外は暑いし、家で静かに読書ってある意味贅沢かも。
昨日の羽田作品は、第153回芥川賞受賞作の「スクラップ・アンド・ビルド」一気読み。
121ページは中編という部類でしょうか? 表現力が豊かで贅肉のない簡潔した文章力が光ります。
転職のため、資格の勉強に励む若者と同居する要支援者の祖父。
人は老いる。そしてその老いと対峙できず、不安やイライラを「死にたい、早くお迎えが来て欲しい」とぼやく。
それはある意味本音でもあり、周囲に向ける事で否定してほしいのかもしれない。
スクラップ・アンド・ビルドの意味は、古くなり機能を失った対象物を廃棄して、新たなものへと生まれ変わらせる事。
生きる希望を失った枯れ木のような祖父を憐れみ、尊厳死させようと試みる。
そのやり方は毒を盛るとか残酷なものではなく、過保護にして自ら何もできなくなるよう手助けする方法。つまり、今ある機能を失わせることで寿命を断ち切ってゆく。
介護離職による介護うつとかヤングケアラー問題を扱っているわけではない。だから悲壮感はなく、たまにクスっと笑わせる要素もあって楽しめる。
祖父は主人公の母親の実の父であるが、親子だけに歯に絹被せぬ勢い余った暴言もなんだか面白い。
祖父の本心と言うか、生きる意欲を垣間見て気づきを深める工程がいい。
そして、見事就職も決まり、自立するために家を出る主人公は祖父に見送られる。押し付けがましくない別れのシーンに胸が熱くなる。
「死にたい」は「生きたい」って事なんだろうね。ただし、より良く幸せに。