不思議だ、霧の中を歩くのは!
どの茂みも石も孤独だ。
どの木にも他の木は見えない。
私の生活がまだ明るかったころ、
私にとって世界は友だちにあふれていた。
いま、霧がおりると、
だれももう見えない。
ほんとうに、自分をすべてのものから
逆らいようもなく、そっとへだてる
暗さを知らないものは、
賢くはないのだ。
不思議だ、霧の中を歩くのは!
人生とは孤独であることだ。
だれも他の人を知らない。
みんなひとりぼっちだ。
「ヘッセ全集10 孤独者の音楽」高橋健二 訳新潮社 より
ヘッセの作品は、
人は自分で自分の道を見つける必要がある、
と言う孤独性で一環している。
その前提において、
この詩を書いた、当時のヘッセは全体主義への警告を
いち早く発していた。
それは孤高の戦いでもあった。
霧は互いを見えなくさせる作用を
もっている。
今、私たちを見えなくさせようとする
霧がある。
様々な場面で、人は孤独であることを
痛感する。
孤独に耐えて、見えてくる真実がある。
しかし、愚かさと横暴の故、
それに気づくことさえ困難になった。
喉から搾り出すような
(目撃証人たちの)声が、今も霧の中から
聞こえてくる。
昨今での全体主義とは何か?
だれがそれに耳を傾けるだろう。
はらから、幼子たちのために。