「姐さん」 「オヤッさん」
今日も男は入り口で頭を打ちながら来た。
そしてどうにも我慢ならないことなどを 親父や母親に話す。
時々、昔の面白い話も出た。 親父たちはその男を「ケン坊」と呼んでいた。
呼び名だけ聞くと可愛い子供のようであるが、 背は190センチ近くあり、
顔はまるで平田弘史の劇画に出る武将のようだったのである。
その男の出入りがきっかけで 他の侠客くずれが来るようになったが、
刑事まで来るようになり、やがて警察署の署長まで来るようになった。
学校の先生のような大人しい男で、母親を良く知っていたようであったが
趣味の刀などの話で親父と意気投合していた。
それから数年後、親父が亡くなった。
酒で肝臓や心臓をやられ入院わずか一週間であった。
通夜で親戚が集まっていたところ「ケン坊」が来て 棺にとりすがった。
「オヤジ~、なんで死んだんか~」
大きな男が子供ように泣きじゃり、 いつまでも棺から手を離さないので、
皆は少し戸惑っていた。
花が多く道路に置き切れないほどであった。
その時、空に虹が掛かっていたので写真に収めた。