むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所クラスター56

2019-08-21 10:12:24 | 小説
 昭和五年三月未明。北京にある大学の教室で、歴史学の教授が、骸骨の頭が結びつけられたロープで巻かれて、死んでいる事件が起きた。骸骨の頭は全部で三〇個あって、目玉の部ぶんでロープに結ばれていて、死亡原因は首に、かかったロープによる窒息死だ。足にロープは巻かれてなくて、床に油が塗られていた。教授は、なに者かに襲撃されて気絶した状態で、ロープで強く巻かれて意識をとり戻して立ち上がったあとに転倒して、ロープが首に強くかかって窒息死したと考えられる。公安(中国の警察)はどんな試験問題が出るか考えながらたばこを吸った。骸骨は手に一〇個ずつあって、頭を巻いている骸骨が下になると、首が絞まるしかけだ。公安が大学の責任者に事情を聞くと、死んだ教授は骸骨をいじくりながらの講義が有名で、骸骨は研究室に置かれていた物だという。研究室には三〇代の女性研究員がいて「原人が骨をどうやって、人間に擬態させるかがテーマで擬態を、理解できれば点数をあげるしかけよ」と言った。公安が「貝殻の貨幣を使うんだろ」と言ったら、女性研究員は「それはやらないわ。原人が人間に、従順となるように生活動作が、人間に類似していく進化過程を学習させるのよ」と言う。公安は「そうすると読み書きが、ままならない人間が永遠な若さの幻を見るだろうな」と思った。 公安が骸骨を研究室へ運ぶと、棚に思想改造集団のちらしがある。住所が近所の、中華料理店の二階だ。公安はそこへ行く。廊下に、現場の床に塗られていた機械油と、出前のどんぶりがある。公安が部屋に入ると、以前会った背広を着た三〇代の男と、作業服を着た二〇代の男がいた。背広を着た男が「われわれは、歴史は思想をねじ曲げることがないという信念のもとに、思想改造活動を行ってる」と言う。公安は作業服の男をよく見たが、武器は持ってなさそうだ。背広の男が「人類と猿人の違いは、記録と著作による文明行動だ」と言う。そのとき、入り口に中華料理店の店員が現れて「代金を頂きにまいりました」と叫ぶ。作業服の男が応対に出て走って逃げ出す。公安が追いかける。男は階段を下りて道路に出て、馬を奪おうとして、馬を引いていた中年の男とつかみ合いになった。男は中年の男に、手綱を首に、巻かれそうになっている。公安が中年の男を制止して「なぜ殺したんだ」と聞いたら、男は「歴史をねじ曲げてたから殺した」と言う。公安は男を逮捕する。男は去年まで大学の研究員だった。


超IQ研究所クラスター55

2019-08-20 10:22:55 | 小説
 昭和五年二月未明。長春で穀物ブローカーの男が、小売店の倉庫で、調味料のびんで頭を殴られて死ぬという事件が起きた。死体を発見した小売店の奥さんは「昼食を食べてたときは生きてましたよ。倉庫にある穀物と調味料はあの、男の物です」と言う。公安(中国の警察)が穀物ブローカー仲間から事情を聞くと、「豊作のときは生産者が高値で先物を買うから、もうけが出るけど、今年は不作の品目が多くてもうかってない」と言った。先物が売れないと現物を引きとって、倉庫の保管料と手数料を引いた値段で、小売店に少しずつ売るしかないという。公安が「豊作のときは、小売店の倉庫に、誰の物があるんだ」と聞いたら、「とり引き単位を間違えたやつの物で、びっしりの場合がある」と答えた。公安は不作の、場合のことを聞こうとして胸が苦しくなる。男が見かねたように「とり引きはすべて電話注文だからときどき間違えるやつがいるんだ」と言う。公安が死んだ男を調べると男は四〇代で独身。貸倉庫を経営していて小売店よりも保管料が安いようだ。貸倉庫には三〇代の従業員が二人いた。公安が倉庫の従業員に事情を聞くと、「相場が高くなれば、高値で売ることもできるがまずありません」と言う。公安が「どのぐらい安く買いとるんだ」と聞いたら、「収穫時の、四ぶんの一ぐらい。不作のときは、二ぶんの一くらいだけど」と答える。公安が「生産者はどうして収穫時に売り切らないんだ」と聞いたら、「買い注文を出さないと安くなるからですよ。小売店には前年の在庫で対応できますから」と言う。公安が「生産者は倉庫を持ってないのか」と聞いたら、「生産者が倉庫を持ってると、直売して相場が下落するんですよ」と答える。もうひとりの従業員がバケツを持ってきて、穀物が積まれたパレットの前に塩をまき始めた。公安が「なにをやってるんだ」とさっきの従業員に聞いたら、「今日は相場が高くなってるからおまじないですよ」と答える。公安が、社長が死んだことをもういちど説明すると、「えっ。本当に死んだんですか。一日勝負で相場に、参加する人にもうけられると、『死ぬ』と言うんですよ。そういえば『倉庫作業を手つだうから、保管料を安くしてくれ』と言いにきた小作人の男がいましたけど」と言う。公安がその男から事情を聞くと、「ためた金で買った穀物が、『小売店に売れる』と言ってたが自ぶんの在庫ばかり売ってたから殺したよ」と言った。公安は男を逮捕する。


超IQ研究所クラスター54

2019-08-19 10:29:40 | 小説
 昭和五年一月未明。香港の録音装置を開発する研究所で所長が、高電圧ケーブルを口に押し込まれて感電死している事件が起きた。所長は五〇代で研究所に四〇代の男性研究主任と、三〇代の女性研究班長と、二〇代の研究員が一〇人いる。死体は午前八時一五分に女性班長が研究室で発見した。通報があったのは午前九時三〇分だ。所長は録音用の紙テープに、樹脂を張るときに使う高電圧装置のケーブルで、死んでいる。研究所では紙テープを、使った録音装置をつくって放送局に売っていたという。公安が「どうしてすぐ通報しなかったんだ」と女性班長に聞いたら、「寝てるように見えました」と答える。公安が「録音装置は、なん人でつくるんだ」と聞いたら、「私と、主任と所長の三人でつくります」と答えた。作業机が一〇台あって所長の死体に、まったく関心がなさそうに、研究員が机に向かって待機している。公安が主任から事情を聞くと、主任が「政治家の声を、録音するための金箔を、張った録音テープをつくってるんだ」と言う。主任が時計を見ながら「一〇時ちょうど。開始」と叫ぶ。研究員一〇人が一斉に机の下から道具を出して、作業を始めた。電気ごてで金箔を溶かして石のような物に貼りつけている。公安が様子を見ていると、研究員たちがつくっていた物はイギリスの金貨だった。公安が主任に「なぜイギリスの金貨をつくってるんだ」と聞いたら、「イギリス政府に依頼されて、特別につくってる」と言う。公安は金箔の仕入れ先を聞いてそこへ行く。小さな店に金箔を張った屏風がびっしりと並んでいた。公安が店主から事情を聞くと、「未来の、日本の金貨なら以前つくってたよ。六〇年ぐらい先の年号を入れてそれっぽくだ」と言って業務用の使用済み封筒をさし出す。金箔の仕入れ先は、ビルの一室だった。公安がそこへ行くと、ドアが開いている。なかの様子を見ると、背広を着たイギリス人が立っていて、中国人の男が、外国の金貨を溶かして、金箔をつくっていた。イギリス人が「『傷がある鋳型を修正するように』と言いに行ってどうして殺す必要があるんだ」と言う。中国人の男が「『自ぶんで探せ』と言ってたが『自ぶんでつくれ』に聞こえた」と答える。公安が姿を現すと、中国人の男が、金ぴかの拳銃をとり出した。公安が近くにあったハンマーを投げつけると、男の口に「すぽっ」と入ってひっくり返る。公安は中国人の男を逮捕した。



超IQ研究所クラスター53

2019-08-18 10:27:39 | 小説
 昭和四年一一月未明。北京にあるチャイナドレスの販売店で、店主がなに者かに刃物で首を斬られて、死ぬという事件が起きた。その店は、女性の剣術使いが衣装を調達していることで有名だ。店は三〇代と四〇代の女性従業員がいて、死体は店へ最初にきた四〇代の従業員が発見した。店主と奥さんは五〇代で、奥さんは天津の闘技場へ出張に行っているという。公安が「ドレスをなん着も使うの」と四〇代の女性従業員に聞いたら、「試合で使う剣を販売してるわ。うちで委託生産してて、ぼろぼろになった剣もうちで買いとってる」と言う。三〇代の女性従業員が「刃が欠けるとひっかかって危ないのよ」と口をはさむ。公安は天津の闘技場へ行く。観客が二階席までびっしり埋まって三千人ぐらい。チャイナドレスを着た二刀流の女性剣術使いが、刃渡りが一m近くある剣を持った男と対戦している。公安は一階席の最前列で立って見ていた。女性剣術使いが水平に剣を振る。「がちん。がちんっ」と二回金属音が響いて、男がふらつく。女性剣術使いが「やあー」と叫びながら男に斬りかかる。男が剣を横にかまえて、二本の剣をぶつけると女性剣術使いが鮮やかに宙返りした。女性剣術使いが着地して片手を上げて、ポーズをする。男が間合いを詰めてきて、こんどは女性剣術使いが二本の剣を交互に、男の剣にぶつけて「がきーん。がきーんっ」と金属音が響く。女性剣術使いが踊るように回転しながら剣をぶつけると、拍手が巻き起こる。公安は最前列で奥さんを見つけた。公安が事情を聞くと、奥さんが「ちょっと待って」と言う。女性剣術使いがあおむけに倒れた。男が頭へ剣を振り下ろす。女性剣術使いが二本の剣で受けとめて、男の股間にキックした。女性剣術使いが剣を強く押し返すと、男はしりもちをついてあおむけに倒れる。女性剣術使いが男の、両耳付近のリングに、二本の剣を突き刺した。観客が拍手する。公安が奥さんに事情を説明すると、「八百長を持ちかけてきた男に殺されたのよ」と言う。かけの倍率が、女性剣術使いが一.二倍ぐらいで、男が三倍以上。女性剣術使いは剣が折れでもしないと、負けることがない。公安が「その男は会場にいるか」と聞いたら、奥さんは「あいつよ」と言う。剣の業者みたいだ。公安が近づくと男は剣のホルダーを投げつけて逃げようとしたけど、 公安が受けとめて剣を引き抜いて男の首に向けると、男は殺したことを認めた。公安は男を逮捕する。


超IQ研究所クラスター52

2019-08-17 09:59:24 | 小説
 昭和四年一二月未明。上海で人形を販売する店の店主が、陶器の人形で殴られて、死んでいる事件が起きた。凶器の人形は、高さ五〇㎝ほどの女性剣士像で重さが五㎏ぐらいある。人形屋には二〇代の女性店員が二人いて「午前九時に店を開けたら社長が死んでた」と言う。奥さんは現在行方不明。店は女性剣士の人形を専門に販売していて、遠方からマニアが買いにくることもあるという。公安(中国の警察)が、人形が置いてあった棚を調べていると、女性店員二人がなにかの作業をしている。大きさが二〇㎝ほどの、陶器の人形に砂を詰めているようだ。砂が入っている缶に、物理化学研究所のシールが貼られていて「ウラン」と書いてある。陶器の原料みたいだけどなにかがおかしい。そのとき店に電話がかかってきて、電話に出た店員が「社長が死んだ」と言う。電話は奥さんからで「いま香港よ。ウランちゃんを早く送って」と言って切れたそうだ。送り先は香港の思想改造集団だという。公安が「香港に行く」と言ったら、「これを届けて」とウランが入った陶器の人形を、詰めたトランクと地図を渡された。公安が香港に着いて、地図のビルに行くと、思想改造集団の事務所がある。公安は店員のふりをして「商品を届けにきましたが」と言いながら、事務所に入ると男が二人いた。公安がトランクを机の上に置くと、二人は人形をトランクから出して机の上に並べ始める。公安が「なにに使うんですか」と聞いたら、背広を着た三〇代の男が「気密性を検証して火薬にする」と言う。公安は、なにかおかしいと思ったが脳裏に、空中を浮遊している竜の姿が浮かんだ。竜の寿命は人間と同じぐらいだが、一〇〇年が一年だという。竜は人間に卵を産みつけて人間の思考で成長するらしい。公安が背広の男に「昨日店にきましたね」と聞いたら、作業服を着た四〇代の男が「大きいのを注文してできてなかったから殺した」と言う。男はズボンのポケットに手を入れた。男が拳銃をとり出した瞬間に、公安が手をチョップして、拳銃をはじき飛ばす。作業服の男が人形をつかんで公安に殴りかかる。公安がトランクで受けとめると、人形に入っていたウランが飛び散った。背広を着た男が「われわれは思想改造を目的とした集団で、その男は関係ない」と言う。作業服の男が拳銃を拾い上げようとして、足をすべらせてよろけた瞬間に、公安がトランクで男を殴りつけると、男は後ろに倒れて頭を打った。公安は男を逮捕する。


超IQ研究所クラスター51

2019-08-16 10:05:24 | 小説
 人口減少社会が進むと、人間の価値が高まるから自由に天変地異を叫べなくなる。タイトルは修道士。

 昭和四年九月未明。洛陽の寺院で修道士が首を斬られて、死んでいる事件が起きた。寺院は修道士が五〇人ほどいて、死んだ修道士は門番をしていたようだ。公安(中国の警察)が目撃者の老人から事情を聞くと、「魔神集団の者が、門番の首をはねた」と言う。公安が目撃者に「あなたは修道士なんですか」と聞いたら、「私は近所の農民です」と答える。公安の脳裏に「犯人である確率五〇%」という字幕が点滅して浮かぶ。公安が「魔神集団の住所はどこだ」と聞いたら、「あの、山のふもとです」と五㎞ほど離れた山を指さした。公安がそこに行くと、なかで黒装束の修道士二〇人がなぎなたを振りまわしている。公安が門番の男に「責任者に会わせて」と、言うとなかに案内してくれた。寺院のなかは仏像が並んでいて、死者の魂を納める寺院みたいだ。黒装束の老人が出てきた。公安が「なんのために稽古をしてるんだ」と聞いたら、老人は「未来の、日本の読み書きがままならない人々に、われわれが父であることをわからないようにするためだ。紙幣でこと足りる高額貨幣に、金製の工芸品を使うことによっていろいろな問題が発生する。工芸品は動かすときに作者の許可が必要。『これ私のだから』と、言っても『違う』と言われる。それに紙幣の、インクずれのような手変わりは作者にしかわからない」と言う。公安は脳裏に浮かんだ「犯人である確率〇%」の文字を見て、軽く一礼して寺院を出た。遠くから五〇人ほどの、寺院の修道士たちが小走りに近づいてくる。公安が門の前に立っているとうじゃうじゃ集まってきた。ひとりが「てめえも魔神集団の仲間だな」と言いながら殴りかかってくる。公安がハイキックを顔面にヒットさせた。一斉に殴りかかってくる。公安がハイキックとまわし蹴りを機械でできた人形のように、人数ぶん顔面にヒットさせて全員倒れた。倒れている男に目撃者のことを聞くと、「うちの総長だ」と言う。公安は事件の寺院に行く。寺院の広場に白い胴衣を着て、剣を持った目撃者の男が立っていた。公安が「おまえが犯人か」と、聞くと剣を振りかざして向かってくる。公安は剣を振り下ろした瞬間にふせて、男の両足を払い飛ばす。倒れた男がかぼそい声で「私は力のない年寄りです・・」と言う。公安が顔を近づけると、男が右手の人さし指となか指で、公安の目を突いてくる。公安が左手で受けとめて右手を男の首にかけると、男は「おれが殺した」と言う。公安は男を逮捕した。


超IQ研究所クラスター㊿

2019-08-15 10:00:29 | 小説
 昭和五年一二月未明。北京の数学研究所で所長が、斧で頭をわられて死亡している事件が起きた。死体は午前八時三〇分に研究所の、四〇代の男性研究主任が発見している。犯人は主任のようだが人間を、超越した理由がありそうなので公安(中国の警察)は変則的に捜査を始めた。公安は主任から事情を聞く。そこは円周率の計算をやっている研究所で、五〇代の男と女が計算していた。ストーブの反対側にある壁一面に、計算用の紙が積まれている。三〇年前から計算していて一日に七万けたのかけ算と、足し算を三回ずつやるという。公安が「検算はどうしてるんだ」と聞いたら主任は中央の直径五mほどな、金属製の円盤を指さして「実測値にもとづいた級数を使用して計算してる」と言った。円盤は三〇年前からあるらしくてかなり錆びている。検算はしてないらしい。計算している男と女は男が前日の計算用紙を見ながらかけ算して声で女につたえて、女が足し算して用紙に記録していた。主任が「計算が終わった用紙を売っています」と言う。公安が買い手の台帳を見せてもらうと、千人ほどいて毎年新しい計算用紙を買っている。公安が「計算してる二人と話をしたい」と言ったら、主任が「停止」と叫ぶ。計算していた男女は、三〇年前は大学生だったという。公安が所長のことを聞くと、「三〇年前は所長も同じ大学の研修生でした」と答える。研究所の建物は、所長の家を改築していた。公安が「主任はいつからきてるの」と聞いたら、女が「六万けたを超えてからです」と答える。公安が「一年で千けただと一〇年前ぐらいか」と聞いたら、女が「以前は一日に四回計算してましたからそれよりあとです」と言う。公安の脳裏に、たそがれた女の小じわをとり消したような、つやつやな肌の、大学生の表情が浮かんだ。公安はすべてのたそがれが、円周率の計算で片づけられるような気がした。公安は研究所を出て、最近計算用紙を買った喫茶店に行く。店主は「うちは理工系の学生が多いから毎年買ってるよ」と言う。公安はもう一軒の酒屋に行く。酒屋は「数字が並んだ計算用紙を見てると、気ぶんが爽快になる」と言う。一分間に数字を三〇〇ほど書き込む作業はでたらめでいいわけだ。公安は研究所に戻って主任から事情を聞く。公安が「数字が不正確なことで所長と口論になってただろ」と聞いたら、主任は壁に頭を軽くぶつけながら「『やめたい』と言ったから殺した」と白状する。公安は主任を逮捕した。


超IQ研究所クラスター㊾

2019-08-14 10:28:06 | 小説
 昭和四年九月未明。吉林の、水力発電所の建設現場で現場監督が、むちで打たれて死ぬという事件が起きる。凶器のむちは、死体の横に置いてあった。現場監督は他に四人いてそれぞれ自ぶんのむちを持っている。死体は昼食後にトイレのそばで炊事係が発見した。食堂は労働者を約二〇〇人収容できる宿舎のなかにあって、少し離れた場所に現場監督の事務所がある。トイレはその中間だ。公安(中国の警察)が年長な現場監督からむちのことを聞くと、「あいつだけ特殊なむちを使ってた」と言う。公安が「むちはいつも持ち歩いてるのか」と聞いたら、「食事のときは事務所に置いてる」と答えた。公安が「なぜ金属片を入れてたんだ」と聞いたら、「鉄骨を打つと響きがいい」と言う。公安が「鉄骨が入ってるのか」と聞いたら、「鉄骨は現場に置いてあるだけで、型わくにコンクリートを流し込むだけ」と答える。建設現場は宝石を、並べたお盆を陳列したショーケースのように輝いていた。公安が顔に竜の入れ墨を入れている労働者から、死んだ現場監督のことを聞くと、「地面をむちで打ってるだけだ」と言う。むちで打たれた人間はいないようだ。公安の脳裏に、労働者の誰かが倒れている現場監督を、ふだんの動作をまねするようにむちで打っている光景が浮かぶ。死因は首からの出血死だ。むちは水平方向に振ると、自ぶんに当たる恐れがある。公安が年長の現場監督に「昼休みは、なにをやってた」と聞いたら、「あいつは休憩しないで資材をいじくってたよ」と言う。公安が「むちは」と聞いたら、「にぎる部ぶんを汚さないように、近くに置いてるよ」と言った。公安が他の現場監督から事情を聞くと、「炊き出しの女が、菓子を仕入れて売ってるんだが、労働者が甘い物を食べ始めると、歯どめが効かなくなるんだよ」と言う。公安が「甘い物をどうやって売ってるんだ」と聞いたら、「声にならない声で『歯の神経が引っ込むよ』と言ってる。少しでいいと思うんだけどな」と答えた。公安はもういちど現場を調べる。甲羅の大きさが、二〇㎝ぐらいの亀がいた。甲羅に五㎝ほどの直角三角形なひっかき傷がある。夕方犯人が自首してきた。男は下流の村からきている労働者で首すじを搔きながら「あの男が亀をつかまえようとしてたから殺したよ」と言う。公安は男を逮捕する。そこの村では、亀が最高の神で「神のしるしを甲羅につけた」と言う。


超IQ研究所クラスター㊽

2019-08-13 10:31:08 | 小説
 ゲームにはそれぞれ攻略法がある。タイトルは自転車屋。

 昭和五年一〇月未明。香港で自転車屋の店主が、拳銃で撃たれて死ぬという事件が起きる。公安は死体を見て脳裏に麻雀卓がよぎった。公安(中国の警察)が奥さんに「店主は麻雀をやってたか」と聞いたら、「新新さんの家でやってたわ」と言う。公安はそこへ行く。大きな屋敷の部屋に麻雀卓が並んでいた。公安が新新に事情を聞くと、「うちは会員制だから、この場所は秘密なんです。あなたも半チャンだけやりませんか」と言う。公安は「半チャンだけだ」と言って空いている麻雀卓の椅子に座った。新新がひと声かけると三人集まって四人で麻雀を始める。公安は最後の親番だったが、配パイがよくて三回続けてあがった。最後の局も配パイに白と中が三枚ずつで、発が二枚ある。公安が大三元をテンパイして、当たりパイをつかんだ男が「あの人はいつも勝ってましたね」と言いながら、安全パイを捨てた。公安の脳裏に落ち葉が積もった森を、歩く男女が浮かんだ。当たりパイは想像で捨てると、「ロン」と言う声が聞こえるらしい。公安がツモあがって点数計算をすると、新新が「あの人は女がいるんですよ。これは食事代」と言いながら、住所を書いたメモ紙と、紙幣の束を公安に渡そうとする。公安はメモ紙だけ受けとってそこを出た。女は浮気相手みたいだ。公安はその家に行った。玄関に人力車がある。公安は引き戸を開けて入って、なかの女に「ご主人は人力車を動かしてたんですね」と声をかけた。女が「兄がなにか」と言う。そのときトイレで「がたん」という音がした。公安が家に入ってトイレのドアを開けると、窓わくが外れていて、走り去る男の姿が見える。公安が女に立ち寄りそうな場所を聞くと、「人力車の組合ならかくまってくれるかも」と言う。女は新新の家で、パートで働いていて自転車屋の店主と関係ができたようだ。自転車屋は勝った金で人力車のオーナーになっていたという。公安は動機が不じゅうぶんだと思いながら人力車の組合へ行く。大きな長屋風の、建物の前に人力車が並んでいた。公安が建物に入ると入り口の、横のテーブルに拳銃を置いて、ソファーに犯人が座っている。人力車の運転者は武道家が多いため派手なアクションを、どっちが考えるか打診しながら「どうして殺したんだ」と聞いたら、犯人は「下り坂で『馬より速く走れ』と言ったから殺した」と言う。公安は犯人を逮捕する。拳銃は「イギリス人の客から買った物」だ。男はそら耳で聞き違えたらしい。


超IQ研究所クラスター㊼

2019-08-12 11:08:16 | 小説
 昭和四年八月未明。北京で石材屋の社長が、道路工事現場で、なに者かに石材で殴られて死ぬという事件が起きた。凶器の石材は重さが一五㎏ほどあり、運搬用の重機などは使用してないため事件として公安(中国の警察)が状況を調べている。事件当時は昼食時間で社長が五人の作業員に、昼食を届けにきていたようだ。作業員の話によると社長は自転車できていて、作業員は全員石材をはめ込む境界付近で、食事中で「帰ったと思った」と言う。社長は完成した道路に自転車をとめて近くで、死んでいる。凶器の石材は、自転車のそばに並べて置いてあった物だ。公安は石材屋に行って奥さんから事情を聞く。奥さんは「うちは建築じゃなくて道路用石材の会社です」と言う。建築用と違って車輪がからまわりしないように、表面がでこぼこした石材を使うらしい。公安は石材加工場の従業員を見たが一番大柄な男で、身長一m八〇㎝ぐらいで動機がなさそうだ。公安が声をかけると、「ここは昔の処刑場あと地でよく幽霊が出ますよ」と言う。公安が「どんな幽霊が出るんだ」と聞いたら、「SF小説の作家だった人で宇宙人と戦う方法を説明します」と言った。公安が奥さんに幽霊のことを聞くと、奥さんは「以前『画家の幽霊がいる』と言って、画家の人が手つだいにきてましたけど『へたくそで使い物にならない』と言って帰ったわ」と言う。公安が思い出したように「道路工事でトラブルがなかったか」と聞いたら、奥さんは「ないわ」と言いながら、なにかのちらしにペンで線を書いて「犯人はきっとこいつよ」と言った。世界革命集団の、文字の下に線が引かれたちらしだ。性能不明で高額な機械が数点書いてある。公安は自ぶんの手帳に書いた「透明人間になる装置」と、「瞬間移動できる装置っ」と「時空を越える装置」を使って、社長の殺害現場を見た。ちらしを持ってきた男が犯人みたいだ。公安はちらしに書いてある住所へ行く。外に荷車をとりつけた自動車がある。玄関を入るとなかは納屋のようになっていてへんてこな装置が並んでいた。公安は発電機に、燃料を入れている男に「世界革命集団か」と、声をかける。男は「われわれは人類に有益な発明を・・」と言う。そこには高さ二mぐらいの電動昇降機があった。公安が「石材屋の社長を殺しただろ」と聞いたら、男は「あれは事故だ」と答える。公安は男を逮捕した。昇降機は重量品を持ち上げて押し出す構造だ。「売り込みに行ってた」と言っている。


超IQ研究所クラスター㊻

2019-08-11 10:32:14 | 小説
 昭和五年九月未明。上海の、家具販売店の倉庫で家具職人が、刃物で刺されて、死んでいる事件が起きる。死体を発見した店主の話によると死んだ男は、安楽椅子専門の家具職人で「今日納品の予定だから倉庫を開けてた」と言う。公安(中国の警察)は死んだ家具職人の工房へ行く。工房は長屋の壁をくりぬいてできていて、つくりかけの安楽椅子が一〇脚並んでいた。安楽椅子の買い手は老人が多いという。死んだ家具職人は、なにを夢見ていたのだろうか。奥に布団が敷いてあって、金属の筒が六本並んでいた。金属の筒はバズーカ砲だ。弾をセットして、上部のレバーをスライドさせてばねで起爆させる構造になっていた。どれも弾が入っている。工房に人が近づいてきた。公安は裏口から外に出る。男が二人工房のなかに入った。ひとりは身長が二m近くあるイギリス人の男だ。公安は窓からなかの様子を見た。中国人の男が「日本軍の武器庫を破壊する係がこないとなにもできない」と言っている。イギリス人が「かわりの兵隊は、いるのか」と言った。中国人の男が「いま手配してる」と言う。中国人の男が家具職人を殺したようだ。イギリス人が「とにかく回収しようか」と言う。公安は「いやだなあ」と思いながらも戦いの霊魂が憑依してくる空気を感じた。公安は入り口にまわる。イギリス人が四本と、中国人の男が二本持って出てきた。公安が姿を見せると、中国人の男がバズーカ砲を一本地面に置いて、もう一本を立てひざの姿勢で公安に向けて発射する。公安がふせてよけると向かいの、石づくり倉庫の壁に命中して、爆発音とともに壁がくずれ落ちた。公安は中国人の男に向かって走って飛び蹴りを食らわせたがバズーカ砲で受けとめられる。イギリス人がバズーカ砲を下に置いて、拳銃をとり出そうとしていた。公安が飛びはねてキックをイギリス人の顔面にヒットさせると、イギリス人は後ろに倒れて頭を打って気絶する。中国人の男が、もうひとつのバズーカ砲で公安を狙って発射したが、長屋の玄関付近に命中して、長屋の半ぶんほどが吹き飛んだ。公安は飛んできた木材の下敷きになったがすぐ立ち上がった。中国人の男も立ち上がってナイフをとり出して公安に切りかかる。公安が飛びはねて片足でナイフをはじき飛ばすと、男の肩口に刺さって男がうずくまった。公安は二人を逮捕する。イギリス人は日本軍の武器庫に金塊があると思って計画をして、中国人の男は家具職人を、殺したことを認めた。


超IQ研究所クラスター㊺

2019-08-10 10:11:01 | 小説
 昭和四年九月未明。ハルピンで布団屋の経営者が、羊毛の束に顔を押しつけられて死んでいる事件が起きた。布団屋は店員が三人と、工場に従業員が五人いる。死体は事務所に、置いてある羊毛にうつぶせの状態で発見された。奥さんは事務全般を担当しているが、仕入れ先へ出張に出ていて現在連絡をとっている最中だ。死体を発見した工場の従業員は「朝に、出勤簿に、記入しに、事務所に入ったら社長が死んでた」と言う。公安(中国の警察)は昨晩「殺人事件と動機について」の論文を書いていて途中で、こんな頭になってやめたことを思い出した。工場はいつも従業員より先に社長がきていて、奥さんは出張が多いらしい。工場を調べると羊毛は事務所に置いてあるだけで、工場は綿の布団を生産しているようだ。死んだ経営者は婿養子の四二歳で、奥さんは四八歳。公安が工場のリーダーに、奥さんの、両親のことを聞いたら「奥さんと出張に出てるけど」と言う。公安が「出張してなにをやってる」と聞いたら、「とり引き先にとまり込んで麻雀をやってるよ」と答える。奥さんと連絡がとれた。「香港の、綿織物業者の家にいるけど。麻雀で負けて店と工場の権利をとられたわ」と言う。公安は放蕩を燃焼させた奥さんの、国家に対する意見を聞いて、思わず電話を切った。公安は殺し屋が近くに潜伏していると考えて布団屋を張り込む。翌日の午後に、殺し屋風の男と、地もとの若者三人が、布団屋の店先で店員とこぜり合いながら、「ここはうちの店だあ」と叫んでいた。公安が出ていくと、若者が「てめえは引っ込んでろ。おれたちに権利があるんだ」と言いながら殴りかかってくる。公安はパンチを手のひらで受けとめて、腕をつかんで背なかの方へひねり上げた。他の若者二人が公安につかみかかってくる。公安がキックを顔面に連続でヒットさせて若者二人は倒れた。殺し屋風の男が、背広のポケットから拳銃をとり出す。公安は腕を、つかんでいる若者を殺し屋風の男へ向けて突き飛ばして空中に飛びはねる。拳銃の弾が、公安の股下を通過した。公安は着地してすぐに、低い姿勢で殺し屋風の男に近づいて足払いを食らわせたが倒れない。男はにやりと笑って銃口を足もとの公安に向ける。公安は両足を使って、男のひざをはさみつけて前に転倒させた。公安が馬乗りになって、男の顔を地面に押しつけると、男は拳銃を捨ててあきらめる。公安は男を逮捕して、男は布団屋の店主を、殺したことを認めた。


超IQ研究所クラスター㊹

2019-08-09 09:59:01 | 小説
 昭和五年一〇月未明。上海の、船荷保険の会社で営業まわりにきた銀行員が、射殺される事件が起きた。射殺された銀行員は事務所の奥で所長と話していて、「所長はいるか」と、押しかけてきた犯人に所長と間違われて撃たれたらしい。死体を見ると顔に信号弾が命中している。公安(中国の警察)が所長から事情を聞くと、「あの男は、漁船のオーナーだ」と言った。魚を船荷扱いできなくなったから、解約の手続きをしたが「どうにかしてくれ」と、なんどか会社にきていたという。公安は住所を聞いて漁船の、オーナーの家へ行く。そこには木造の長屋が三棟あって、同じ敷地にブロックづくりの一軒家がある。公安が一軒家に近づくと、長屋の方から木刀を持った若者が三人近づいてきた。ひとりが木刀を振りかざして公安に向かって走ってくる。公安は飛び蹴りで木刀をはじき飛ばす。あとの二人が後ろにまわり込む。公安が連続まわし蹴りを二人の顔面にヒットさせる。長屋から長さ一mぐらいの鉄筋を振りかざした男が二人出てきた。鉄筋の先端がとがっている。先端を向けて並んで走ってきた。公安は高く飛びはねて二人の顔面に片足ずつ蹴りを入れる。一軒家から刀を持った男が出てきた。小学生の息子(被害者幽霊を小学生に変換して対話する特殊能力がある)が「船荷保険の友達たち」と言っている。公安の脳裏に、当たり前すぎるとうまくいかないなにかの対戦競技が浮かぶ。公安は男に石を投げつけてから一軒家のドアまで走って、ドアをたたきながら「出てこい」と叫んだ。刀の男は遠巻きに見ている。五秒ほどでドアが開いて、白髪まじりの男が「おれは漁師だから」と言いながら出てきて自転車でどこかに行った。犯人のようだったが公安は一軒家を調べる。なかに若い女がいて「港の、倉庫の事務所に行ったみたいだけど」と言う。公安は自動車を手配して港の倉庫へ向かった。倉庫に着く。自動車の運転をしていた若い公安に「自動車を破壊されないように見張ってろ」と指示して事務所へ向かう。事務所から鎖鎌を持った男が出てくる。公安が近づくと鎌を投げつけて地面に突き刺さってからすぐ引き抜かれた。事務所からさっきの男が出てきて公安に向けて信号弾を発射する。公安がよけると、信号弾の光が背なかを通過して、自動車のフロントにめり込んだ。公安が走って近づくと、鎖鎌の男が鎌を投げつけてくる。公安は鎌を片手で受けとめて鎖鎌の男に突進して飛びついて、男の首に鎖を巻きながら、犯人の顔面にキックした。公安は犯人を逮捕する。


超IQ研究所クラスター㊸

2019-08-08 10:33:35 | 小説
 昭和五年八月未明。長春で野菜問屋の経営者が、カボチャで頭を殴られて死ぬという事件が起きた。経営者は事務所で、あおむけの状態で殴られている。野菜問屋は男性従業員が九人いて、経営者の奥さんが事務全般をやっていた。早朝に八百屋が荷車で、野菜を買いつけにきて従業員が応対して午前九時ぐらいまではいそがしい。野菜の入荷は、午後からのため、それまでの時間はひまだが、事件当時は事務所に経営者しかいなかったという。公安(中国の警察)が奥さんに事情を聞くと、「朝から直営店の、八百屋の手つだいに出てて知らせを聞いていま戻ってきたんです」と言った。死体は午後に、入荷の台帳をとりにきたリーダーが発見していてリーダーは「全員倉庫で作業してたよ」と言う。そこでは百個積んだ木箱を、ひとつずつずらすような作業をときどきやっているようだ。経営者は三五歳で、奥さんは四〇歳。子供はいない。経営者は婿養子で奥さんの両親が、以前は現場にきていたが腰を悪くしてから近づかなくなったという。公安が一番年上の、五〇代の従業員から事情を聞くと、「奥さんと結婚する前は社長がリーダーだった」と答える。公安が「結婚してからなにか変わったか」と聞いたら、「二倍ぐらいいそがしくなったけど社長は現場を手つだわないで昼寝してることが多くなった」と言う。公安が「従業員のかずは、増えたのか」と聞いたら、「同じだけど」と答えた。公安が「どうしていそがしくなったんだ」と聞いたら、「高い値段で仕入れて、同じ値段で売ってる」と言う。公安が「どうしてだ」と聞いたら、「社長は農家の出身で、そのせいかも知れない」と答える。公安は読み書きがまるでできない紀元前の、奴隷のような雰囲気に圧倒されて、歴史の重さをかみしめた。公安は町に、もう一軒ある野菜問屋に行って事情を聞く。そこの経営者は「物が入ってこないのでうちもあそこから仕入れて小売りをやってるよ」と言う。従業員は全員小売店に出払っていて、がらんとした倉庫にカボチャだけあった。「カボチャはうちの直営農場でつくってる」そうだ。ここは領収書ぐらいなら書けそうな雰囲気がある。公安が「高い値段で仕入れて商売になるだろうか」と聞いたら、「電話で送り主と綿密に確認していい物だけ仕入れればできるよ」と言う。死んだ経営者の昼寝は、深夜まで現地と電話のやりとりをしていたことが原因だったらしい。公安は直営店の八百屋を張り込んでいた。直営店は二か所あって事件後も奥さんが、どちらかの店で働いていたがどちらも繁盛してない。公安が古代ローマの、剣闘士の試合で、連敗中の剣闘士が、血が入った袋を落として、観客に野次られている場面を想像しながら、奥さんに「カボチャは売れてますか」と声をかけたら、奥さんは涙を流しながら「私負けるのが大嫌いなんです。うちも小売りに、力を入れるように、主人に言ったけど反対されたので殺しました」と言う。公安は連敗中の剣闘士が、運営上の都合で勝たせてもらえると錯覚して剣を、落として負ける場面を想像しながら、奥さんを逮捕する。


超IQ研究所クラスター㊷

2019-08-07 10:30:01 | 小説
 昭和五年五月未明。北京の見世物小屋で経営者が、首を斬られた死体で発見される事件が起きた。見世物小屋は入り口におっぱいが見える首なし女のポスターを貼って、小屋の通路に、血だらけの人形を並べたお化け屋敷だ。公安は入り口の時計を見ながら「そろそろ思考描写の時間だな」と思った。気になるのは、九四歳な公安OBの話だ。 以前憑依してきた人物はやはり公安OBだった。九四歳になって人間の限界点を見ているという。それは自ぶんの年齢じゃなくて読み書きが、ままならない下級官吏がぞうの寿命ぐらいで、死ぬ境界のことみたいだ。読み書きがままならないと、若者につたえることが、なにかの痛みだけになって自ぶんから、痛みを求めるようになるという。事象の構造に、対する観察眼の、なんらかの代用物が消失して、代用物を動物のように追跡してそうなるらしい。現場は死んだ経営者が三五歳で男性従業員三人と美術学校の同級生。白骨死体や腐乱死体の人形があることからわりと繁盛しているみたいだ。昨日はレイアウトを経営者と、男性従業員三人で変えていたという。男性従業員は人形づくりの担当が二人と、舞台装置の担当がひとり。公安は切腹している人形がいいと、思ったが脳みそを食べている女と、食べられている男の人形もいいと思う。出口そばに太った女の、裸の人形があることも印象的だ。見世物小屋は人形だけで通常に営業している。公安が舞台装置の男に「ここは、なん年前からやってるんだ」と聞いたら、「一〇年前に銀行から資金を借りて四人でつくった」と言う。公安が「ずっとやるつもりか」と聞いたら、「将来はもっと大きな見世物小屋をつくりたい」と言った。そして「音響装置や光線が動きまわる装置をつくって満員にする」と言う。その日見世物小屋は異常ににぎわっている。公安は人形づくりの男二人を道具部屋に、舞台装置の男を従業員控え室に待機させて、事情を聞いていた。公安が舞台装置の男に「空中を飛びまわる装置はつくらないのか」と聞いたら、「骸骨が空中を飛びまわるしかけもつくろう」と答える。そのとき客が「トイレはどこですか」と言いながら従業員控え室に入ってきた。舞台装置の男が「出口のそばにあるよ」と言って客を案内する。公安は人形づくりのひげをはやした男に「本物だと繁盛するな」と言う。男は「社長に『血がつくり物に見える』と言われておれが殺したよ」と言った。公安は男を逮捕する。