12月18日の一般質問の内容について、何回かに分けて解説を致したく存じます。
まずは、私の最初の質問の原稿を当日の写真と共に掲載致します。少し長い質問原稿ですが、お読み頂ければ幸いです。
※質問項目一覧
民主党・ふじのくに県議団の鈴木智です。私は「人口減少・高齢化社会の到来を直視した将来構想と施策策定の必要性」をテーマに、3つの項目について質問致します。
初めに、人口減少・高齢化社会の到来を直視した取り組みについて2点伺います。
1点目は合計特殊出生率2.0を目指す意義と現実性についてです。
今年の1月、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)は、日本の人口は、2040年に現在の人口から約2千万人減の1億728万人、2060年には約4千万人減の8674万人になるという推計を公表しました。これから2040年まで平均70万人以上、その後は平均100万人以上の人口が毎年減る、つまり、島根県あるいは静岡市に相当する人口が日本列島から毎年消えていくということです。
都道府県別の将来人口推計として最新である2007年5月の推計では、静岡県の人口は、2010年の約376万5千人が15年後の2025年には約25万人減の351万1千人、25年後の2035年には52万人減の324万2千人になるとしています。県でも、「総合計画基本構想」や「ふじのくに移住・定住促進戦略」等で社人研の推計を引用していますが、そうした人口減少に関する県当局の認識については疑問があります。例えば、総合計画基本構想では、将来の人口減少や高齢化に言及しながらも、課題としては「女性や高齢者を始め、多様な人材が活躍出来る環境を整備し、県外への進学や就職による若者の流出を抑えるとともに、地域の魅力を磨き、国内外から専門知識や高度な技術・技能などを備えた人材の確保と育成に努める必要がある」と述べるのみです。また、総務委員会や企画文化観光委員会で認識について質してきましたが、「少子化対策や移住・定住施策を総動員して人口減少を食い止める」という答弁にとどまっており、推計通りに人口が減少した場合の、財政における影響や対策等は全く示されていません。
そもそも、「少子化対策や移住・定住施策を総動員して人口減少を食い止める」という考え自体にも疑問があります。なぜなら、少子化や人口減少の問題は最近始まったばかりのものではないからです。既に1975年に国の合計特殊出生率は2.0を下回り、その後も基本的に下がり続けてきました。それでも最近まで人口が減少しなかったのは、高齢者人口が現在ほど多くなく、また寿命が延び続けていたからです。最近では寿命の延びも小さくなり、また団塊の世代が高齢者になる一方、低い出生率に加え、出産適齢期の世代の人口が大幅に減っています。そのため現在は「少産多死」の時代となっており、そうした構造の変化は数十年掛かって生じたと言うべきものです。したがって、人口減少や高齢化を食い止めるために「多産少死」あるいは「中産中死」の人口構造に変えるには、少なくとも数十年の時が必要であり、出生率がそれなりに上がったとしても人口減少の流れは当面変わらないというのが現実です。実際、国土交通省の国土審議会長期展望委員会が昨年2月に公表した『「国土の長期展望」中間とりまとめ』では、2008年に出生率が人口置換水準である2.07となり、その後も2.07が維持出来たとしても人口減少は続き、2050年には約1300万人減の1億1491万人、2100年には約2千万人減の1億740万人になると推計しています。
そこで伺いますが、県は総合計画で「平成22年度から概ね10年間」の間に出生率2.0の達成を目指すとしていますが、その意義や目的は何でしょうか。2.0を達成するとその後の人口はどうなるのでしょうか。人口減少が止まると考えているのかどうか伺います。また、少子化対策の優等生と言われるフランスでは、1994年の合計特殊出生率1.66を2006年に2.0にまで回復させました。つまり毎年平均で0.028ポイントずつ12年間かけて上昇させています。一方、静岡県では、2011年の出生率は1.49です。これを10年間で2.0にするには年平均0.051、つまりフランスの倍近いペースで上げなければなりませんが、果たして可能でしょうか、また、そうした目標を設定した根拠は何か、伺います。
2点目は、『大阪府人口減少社会白書』の評価と静岡県独自の将来人口推計等の人口減少を前提とした取り組みの必要性についてです。
前述の人口推計の数字は大変衝撃的なものです。しかし、一連の数字は、実は前回の2006年12月の推計よりも上方修正されたものです。2006年の推計では2010年の人口は1億2718万人になるとしていましたが、国政調査による2010年の人口は1億2806万人と推計よりも88万人多い結果となりました。つまり、日本全体の人口減少の流れは、2006年の推計よりもわずかですが緩やかになっているのです。
しかし、静岡県では状況が異なります。前述の2007年5月の都道府県別人口推計は、2006年12月の国の人口推計に基づいて計算されたものですが、当時の推計では2010年の県の人口は377万1千人になるとしていました。ところが、同年の国勢調査による県の人口は376万5千人と、推計よりも6千人少ない、つまり日本全体の傾向に反し、静岡県では人口減少が推計より進んでいることが明らかになったのです。更に、2007年の推計では2015年の人口は371万2千人になるとしていますが、2011年10月の県の人口は前年より約1万2400人減の375万26百人、そして今年10月の人口は更に1万6千人減の373万6600人と年間1万人以上減という勢いで減少しており、2015年の県の人口は2007年推計の数字を恐らく大きく下回るという状況です。つまり、静岡県においては、今後数十年間、人口は必ず減少することを前提とした長期計画や対策を早急に策定し実行しなければならないのは自明の課題だと考えますが、県の所見を伺います。
人口減少は否定的に考えられがちですが、今から十分な準備と対策を講じれば、人口減少社会は、むしろ様々なチャンスや利益をもたらすはずだと考えます。例えば、人口が減少した分、ゆとりのある家や公園等を持つことが可能になります。また、食料やエネルギーの自給率も、今の生産量を維持するだけでも、人口減少とともに上昇します。更に、人口が減少し高齢者の割合が増加することは、一人ひとりの、特に高齢者の方々の役割がより重要になることでもあり、地域のつながりを取り戻し、孤独死を防ぐことも出来るはずです。
世界を見れば、人口の爆発的な増加は早急に解決すべき地球的課題となっており、中国やインド、アメリカ等もいずれは人口減少時代を迎えることになります。日本は世界最先端の現象である人口減少時代に突入した国であり、人口減少に適応した社会システムを他国に先んじて構築出来れば、そのための様々な技術は世界中に輸出出来るものになると考えます。
つまり、人口減少社会を直視し今から備えることによって、ピンチをチャンスに変えることは十分に可能であり、既にそうした取り組みを始めているのが大阪府です。大阪府は今年の3月に「人口減少社会白書」を公表しました。白書の目的は、人口減少社会の到来による影響や課題、対応の方向性を、大阪府民をはじめ、市町村や企業など「オール大阪」で共有することです。白書は、人口減少社会が及ぼす影響をマイナスからプラスに変えていくため、「変革のチャンス」「将来への備え」「持続的発展」という3つの観点から、「安全で安心して暮らせる定住都市・大阪」「日本の成長エンジンとして持続的に発展する都市・大阪」の実現を目指すとしています。この大阪府のように、静岡県としても、人口減少を前向きにとらえた長期戦略や計画を早急に策定すべきと考えますが、その必要性と「大阪府人口減少社会白書」の評価について、県の所見を伺います。
また、人口減少社会を直視する前提として、かつて行われていた県独自の将来人口推計を直ちに行うべきと考えます。なぜなら、政府が公表した南海トラフ巨大地震における被害想定等のデータを検証しながら県が第4次地震被害想定の策定を進めているように、社人研の推計についても、県独自に、県内事情をより細かく反映した計算を行えば、更に正確で詳細な推計が可能になるからです。また、たとえ独自の推計結果が社人研のものと同様になったとしても、自らの手で推計を行うことは、人口減少という壮大な社会現象の更なる理解につながり、加えて、将来有り得るシナリオを独自に想定することは、直面する課題やとるべき政策の明確化につながるはずだからです。こうした県独自の将来人口推計の早期策定の必要性について県の所見を伺います。
次に、県有資産全体の維持管理・更新費の将来推計と資産経営の早期推進について質問します。
今月2日、中央自動車道上り線の笹子トンネルで、天井板が崩落し9名もの方が犠牲となりました。1975年完成のトンネルであることから、老朽化による劣化が崩落の原因と言われています。
我が国では、高度経済成長期に社会資本が集中的に整備され、これらのストックは、正に笹子トンネルもその一つですが、建設後既に30年以上経過しているため、今後急速に老朽化が進むとされています。当然ながら、適切に管理されなければ、老朽化による事故の危険性が今後更に高まることになりますが、笹子トンネルの事故は、その恐れが現実化したと考えられます。
こうした状況は静岡県でも同様であり、笹子トンネルのような事故が再発しないよう、社会資本の適切な管理や更新が欠かせませんが、既述のように人口減少・高齢化が急速に進む中、そのための予算確保は更に難しくなることが予想されます。
前述の長期展望委員会では、道路、港湾、空港、公共賃貸住宅、下水道、都市公園、治水、海岸、上水道、廃棄物処理、文教施設、治山、農林漁業、工業用水道、地下鉄の15分野における社会資本構造物の維持管理・更新費に関する将来推計も行っています。それによれば、全国的には2030年頃までに倍増します。静岡県では、2010年の人口一人当たりの維持更新費は年間5万7千円であるのに対し、2030年に約1.9倍の10万9千円、2050年には約2.3倍の13万円になるとしています。これはあくまでも2011年以降の新設改良費を0と仮定した場合であり、今後も新規の道路や津波対策施設等が整備される静岡県では、こうした維持更新費は更に増えることになります。
県は、先週13日の行財政改革推進委員会で、道路等のインフラや県営住宅、職員住宅を除く普通会計における県有施設、資産価値として約3200億円分の財産の更新費用の将来推計を公表しました。それによれば、過去5年間で平均して年148億2千万円掛かっているのに対し、今後は年平均188億7百万円、つまり、毎年40億円多くなるのです。現時点の来年度予算案で443億円の財源不足が予想される中、40億円という数字は決して小さくありません。また、道路等のインフラ資産や公営企業会計等の全ての施設の維持・更新費用も含めれば更に多額になることが予想されます。県がその維持管理に主導的な責任を負う県有資産、つまり財務諸表の連結貸借対照表における非金融資産に含まれる建物や道路、橋梁等の全ての施設の価値は合計2兆5千億円以上もあります。13日に公表した推計だけでなく、非金融資産全体の施設の維持管理・更新費がいくら必要になり、その一方でどれだけ財源を確保出来るのか中長期的な将来推計を早急に行うことは、県全体の今後の課題を明確化するのに不可欠であり、笹子トンネル事故を県内で再発させない取り組みの前提とすべきだと考えますが、所見を伺います。
また、人口減少に伴って一層厳しくなる財政状況を考えれば、連結貸借対照表における非金融資産全体の施設の管理計画やコスト等を常に把握出来る仕組みをつくり、安全性を最優先にしながらも厳しい財政に対応出来るよう、聖域なき統合、合理化、廃止等のあらゆる選択肢、例えば、全国初の大規模ダム撤去工事である熊本県営荒瀬ダム撤去のようなインフラの廃止、老朽化している県立中央図書館と隣接の県立大図書館の統合、将来の人口減を見越した県立大と文芸大の統合、基幹的広域防災拠点としての静岡空港の機能強化にもなる合理化策として、他県の緊急援助隊の集結地としてアクセスが良いとは言えない清水消防学校の空港隣接地への移転や、津波の危険性が否定出来ない航空自衛隊静浜基地の機能・部隊の静岡空港への移転、これはもちろん国との調整が必要ですが、最初から無理だと決めつけずに考え得る選択肢を全て検討し、そして可能なものを実行することで、将来の維持管理・更新費を最大限削減する努力が必要と考えますが、所見を伺います。
※答弁する川勝知事
最後に、人口減少・高齢化社会を直視した内陸フロンティア構想の推進について2点伺います。
1点目は、内陸フロンティア構想への人口減少社会の視点の追加についてです。
知事は11月30日の提案説明の中で「内陸のフロンティアを拓く取り組みとは、予防防災と地域成長モデルを両立させるものである」と述べました。前述のように、今後、人口減少や高齢化が確実に進む以上、人口減少社会に相応しい街づくりを行わなければ、地域の成長はあり得ません。
人口が急増した高度成長時代、洪水やがけ崩れ、地盤の液状化、津波等の自然災害の危険性に必ずしも十分な配慮がされないまま、住宅地が各地に整備されました。今後も人口が増えるのであればそうした地域に住み続けるのも仕方ないかもしれませんが、人口減少社会の到来は、より安全な地域への移転を可能にするということです。
また、県全体の人口が減少しても、各地域の中心地に人口が移動し集まることが出来れば、地域のにぎわいは維持されます。加えて、人口がまばらに点在するのではなく、ある地域にまとまることは、必要な社会インフラやその維持コストの縮小にもつながります。
つまり、内陸フロンティア構想が主眼を置いている津波の危険度が高い海岸部から内陸部への移転だけでなく、洪水等の危険がある河川周辺地域や、がけ崩れ・深層崩壊、火山噴火に伴う危険等が危惧される山間部等からより安全な内陸部への移転も促進し、移転跡地については、災害に強い、または復旧が容易な公園、農林漁業施設や太陽光・風力の発電施設等を整備する、もしくは、かつての森林等の自然に戻すという政策を進めれば、災害に強いだけでなく人口減少社会に対応した静岡県を築くことにつながるはずです。こうした人口減少社会への対応という視点を内陸フロンティア構想に明確に加えるべきと考えますが、所見を伺います。
2点目は、より安全・安心な地域への移転促進施策の拡充についてです。
個人や集団の移転を促進するための施策拡充の必要性は、昨年度の「大規模地震対策特別委員会」の報告書でも、津波対策の視点から提言されています。また、増田寛也(ひろや)・元総務大臣が岩手県知事時代に人口減少対策も目指して導入した、「がけ地近接等危険住宅移転事業」に補助金を上乗せする「がけ崩れ危険住宅移転促進事業」のように、従来型のハード対策ではなく、様々な災害の危険地域にある住宅や集落の安全な市街地等への移転を促進する県独自の仕組みを導入することは、災害対策と同時に人口減少対策の推進にもなり、また大幅なコスト削減や時間短縮にもつながると考えます。
例えば、県のがけ崩れ対策事業では、1968年以来、昨年度までに約1500億円の予算を費やし、約47200人の県民の安全が確保されたことになっています。しかし、がけ崩れ対策事業が未実施の危険個所に今もなお、約9万人も住んでおり、そうした方々を守るための全事業を完了するには、今のペースでは140年近く掛かり、またここ5年間平均の保全人口一人当たり単価約440万円を単純に当てはめれば、がけ崩れ対策事業だけで4千億円近い費用が必要になります。一方、前述の岩手県「がけ崩れ危険住宅移転促進事業」では、11戸の移転に要した事業費は「がけ地近接等危険住宅移転事業」を含め約5800万円、一人当たり約2百万円です。加えて、がけ崩れ対策事業は完了後も定期的に維持管理費が掛かりますが、移転促進事業の場合は移転時のみしか公費は掛かりません。移転促進事業の方が明らかに経済的であり、より使いやすい制度を構築出来れば、時間の短縮も期待出来ます。更に、街中に移転してもらえば、人口減少対策や社会インフラコストの削減にもなります。
県では、「TOUKAI-0」プロジェクトとして住宅の耐震補強に助成しており、個人資産である住宅に対して支援が出来ないわけではありません。また、都市部等への移転の促進は地域のにぎわいの維持や社会インフラコストの削減にもなることから、極めて公共性が高い事業だと考えます。
沼津市内浦重須地区のように、既存制度による集落移転の取り組みが県内でも始まっていますが、思うようには進んでいません。沿岸部や山間部等から移転したくても出来ない県民は恐らく多いと思います。また、これから人口が無秩序に減少した場合、多くの空き家に埋もれてわずかな住民が点在して住むというゴーストタウンが県内各地に出現する可能性が高いと考えます。従って、防災と同時に人口減少への対応という観点から、より安全な内陸部・都市部への個人・集落の移転を政策的に誘導する県独自の制度を早急に導入すべきと考えますが、大規模地震対策特別委員会の提言や岩手県の事例を踏まえた県の所見と決意を伺います。
質問は以上です。ありがとうございました。
お読み下さり、ありがとうございます。