ふと子のことを百舌鳥が啼く
山頭火
山頭火が山里に入ると、どこからともなく百舌鳥の鋭い声が
響きます。厳しい季節の到来を告げるその声により寂しさが
募り、ふと残してきた我子のことが思い出されます。
・・達者であろうか?俺のことなど、とうに忘れたであろう・・・
しかし、再び聞こえる甲高い声は甘い慕情などかき消し、
やがて山頭火の姿も林道深く消えて行きました。
*大正13年、熊本市で泥酔の果てに、義庵和尚に師事した山
頭火は咲野夫人と子が待つ市内の自宅へは帰らず、翌大正14年
2月、出家してしまう。妻や子を捨てるまったく身勝手な山頭
火の行動は終生の負い目となり、山頭火の作風を支配すること
にもなったことであろう。街角で出合った孤児の肩をそっと抱
いてやることもあったと云う。
*百舌鳥には、蛙やトカゲなどの仕留めた獲物の一部を、
枝先や木のとげ、有刺鉄線などに刺しておく習性がある。
これが「モズの早贄(はやにえ)」と呼ばれる、秋冬の風物詩
のひとつである。
クチバシは肉を引き裂くのに適したタカそっくりな形である。
しかしワシタカ類に比べると脚が細く、獲物を押さえ込むには
力不足のため、モズは獲物の急所(頭や首)を直接狙って噛み
つき、一撃でしとめるテクニックを持っている。自分より体が
大きなツグミ類を襲うこともあり、まさに”小型の猛禽類”
“狩人”な小鳥である。その全体の雰囲気には愛嬌があり、
何ともいえない魅力がある。
モズは一夫一妻の鳥で、春の求愛ダンスを終えてつがいになっ
た2羽は、藪の中に巣をつくり、4~5個の卵を産んで共に子育
てをする。ところがある研究によると、24組のつがいの雛、99
羽の遺伝子を調べてみると、その中の10羽が育てていたオスの
子供ではないことが判った。このように、「他人の子供も知ら
ずに育てているオス」が結構いることが、鳥類では40種類以上
で実際に確認され、知られている。