むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所 「月星人」抜粋③

2019-03-31 11:31:42 | 小説

 おれは火星にあるRE出版の人気雑誌、「地球人」の編集長だ。それでは別な地球の自転要素を考えてみよう。こんどの地球は精密な装置で自転している。この地球では、大きい物体の中心は無重力空間になっているという物体法則が必要だ。その場合に、地球の中心に、埋設した機械仕かけの装置で自転させることができる。無重力空間の条件は加速だ。球体の中心にかかる重力負荷がそれで、もともと自然に地球がまわる要素は、あるのだが、中心の空間が閉塞されていると作動しない。とにかくその空間を開閉させる装置がある。もちろんそれは先祖がつくった装置だ。火星にも同じ装置が、埋設されているようだがどうやら人間の思考に反応する構造らしい。それは単に物を見ているときの生体反応じゃなくて、人間が文字を読むときの、超音波のような物を感知して少しずつ動いているようだ。火星では国勢調査の聞きとりによって、この、装置の解明がかなり進んでいる。この、装置の特徴は誰も文字を読まないと自転速度が速くなることだ。オリンピックの中継などで文字を読む人間が少なくなると、一時間で一〇分ぐらい自転が速くなる。一〇分というのは、平均に対しての目安だが、そのくらい無重力空間が持っている加速は大きい。人間が思考で対話できる構造はこの、装置の感知機を経由していて、耳の構造みたいに、地球の中心に装置がある。そして文字をたくさん読んで自転に作用すると、時間の進行に、大きく影響をおよぼすことになるな。そう。声が大きくなる。そこでわれわれは重要事項が書いてない地球型書式を地球人に勧めているわけだ。読み書きがままならぬやつの、声が大きくなった場合はこの地球を起動させよう。RE出版では絶滅してゆく読み書きがままならぬやつと、思考で戦う地球人の思考文芸特集が売れている。地球では長々と書かれた小説の登場人物が、なん歳で死ぬか調べたり覚えたりしている人々がたくさんいるだろう。火星ではすべて千文字で表現されてすぐわかるようになっている。さて。現在火星では地球における人間向け文字列の検索手引きを整備中だ。従来の生体反応感知と併用して、文字の読みとり状況を把握することが可能。つまり装置を火星で開発することもできる。実はこの装置にもうひとつ特徴があって、脳裏に文字列が、浮かぶことがあるようだ。そして浮かんだ文字列を読めないと負荷がかかって死ぬこともあるらしい。

  おわり

 


超IQ研究所 「月星人」抜粋②

2019-03-30 10:39:35 | 小説

 おれは人類で初めて大気圏の外に出た宇宙飛行士だ。地球の上空にはジェット気流があって、ジェット気流の下で偏西風が吹いていて、それがヒマラヤ山脈に当たって、地球が自転している。ジェット気流がなぜ発生するかはさらに上空の、電離層からなんらかの、作用を受けているらしいぐらいのことしかわからない。そして電離層の外に出ると時間が、停止している可能性があった。つまりいちど外へ出てまた地球に戻ると、未来の地球になっているわけだ。しかし無人の月周回衛星は、みかけの時間どおりに地球へ戻ってきた。大気圏の外は、時間が停止してないのだろうか。実はそれまでの、無人衛星の観測記録にすべて不規則性が観測されていた。それは防犯用撮影装置に別な画像を、入力したように、巧妙に記録が入れ替わっている。そして世界各国の宇宙科学者は「大気圏を出た直後に、宇宙人が画像や交信記録を入力して地球に送り返してるようだ」という結論を出す。過去に人間が乗った宇宙船で、大気圏の外に出る試みはいくつかあった。しかし電離層の周回中に、「私はあなたの子孫です。大気圏の外に出ると私が存在できなくなるから引き返してください」と言う声を聞いて全員地球に引き返している。ある学者は「遠隔操作しかできない推進装置に死刑囚を乗せたらどうだろうか」と言ったが、「税金のむだ遣いだ」と反対された。しかしおれが人類最初のそれに選ばれる。おれの宇宙船は電離層を三〇回転した。三〇回目の月に向かってまっすぐだ。宇宙船が周回軌道からそれた。「無重力はどうだね」と言う学者の声が聞こえる。重力があるというよりは、宇宙船が、動いている気配がないみたいだ。速度計は表示されているだけで変化がない。学者の「成功だ」と言う声が、歓声とともに聞こえた。実際と違った幻を見ているのだろう。するとおれに成り代わった宇宙人が、地球に帰還するわけだ。みかけの時間で、一か月ぶんの宇宙食がある。おれはそのひとつを食べた。地球外の、この空間でおれは神と同じだ。ここの一日を、地球の二千年にしよう。そのとき「あなたは神じゃない」と言う声が聞こえて、宇宙船が地球の方向へゆっくりと動き始める。宇宙船は大西洋に着水した。いまおれは西暦二二一七年の、国際刑務所のなかにいる。記録によるとおれは月の裏側で消失したらしい。軌道を逆算して過去に戻る方法が、あるようだがおれはことわった。

  おわり

 


超IQ研究所 「月星人」抜粋

2019-03-28 20:37:13 | 小説

 おれはカナリアの特徴を考えていた。文鳥よりも細身で目もとが、どこか老けた感じがする。おれは国語辞典をめくりながら読み書きがままならぬやつの、心のカナリアを考えた。国語事典を開くと読み書きが、ままならぬやつが「おれの」や「おれが」と言いながら一体化してくる。国語事典にはカナリヤとも書いてあるな。外来語は読み書きがままならぬやつの得意ぶん野だ。おれは外来語じゃないカナリアを考えた。巨大かなりあ四番目だ。体長が一m六〇㎝ぐらいで他は普通のカナリアと同じ。人間のことばをしゃべるときは、くちばしを開けないで、目を大きく見開く。毛づくろいをしたり、拡大した大きさのうんこをしたりするが鳴くことは、ない。えさは魚だ。時速九〇〇㎞の速さで、海まで行って魚を食べてからもとの場所に戻ってくる。巨大かなりあは高い建物の屋上から下界を見下ろしていた。巨大かなりあは放送局で働いているふりをすることがじょうずだ。読み書きがままならぬやつに合わせて、合成語をふんだんに使って話すことが得意らしい。しかし巨大かなりあはあまり役に立ってない感じがする。でも巨大かなりあの寿命は人間と同じくらいだ。読み書きがままならぬやつを、絶滅まで案内することができる。おれは国立公園に黄色やだいだい色の、巨大かなりあの繁殖地をつくった。繁殖地で生まれた巨大かなりあは読み書きが、ままならぬやつがいる町や大都会へ向かう。おれはここまで書いて鳥かごに飼われている普通の、カナリアのことを考えて疲れてきた。飼い主と目が合いそうになる。おれは適当なつくり話でごまかそうと思ったが、本当の話がわかった。人間には死の行列がある。それは三千人ぐらいの行列で、先頭に立った人間はしばらくしてから死ぬ。死の行列には若くて健康な人間も並んでいる。先頭に立った人間の本体が死ぬと行列から姿を消す。おれは死の、行列の先頭に立っていた。おれはそこがどこで、なんの行列かわからないが先頭にいる。さりげなく横を見ると昔飼っていたいんこが巨大になって体当たりしてきた。おれは行列からはみ出て倒れる。おれは死の行列を横から見た。巨大かなりあも行列を見ている。おれは行列の、進行方向の逆へ歩いた。巨大かなりあがときどき並んでいる人間に体当たりして列からどかしている。おれは行列の最後尾を見た。巨大かなりあが空から人間を運んでいる。おれは赤土の大地をできるだけ遠く走った。

  おわり


超IQ研究所  広島原爆について(約3200文字)

2019-03-22 15:56:43 | 小説

 今週は春分の日が間にはさまっていつもより長く感じる一週間ですね。それでは超IQ研究所よりIQ250の中国人、機山が解読した「広島原爆」を紹介しましょう。


 昭和一〇年未明。浄土島斬り男三〇歳は鳥取にある薬屋の次男だったが、原料の仕入れを探す関係で、長春の治安部隊(日本軍)に志願していた。治安部隊の仕ごとは礼儀正しくふるまってなにもしないであちこちうろつくだけだ。斬り男は農家をまわって、原料を物色していた。ある日斬り男は一か月ぶんの棒給をはたいて骨董屋で、「日本人のルーツが見える」という紀元前の壺を買う。当時は日本軍の関係者を相手に、骨董品を売りさばく店がたくさんあって、商業店舗のほとんどで骨董品をとり扱っていた。斬り男は水さし用の壺を調べて、慎重に選んで本物を買ったつもりだったが、買った翌日に「失敗作だ」と言う陶芸家の声が聞こえる。幽霊じゃなくて人間だ。斬り男は買った骨董屋の店主にかけ合った。店主は「間違いなく本物ですよ」と言う。斬り男が返品を要求すると、店主は「仕入れに使う金がなくなる」と言ってことわった。斬り男は逆上して店に飾ってあった古代の剣を、店主に突きつける。店主は「それは××の剣で高級品」と言う。斬り男は剣で店主の首をはねる。はねたというよりは剣が店主の首にめり込んで、血しぶきが飛び散った。それを見ていた奥さんが叫ぶ。斬り男はとがっている剣の先端で、奥さんの胸を刺して引き抜いた。斬り男が洗面所で返り血を洗っていると、小学生の息子(店主を小学生に変換した幽霊)が出てきて「こんにちわ」と言う。斬り男は軽くうなずいてその場を去った。次の日に辞令が出て、斬り男は軍の山岳部隊に配置転換される。山岳部隊の仕ごとは毎日山に登ってゲリラが潜伏していると思われる場所を探索することだ。見えない敵と真剣に戦う山岳部隊の仕ごとはきつくて、斬り男はくたくたになった。斬り男はある日「ゲリラの指導員を掃討した証拠があれば帰国してもいい」という情報を耳にする。斬り男が軍の情報部で確認すると、「本当だ」と言う。斬り男は休暇をとって情報部で聞いた「証拠を確認する場所」へ行った。旅順の港に、近い教会の前に人だかりがある。奥で入り口に机を置いて、焼けた帳面を鑑定している軍服姿の男が見えた。書き写したり別に書類を書いたりして、一〇分ほどで証明書を手渡している。斬り男は出てきた男に「証拠をどこで買ったんだ」と聞く。男は「あそこの喫茶店で買える」と言いながら喫茶店を指さす。斬り男は証拠を買って無事に帰国した。帰国した斬り男は仕入れ先の開拓がおしゃかになって、実家に帰れず、広島にある在郷軍人会の宿舎で生活を始める。そこでは本物の、紀元前の壺が手に入った。壺を見ていると心が晴れやかになる。斬り男はラジオを聞きながら、壺をながめて、酒を飲んで、毎日をすごした。在郷軍人会の宿舎に、よく華僑が金貨を売りにくる。斬り男は安い焼酎しか飲まなかったので買うゆとりがあった。斬り男は十円金貨と二十円金貨を一枚ずつ持っている。どちらも「本」の文字に手変わりが、ある物だったが斬り男は気づかなかったので本を書く気にも、読む気にもならなかった。斬り男は気晴らしに突撃ラッパを吹いたり、馬を乗りまわしたりしながら、毎日をすごす。斬り男は年月がたつのを忘れた。
 昭和二〇年八月六日未明。広島にある在郷軍人会の、事務所の真上に原子爆弾が投下される。斬り男は消失した。斬り男は骨董屋の床で目が覚める。夢だったのか。そばに店主と奥さんの死体がある。斬り男が起き上がって返り血を洗面所で洗っていると、小学生の息子が出てきて「部隊に戻って」と言う。斬り男が向かった先は山岳部隊の宿舎だった。宿舎の前に不思議な装備品がずらりと並んでいる。隊長が「これよりゲリラ掃討作戦を行う」と叫ぶ。斬り男は光が輝くなにかの金属でできた剣を手にとった。部隊が宿舎を出ると、道路に剣を持った古代兵士の大軍がいる。隊長が「ぶった斬れ」と叫ぶ。古代兵士の胴体は服に砂袋が織り込まれていて、胴体を斬っても砂が落ちるだけだった。意識的に剣をぶつけると相手も合わせてきて、えんえんと剣をぶつけ合う。剣をぶつけた状態で古代兵士と目が合ったら、古代人の濃い息づかいが聞こえてきてやめたい気ぶんになる。斬り男はなるべく相手の目を見ないようにして、立ちまわりの演技みたいに剣をぶつけた。隊長が「首をはねろ」と叫ぶ。斬り男は古代兵士の首をはねようとしたが、相手が飛びはねてかわす。斬り男は相手が軽やかに着地したのを見て「剣をぶつけ合うのはめんどうだな」と、思っていると古代兵士に首をはねられた。斬り男はまた骨董屋の床で目が覚める。洗面所で顔を洗うと小学生の息子が出てきて、「石をぶつけるといい」と言う。宿舎に戻るまでは普通の町並みだが、なぜか他のことができなかった。斬り男は宿舎に戻って「光の剣」と「投石器」を持ち出す。投石器は石とレバーをセットして、車輪を動かすとゴムが伸びて、重さ一㎏ぐらいの石を投げ飛ばせる構造だ。斬り男が投石器を押して宿舎の外に出ると、古代兵士の大群がいる。投石器を水平にセットして、向かってきた古代兵士に発射すると、頭に命中して倒れた。斬り男は倒れた古代兵士の首をはねる。斬り男が投石器に戻ろうと、すると別な日本兵が投石器を押しながら前へ進んでいた。斬り男が「それはおれがやるから」と、叫ぶと別な古代兵士が剣をぶつけてくる。斬り男はいつからか毎日同じようなことを果てしなくくり返していた。古代兵士の首をはねても次々と出現する。首をはねられると骨董屋の床で目が覚めた。斬り男が古代兵士を倒した最高記録は三人だ。装備に電動カッターがあってそれを使用する日本兵は、おもしろいほど古代兵士の首をはねていたが、斬り男はいちども使ったことがなかった。斬り男は相手の首をはねた回数よりも、はねられた回数の方が多い。ある日斬り男は古代兵士と剣をぶつけ合っている最中に、空からたれ下がったロープを発見する。斬り男は古代兵士を押し飛ばしてロープによじ登った。斬り男が登っていくと、ロープが左右にゆれている。下を見ると他の日本兵たちもロープに登ってきていた。斬り男は剣で足もとのロープを切る。叫び声がして、ロープが軽くなった。ロープをどこまでも登っていくと上に穴が見える。斬り男が穴からはい出るとそこは美術館だ。壁に豪華な額縁の絵がたくさん並んでいて、もんぺをはいた女性学芸員が一人いた。斬り男は女性学芸員を押し倒して強姦する。いままでくり返していた時間の流れが別ななにかに変わると思った。しかし斬り男は骨董屋夫婦の死体を思い出して、気を失う。気づくと斬り男は小学生になった。というよりは小学生の目線になっている。同じ美術館だが学芸員の姿がなくて、山の絵が並んでいるようだ。壁に近づくとなにかがぶつかる。斬り男が自ぶんの足を見ると、牛か馬の足が見えた。しばらくして上下黒服の日本人二人が鏡を持ってやってきて「成績が悪いと食肉にされるんだ」と言う。鏡のなかに、牛になった斬り男の姿があって、耳に「三」のタグがつけられている。斬り男は牛がたくさんいる牧場に送られた。軍服を着た老人がいて「おまえらは社会に役立つ幽霊のえさとなる」と言う。老人が言ったことばの意味は、わからなかったが斬り男は脳裏に占領軍の前で、一億総ざんげをしている日本人の姿が浮かんだ。斬り男は悲しい気持ちになったけど、涙のかわりによだれが出る。老人が「それを『牛の目』と言う」と言った。

  おわり