先日の話で思い出したA子さん。
A子さんは私より2,3歳年上だった。
彼女も不妊に悩んでいた。
ただ、彼女は私と違って熱心に不妊治療を受けていた。
けれども何の進展もなく時間ばかりが過ぎていた。
お互い不妊に悩む者同士で何となく愚痴をこぼしあうようになった。
彼女は義父母から早く孫をとプレッシャーをかけられていた様子。
治療中にA子さんのご主人の方にも問題点があるかもと指摘されたらしい。
男性も歳を取ると精子の数の減少や動きが悪くなり妊娠させる能力が弱まることがあるらしい。
A子さんは義父母に不妊はA子さんのせいだけじゃなく、あなたたちの息子にも原因があるとわかって欲しいが、そんなこと告げる勇気はないと言っていた。
それから暫くしてA子さんはA子さん夫婦の年齢を考慮して人工受精をすすめられた。
ところがご主人はそこまではしたくないとの考えだったらしい。
A子さんは大いに不満だったが渋々ご主人に従い不妊治療をやめることになった。
それからのA子さんはちょっと言動が変わっていった。
母親になった女性に対して攻撃的な発言をするようになった。勿論、私と二人だけの話の時だけだが。
「子供を産んだだけで偉そうな顔をしている」だの「あの分娩台に乗っただけあってどんなことにも恥じらうこともなく図々しいおばさんになっていくわよね」だの「自分の頭は空っぽなのを棚にあげ子供の教育に必死になってみっともない」だの。
言わんとすることはわかる気がするし、全否定できない。
子供を産んでない女はなんたらかんたらと言って蔑む女性は全て産んだ女性だし、ちょっとのお返しの発言ぐらいいいじゃないのと考えた。
でもその発言の根底には悔しいという思いが滲んでいてちょっと気の毒に思えた。
そうこうしている内に季節が3つ程変わった頃だったろうか。
A子さんから電話があった。
「私、できたの」
一瞬何のことかわからずオデキでもできたのかなあと思ったぐらい。
「妊娠したのよ。だからあなたも諦めないで」だと。治療をやめたとたんご懐妊とのこと。
母親になった女性とそうでない女性の間には川が流れてそれによって隔たれているとしたら彼女は向こう岸に行ってしまった。
ブルータスよ、お前もかと言いたい気分だった。