だが、その課題を負っている安倍晋三政権は、1強政治のおごりとひずみが極点に達している。
権力の私物化を疑わせる数々の問題が指摘されている「桜を見る会」は、昨年の臨時国会閉会後も新たな論点が浮上している。
政権の成長戦略の看板である統合型リゾート(IR)を巡って、汚職事件の捜査が進んでいる。
8年目に入った長期政権の腐臭が漂っている感すらある。
政権に忖度(そんたく)する官僚は懲りずに公文書の廃棄を繰り返す。
国会論議を素通りし駆け足で決まった自衛隊の中東派遣が示すように、立法府の空洞化が著しい。
つまりは、主権者の国民がないがしろにされているに等しい。
民主主義が深刻な危機にある。
権力のゆがみを正し、まっとうな統治を取り戻さなければ、実りのある政策は生まれない。
20日召集予定の通常国会を政治の再生の第一歩にする必要がある。
■空疎な年頭記者会見
安倍首相は6日の年頭記者会見で、社会保障を子育て世代にも手厚くする全世代型社会保障改革を
「最大のチャレンジ」と語った。
この改革の焦点は、一定の所得がある後期高齢者の医療費の窓口での支払いを、1割から2割に引き上げる負担増の議論である。
国民に痛みを求めるなら、欠かせないのは政治への信頼だ。
安倍政権にそれがあるのだろうか。
首相は会見でIR汚職には言及せず、
桜を見る会ではマルチ商法を行っていたジャパンライフの元会長を首相枠で招待したのかどうかについて明言を避けた。
招待状がマルチ商法の勧誘に使われ、結果として被害を拡大させた可能性があることをどう認識しているのか。
何も語らないのは行政の長として不誠実極まりない。
それでいて、桜を見る会で首相の説明が不十分との回答が多数の世論調査結果には
「謙虚に受け止め、丁寧に対応する」と述べた。
どこまで本心なのだろう。
「謙虚」「丁寧」は森友・加計(かけ)問題で何度も聞かされた。
言葉でうわべだけを取り繕う空疎な政権の体質が会見に凝縮されていた。
■改憲解散など筋違い
通常国会で野党は桜を見る会やIR汚職を徹底追及する構えだ。
首相はこれまで質問をはぐらかし、論点をすり替えるごまかしの答弁で審議を不毛にしてきた。
与党は野党の要求を拒み、首相を極力審議に出さない「首相隠し」の国会対応を続けている。
いずれも、断じて再現されてはならない。
行政に監視の目を光らせることは、与野党を問わず国会議員の使命だ。
与党は充実した国会審議の実現に努めるとともに、政権のゆがみを内部から是正する自浄能力を発揮すべきである。
首相は改憲を「私自身の手で成し遂げる」と言う。
だが目標の20年はおろか、来年9月までの自民党総裁任期中の実現も厳しい情勢だ。
発言は焦りの裏返しだろう。
与党内には改憲を争点に年内の衆院解散があるとの臆測もある。
だが、改憲の発議権は国会にある。
首相が権限のない改憲を争点に解散することには、自民党内からも違憲との指摘が出ている。
到底認められるものではあるまい。
■「安倍後」の政策論を
自民党の総裁任期は連続3選までとされており、安倍政権は来年にかけて幕引きの時期を迎える。
政権内には党則改正による4選を支持する声もあるが、
内政・外交とも行き詰まりが目立つ政権の延長より、「ポスト安倍」の政策論議を始める時ではないか。
アベノミクスによる景気回復の実感は乏しいままだ。
外交はトランプ米政権への追随が目に余り、北朝鮮の拉致問題やロシアとの北方領土問題は停滞している。
春には中国の習近平国家主席が国賓として訪日する予定だ。
香港や新疆ウイグルを巡る人権問題、強引な海洋進出に国際社会は厳しい目を注いでいる。
その大国との向き合い方も重い課題となる。
現政権に代わりうる処方箋を描く役割は、自民党だけではなく、野党にも求められている。
多弱を脱し、再び二大政党の一翼を担う選択肢を国民に示す。
年末から立憲民主党と国民民主党が行っている合流協議は、その第一歩という位置付けだったはずだ。
だが、今見えるのは「対等の合流か吸収合併か」といった相変わらず内向きのメンツ争いである。
大局を見失って党内抗争に明け暮れた民主党政権時代の愚を繰り返すようでは、民主政治の危機はますます深刻化する。