ささやかな住まいを探していた
「おい、アパートの空き室でも探してくれ」
わたしはそれから数日して
古びたアパートの扉のひとつに
「空き」と書いてある文字を
車の窓越しに見た
わたしは急いでNさんに知らせた
「Nさん、あったよ」
一緒にアパートに行き扉を見た
なんとそれは・・・
共同トイレの「空き」のサインであった
これは叱られると覚悟したが
Nさんは少し笑いながら
「お前は本当・・」
呆れて叱る気にも成らなかった
ようである
そのころは時間もあり
ギター片手に家に行った
「音楽は良いの~」
わたしのダサい歌にも
付き合ってくれたのだ
その後・・
結婚して子供ができ
他の町に引っ越したりで
何となく遠のいてしまった
それから二十年ぐらいして
Nさんが病に臥したとの
風の便り
実は闇に紛れた暴漢に
不意打ちに合ったとも
しかしわたしは
自分事の煩いで
会いに行こうとは
しなかった
人情紙の如しとは
このことだ
情けない
昭和も遠くに
成るばかり
(Nさんが良く口ずさんでいた歌)
*人生劇場
*網走番外地
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