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合言葉はヒュッゲ

喫茶店はヒュッゲな空間④

厚化粧のマネージャーは、30後半か40くらいだったと思う。華やかな人で、私生活では夫と小学生の娘がいたようだ。

自分は着飾っていたけど、一度娘が学校帰りに現れた時、あの母の子どもとは全く思えないほどみすぼらしくて驚いた。

マネージャーは子育てより仕事に燃えて、夫より社長との関係に力を注いでいるように見えた。

社長はたまに来てはコーヒーを注文した。
社長のコーヒーを淹れるのはマネージャーの役目。大きなサーバーに残っていたコーヒーを惜しげもなく捨て、心を込めて新しいコーヒーを淹れた。

そして、棚の奥から金粉コーヒー用のカップを取り出し、湯を張ったステンレスバットにつけて温める。
その表情は女そのものだった。

社長とマネージャーの間には特に会話はなく、どちらかと言えばマネージャーが熱を上げているように見えた。 

他店には別の愛人が秘書として配属されていたが、たまに応援と称し、偵察に現れ愛人同士火花を散らした。

他店の愛人もスレンダーな美人だったが、前歯が2本抜けていて、真顔で話すとなかなかのホラーだった。酒の飲み過ぎで夫婦喧嘩が絶えず前歯を失い、挙げ句息子を未熟児出産したと平気な顔で笑っていた。

マネージャーよりその秘書の方が話しやすく、個人的に優しくしてもらえた思い出がある。

社長は若いムスメだった私をからかうのが好きで、下ネタや洋楽の話題を振っては話しかけてきた。

すると、マネージャーの機嫌がすこぶる悪くなり、私が他の客のオーダーを告げても聞こえないふりをした。

厨房にいる皿洗いのおばちゃんに向かい、
「若いだけじゃあだめだよねえ」などと聞こえ越しにディスっていた。

厚化粧でも隠れないほどのしわくちゃのくせに!

内心むかっとしたが、逆らう相手ではない。

今なら言えるよ。若さに敵うものはないんだよって!

私がそこの喫茶を辞めたのは7月末。
スナックの上のアパートを引き上げ、実家へ戻ることを選んだのだ。

一人暮らしの間、私は寂しさに打ちひしがれ梅雨の朝、突然制御不能となり、滝のような涙を流し、泣き喚きながらあてもなく車を走らせ、気がついたら大嫌いな実家に止まっていた。

翌日、私の一人暮らしを心配していた両親が引越しを手伝いに来てくれた。
焦燥しきった私を見て、只事ではないと思ったのであろう。

こうして僅か4ヶ月弱の一人暮らしにピリオドを打ったのだ。



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