晴山雨読ときどき映画

“人生は森の中の一日”
山へ登ったり、本を読んだり映画を観るのは知らない世界を旅しているのと同じよ。
       

梶よう子著『迷子石』と迷ひ子知らせ石

2016年11月16日 | 
見出し画像は当地、長崎の諏訪神社(地元ではお諏訪さんと呼んでいます)の石段にある「迷ひ子知らせ石」。お諏訪さんに行くたび、参詣よりこの石に目が行き思わず笑みをもらしたくなる。タイムスリップして親にはぐれた子供が泣きべそをかきながらこの石の前にたたずんでいる姿が浮かんでくるのだ。梶よう子さんが書いた『ヨイ豊』を読みファンになり、タイトルに『迷子石』とあり迷わず手にした。




主人公の孝之助は見習い医師でありながら趣味で版画絵を描いている。梶さんの描く主人公は今でいうなら草食系男子。私はどちらかといえば自信に満ちた人より、これでいいのだろうかと迷いながら生きている人物に魅かれる。彼は故郷の富山藩・薬売りが売る薬に付けるおまけ絵を描いていた。そう云えば、幼な友達の家に赤い薬箱が置いてあった。漢方薬の独特な匂いがして紙風船が添えてあった。越中富山のハンゴンタン🎶~と、私たちが口ずさんでいたのは反魂丹という薬名だったのだ!(知らなかった!)。好きな絵をかきながら自分は宙ぶらりんのおまけ者と自認している孝之助だったが、偶然、富山藩の存亡に関わるお家騒動に巻き込まれる。父の濡れ衣を晴らすつもりが江戸家老が大陰謀を企てていると知る。

植物が好きなので江戸時代に盛んだった本草学を知るのも面白い。江戸時代では植物学というと医学や薬学を指していたともいえる。ミステリー仕立てで若者の成長譚なのだが、彼を取り巻く登場人物も微笑ましい。

迷子石がいつ出て来るのかと待ち遠しく先を読み進んで、終わりがけになりやっと触れてあった。男の子の母親を探すために、孝之助が似顔絵を描き迷子石に張り付ける。東京では日本橋川にかかる一石橋(いちこくばし)、浅草寺や湯島天神の境内にもあって尋ね人の相互連絡にも用いられたらしい。
たぶん、「迷子石」のタイトルは孝之助自身も己の生き方模索中ということからだろう。


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