あれは何の映画だったろうか。古い洋画だった。一族の尊厳を守るため、男たちは決闘を行おうとする最中、一族の女たちは心を落ち着かせるため一部屋に集まる。
一人の女がランプを灯し、書を朗読する。他の女たちはその朗読を聞きながら、手仕事を行うのである。あるものは編み物を、あるものは繕い物を黙々と。
不安や悲しみを振り払おうとする女たちの心情が鮮やかに現れていて何故か心に残っている映画の一シーン。
そう。手仕事というものは有り難いものだ。特に編み物など単調な手の動きを繰り返すだけでなく、編み目を増やしたり減したり、要所要所で気の抜けない作業を伴ってくる。心を気にかかる所に集中させたり、また、反対に現実の編み物に呼び戻してくれたりして、まさにバランスを保ってくれる。
昔、既製品の少ない時代、物資の少ない時代、娯楽の少ない時代、大家族で暮らしていた時代、家中の女たちは一部屋に集まって火を灯しみんな手仕事をしていた。人の噂話、悪口、悩み事などを話ながら、聞きながら。
既製品があふれている現在、手仕事は大変な贅沢なこととなった。材料費は高い、忙しい現代人には時間は貴重なものになってしまったからだ。そしてまた、心のバランスを取りにくい世の中になったとも言えるかも知れない。
木枯らしが吹く頃、暖かい部屋に母、姉妹たちと集まり、編み物等、手仕事をしながら、本格的な冬に備える。そんな暖かい時間は遠い昔のことになってしまった。