今から記述する事柄はややこしくて、長ったらしいので何回かにわけてアップしようと思っている。
これからの超高齢者時代、無縁社会時代には誰かが同じようなことを経験することかも知れないので、その時の参考になればという気持ちで記したい。どうぞ、お付き合い下さい。
私の家の右のお宅は唯一生活音が聞こえるお隣さん。
そこにはキャリアウーマンの先駆者というべき女性(Tさん)が1人で住んでおられた。
70歳位まで独身だったが、70歳を過ぎて5歳年上の男性と結婚された。結婚といっても籍は入れず、同居という形の事実婚。
ご主人は子供さんもお孫さんもおられるが、皆、家を出ていたので、ご主人の家で二人で暮らし、月に何回かTさんは自分宅の様子を見に来られていた。
10年が過ぎようとするある年のこと。Tさんを良くご自宅で見かけるようになった。どうしたのかと声をかけるとご主人が、どこかを骨折し、手術を受けたが、持病もあって予後が良くなく、長期入院となり、自分宅に生活拠点を移すとのこと。
それは、大変心配な事だろうと思う。が、それ以上にTさんの心身が気になった。
ご主人を見舞うため、朝はやくから、夕方まで休みなしに毎日、車を自分で運転し、出かけられていた。
自分の母親の姿が重なって見えた。母も、父が入院し亡くなるまで、6ヶ月間、毎日見舞いに行きたがった。そして自分自身の身体の様子を観察する冷静さを失っていった。
それから2月程たったある日の夕方、Tさんがタクシーで帰宅された。
どうされたのだろう。今朝は自分の車で出かけたのに。何だか嫌な予感がする。
が、どうやって声をかけたらいいのだろうか。そうこうする内に、隣の風呂を沸かすボイラーが、作動した。一定期間作動すると止み、また作動するという繰り返しが一時間以上も続いている。おかしい。
Tさんの玄関に鍵はかかっていなかった。「Tさん、ボイラーがなりっぱなしだけど、大丈夫ですか」と声をかける。Tさんが玄関に現れるが何だか理解できていないように思える。家に上がり台所、洗面所、風呂場を二人で点検する。
風呂の栓をせずお湯を貯めていたのだ。これでは何時間たってもボイラーが止まるはずはない。Tさんは「今日は何だか私へまばかりする。車の鍵もなくし、タクシーで帰ってきた。」というTさんの顔を見てぎょっとする。
顔が違うのである。
口調もハッキリとしていない。
脳梗塞で倒れた母の顔のように片方が垂れ下がって見える。でも、当たり前だが私は医師ではない。「Tさん、凄く疲れて見える。今から病院に行って点滴でもしてもらわない?私も行くから」と説得するのが精一杯。
「いや、いいよ。寝たら治るから。」そう言うばかり。
仕方なく家に帰って、Tさんの親戚の方に電話をする。が、固定電話の番号しか知らず、そこに電話しても誰も出てこない。後で知ったのだが、結婚式があり上方の方へ泊まりで出かけておられたらしい。
もうなすすべもない。
明日もう一度、説得しよう。
(長い話 その2)に続く