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合言葉はヒュッゲ

みっともなくて愛おしい

2年前に急死した芥川賞作家、西村賢太氏の未完の遺作。かなりの長編で、しかも展開も遅く脈絡なく書き連ねる作者の思いは何なんだろう?と不思議に思いつつ、しかし、独特の文体による古風な言い回しや徹底的に他人をそして自分自身をディスる辛辣さがユーモラスでハマってしまう。「苦役列車」が芥川賞受賞作だが、苦役列車は短編で10代後半の自堕落な生活と肉体労働に明け暮れたイタイ青春の日々を綴り映画化もされた作品。

芽が出るまではかなりの年月を要したみたいで、この「雨滴は続く」は30代後半の北町貫太を描いている。
北町貫太は西村賢太氏の事。ほとんどの作品が自分史とも言える私小説で、何か偉業を成した輝かしい日々を誇るものではなく、犯罪者の父から逃れるために夜逃げをした母と姉との暮らしを経て、暗澹とした鬱積から自暴自棄となり家出をして、役夫となり酒やタバコ、女に散財し身内に無心しては、DVを繰り返すクズの中のクズ男。

暴行事件で留置場に入った事もあり、こん
な男は生きてる価値がないと思われるけど、どうしようもない自分を持て余し、文学だけが生きる縁だった彼がこれでもかと書き綴る生き様はイタさを超えると何故か愛おしい気持ちにさせるから不思議。

思い込みが人一倍強く、偏愛する作家の没後弟子と名乗り、その作家の眠る七尾市の寺に毎月供養として訪れ、生前墓地も建て
ていた。
この元旦の大地震で、図らずもその墓は崩れてしまったという惨状だが、西村氏ならきっと、天を憎みながらも現実を受け止めている事と思う。
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