エッセイ等では有名な方ですが、小説での成功はあまり耳にしないまま、
今回、図書館で目にして何となく借りてみました。
主人公は定年をあと数年先に控えた図書館司書の女性。彼女には大学生の息子がいて、夫とは離婚しています。
テレビニュースで偶然目にしたのは、洪水で被災し救助される夫の姿。彼女の心は過去との決別を成し遂げないままあらわに揺れ動きます。
文体は静かで地味、人物描写もこれといって輝きを見せず、そのせいか、登場人物に魅力を感じません。セリフも平凡で淡々とし過ぎていて、同じような比喩が多く、内容の生々しさと逆行しています。
主人公に想いを寄せていた従兄弟の存在や夫が隠し続けていた原家族の秘密とか、図書館の同僚である若い男性の母と意外な縁があったり、エピソードは盛りだくさんですが、ごちゃごちゃになっている印象。
不倫とか駆け落ちとか、男と女の世界はこれだけではないはずですが。
なんとなくですが、太田さんの父、太宰治が愛人と駆け落ちしたり、心中したり、そんな儚さを物語に反映させているのかなと感じてしまいました。
そりゃあ、残された者としては、混沌としたままですよね。時が立ってもすっきり割り切れない思いが強くなるのではと思いました。