窓の外は雪がチラチラと舞っていた
あの日もこんな寒い日であった
戦時中、母は婦人会の会長をしていたが
山口の四十三連隊へ慰問する話があり
母とお隣の麒麟麦酒の社長の奥さんが
事前に部隊を訪問して許可を得て
総勢四十七人での慰問になった
皆、良い家の娘さんで
当時の困窮にも拘わらず
全員振袖姿になり
私(二十代前半)は剣舞を披露し
幾つかの舞いが続き
三十人での三味線の演奏もあって
それはそれは見事であった
そして終わった時に
隊長さんが大層喜ばれ
乙女たちの振袖姿を見ることができた
感謝の気持ちを言われ
「明日、戦地に行く者は手を挙げよ」
と言われたところ
数十人が手を挙げた
私はその時
その人たちの顔を見ることが出来なかった
何とも例えようのない悲しみが
こみ上げてきたからであった
しかし、泣くこともできないので
窓を見ていたら
雪がチラチラと今日のように舞ってた
それから廊下に出たときに
若い兵隊さんが二人来られ
「兵隊饅頭をあげましょう」
と沢山たもとに入れてくださった
顔はおぼろげながら
生き生きとした声はっきりと残った
あぁ、戦争のためにこの若い命が
捧げられるのかと思ったら
泣き虫の私はまた目頭が熱くなった
青春のはるかな はるかな
夢のような一日よ
あなたも何時かこの日の事を
だれかに伝えてね
ー 終戦記念日に寄せて(ピエロさんより)