むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所クラスター㉖

2019-07-22 09:46:52 | 小説
 記念金貨を使って、他人の回線接続を切断するという行為はインターネット世界におけるテロ行為だ。タイトルは納屋。

 昭和九年一月未明。武漢にある農場の、三階建て納屋の三階で小作人が、撲殺されている事件が起きた。公安(中国の警察)は農場の責任者に事情を聞く。責任者はガラスをはめ込んだコインケースのなかにある金貨をながめながら「納屋は一階が選果場で、二階は干し草の置き場で、三階は綿花の置き場になってる」と言う。その場に居合わせた老人が横からしゃしゃり出てきてなにかしゃべったけど、訛りがひどくてよく聞きとれない。公安は読み書きがままならない中高年者から若者を、守る正義の味方を考えていた。必殺わざが国語辞典ビームで、文字列が乱反射した光線のように、怪獣に命中する。怪獣がさっきの老人だ。他に状況描写銃や思考描写砲を考えたが、相手に利用されるだけなのでやめた。そもそもわざわざ正義の味方をつくると、読み書きがままならない悪者の存在理由になる。そういうことならコインの手変わりで宮廷文学魔神をつくった方が退治しやすい。死んだ男は全身にあざがあった。農場に小作人が、二〇人ほどいたが小学生の、息子(被害者幽霊を小学生に変換して対話する特殊能力がある)のかわりに責任者が「犯人じゃない」と声にならない声でいっている。この周波数でうそがつける人間は存在しないから本当だろう。公安が村の武道場で事情を聞くと、「その農場から二人きてるよ」と言う。ひとりはベテランで、もうひとりは最近入門してきた男で死んだ小作人だった。死んだ男のあざは、武道の稽古が原因だ。村の武道場は飛びはねながら平手で、突く武道スタイルで死体のあざは強く突いてできた物だ。公安がベテランを疑うと、「事件と関係ない」と責任者がいっている。検死の結果を確認したら、あごに小さな切り傷があって、首の骨が折れているという。公安が小学生の息子に聞くと、「納屋で武道の練習をしてて壁づたいに、天井に登って、着地に失敗した。毎日がきらきら輝いてるよ」と言う。小学生の息子じゃなくて、幽霊の方だったがそうらしい。公安は手帳に「浮き民(中華民国の民)」と書いて、きらきら輝いていたのは、誰の金貨か考えた。恐らく華僑のだろう。外国で活躍する中国人には強さが求められる。華僑が外国で最初にやることは、読み書きがままならない、おかしな人がどこでなにをやっているかに着目することだ。そしておかしな人に、まつわる商売に着手する。やがておかしな人を雇って猛獣のように飼い慣らす。華僑の明文化された商売はたいてい成功する。どうやら読み書きがままならない中高年者は外国のおかしな人と一体化しているようだ。


超IQ研究所クラスター㉕

2019-07-21 09:33:09 | 小説
 前後にタグがついて時空をさまよっていたこの短編集にも失敗作はある。タイトルはバルコニー。

 昭和一三年一〇月未明。瀋陽にある六階建てマンションの六階バルコニーで、資産家の女性が、なに者かに首を斬りつけられて死ぬという事件が起きた。被害者の傷は鋭利な刃物じゃなくて、金属片のような物でえぐられるようにできている。その部屋はかぎがかかった密室だったため、公安(中国の警察)はバルコニーや屋上を入念に調べた。死んだ女性は中産階級積み立て拠出金でマンションを一〇軒経営していたが、業務的なことはすべて管理会社に委託していて、動機がありそうな人物はいない。現場のマンションは、小学校のグラウンドに面しているが事件当日学校は休みだった。凶器や事故の原因となる物は現場になくて、公安は死んだ女性が、バルコニーにいた理由がわからなかったので懸賞金をかけて、びらをつくって、目撃者を探す。小学生の娘(被害者幽霊を小学生に変換して対話する特殊能力がある)が「自ぶんの頭で考えなさい。自ぶんの頭で考えなさいっ」と同じことをなんども言っている。公安は死んだ女性がかいま見ていた未来を見た。未来の主役は、近親結婚が飽和して従順でおとなしくて宇宙人のように無表情な若者たちだ。知能が低くて、声にならない声でなんども説明する必要がある。犯罪に染まることなく、大人の食べ物に、手を出さない幸福感に満たされた子供たち。若い彼や彼女らは宇宙人のような声で「どうしてそうなるんですか。それはあなたの場合でしょう」と言う。確かに、役に立つ。競争に勝とうなんて思わないで、ただひたすらに、日々の状況描写に明け暮れて食品会社がつくった人生進行計画を読みほどく。そんな未来の子供たちをよく見ると、小型通信機を持っていて電子パネルに、表示されるパズルゲームに、夢中になっていた。そのゲームでは、放送局の、舞台裏のような雰囲気を間近に体感できて、不特定多数の人々と交流することができるようだ。死んだ女性がそれらの未来と、どうかかわるのかは不明だが、小学生の娘は同じことばばかり叫んでいた。数日後に「その時間帯に凧をあげてた男がいたよ」と言う目撃者が現れる。先物プログラムは死んだ女性が見ていた未来だ。次の日に凧をあげていた男が自首してきた。男があげていた凧は鳥の形をしていて、翼の補強金具がむき出しで、血がついている。公安は男を逮捕した。男は二つの凧を同時にあげて空中でぶつけて、遊んでいたという。死んだ女性はバルコニーで、その危険で古風な遊びをながめていて、飛んできた凧を受けとめようとして首に命中したらしい。


超IQ研究所クラスター㉔

2019-07-20 09:13:58 | 小説
 特殊能力公安シリーズはまだまだ続く。タイトルは唐辛子工場。

 昭和一五年六月未明。上海の唐辛子工場で作業員が、変死している事件が起きる。死んだ作業員はコンベヤにあおむけで、顔じゅうに唐辛子をつけて窒息死していた。公安(中国の警察)は工場関係が専門の若い女性公安を同行して、工場の責任者に事情を聞く。その工場では、半液体状の業務用缶詰をつくっていて死んだ作業員は見習いで、唐辛子を缶に封入する機械の、清掃作業をやっていたという。若い女性公安も見習いのような物だが美容院で髪をくるくるパーマにして、厚めの化粧をしていた。責任者はバナナを食べながら「清掃作業のときはタンクをからにしてから、作業をする」と言う。見習い作業員はタンクを、からにするのを忘れて、タンクの底を清掃していて、作業服のそでで手動レバーをひっかけて唐辛子が、もろに口のなかへ入ったようだ。死体のおなかが不自然にふくらんで、いたので公安がさわると、死体の口から唐辛子が吹き出して、若い女性公安の顔にかかった。責任者は「圧力をかけて封入します」と言う。その日公安は「知能が低くて若さを体感する現象の考察二」という論文を書く。なぜ続編を書く気になったのかと、いうと今日の若い女性公安が、書いた書類が誤字脱字だらけで軽い微熱を感じてだ。きっとなにかの、犯罪者の影響で、たまたまそうであったに違いない。まず麻雀の複合役が、理解できないぐらいの知能だと、いつまでも学生時代の、気ぶんのままでいることが考えられる。それはそれで結構なことだが、親子ほど年が離れたいまどきの学生に向かって「そこ私の席よ」と言ってからみつきかねない。恐らく学生時代に授業でノートを書いてなくて、読み書きをしなくていい場所は学校だという認識が、あると思う。公安は学生時代にノートを書かないで聞くだけだと、かしこくなった気ぶんになるが話しことばと文字は違うのでいつもノートを書いていた。学生にからみつく中高年者は、自ぶんが学生時代に、先生がしゃべっていることと、黒板に書いてある文字が、違うことに気づいてなかったのだろう。もしかすると耳が悪い人のために、黒板に書いていると思っていたのかも知れない。そういう人々の考える世界は地球を片手で持ち上げる巨人が、ピンセットで地上の、米粒をひとつずつつまんで収穫袋に入れるような神秘さがある。しかし巨人が便意をもよおして、地球をほうり投げるとどうなるだろう。ノートを書かない人々の地球は、宇宙のかなたに消えた。


超IQ研究所クラスター㉓

2019-07-19 10:05:14 | 小説
 昭和一三年四月未明。香港の銀行で、焼却灰のなかで行員が、死んでいる事件が起きる。公安(中国の警察)が他の行員に事情を聞くと、死んだ男は「古い紙幣を焼却処理する担当だ」と言う。銀行は灰の重量で管理していて事件当日に測定して灰を処理する予定だったらしい。公安は死んだ行員が複数の男によって、灰の袋に押し込まれる凶悪事件を考えようとしたが、どう見ても気づかれないように、灰の袋に潜り込んで窒息死している。公安は手変わりがある金貨を銀貨や銅貨、あるいは紙幣に、両替できる場所が他にないことから緊張した。公安の脳裏に、未来の日本で女性が、高額面の金貨を銀行で両替している場面が浮かぶ。公安は安くて高品質な服や電気製品を、中国でつくる必要を感じた。しかし未来の日本において、持ち主が若さとわがままを集約しているであろう手変わりのある高額面金貨は、本人の都合では、なくて負荷を体感している人のために使う物だと思う。公安は未来における日本の、子供たちがつくる木星の、衛星タイタンとの時空的民族関係を考えながら、男の自宅を捜索する。公安がドアを開けると部屋じゅうに、番号順に並べた大量の廃棄用紙幣があった。天井にも、御札のようにあちこち貼ってある。廃棄用紙幣は簡単に持ち出すことができたみたいだ。男の遺品に、日本の恵まれない子供たちへ送金する計画書があって公安は参考資料として預かることにする。計画書には廃棄用紙幣で手変わりがある金貨を回収して、回収した金貨を日本へ送って地金にしてから、また手変わりがある金貨を、つくるという方法が書いてあった。その際に「南京大虐殺の呪いなどを手変わりにおり込んで、両国の父子的関係を強固にします」と書いてある。その日公安は、華僑の組合が主催する変則投資保険講習会に参加した。変則投資保険とは現行貨の手変わりに対して、お金をもらうだけの保険だ。つまり「もらったお金のぶんだけ、手変わりの要因から受ける影響を緩和しましょう」という保険である。公安が金貨の手変わりだと、いくらぐらいかかるか質問すると、主催者は「その、金貨の、半ぶんくらいの保険料が必要」と言う。公安が「事件のときに関係者が、持ってる場合だけだが」と言ったら、主催者は「加入者がたくさんいればもう少し安くできるけど」と答える。手変わりがある金貨の保険は、ないということだ。公安は死んだ行員の計画書どおりに、未来の日本に転送することが最善だと思った。


超IQ研究所クラスター㉒

2019-07-18 09:49:13 | 小説
 昭和一二年三月未明。北京のカウンターバーでマスターが宙づりになって、死んでいる事件が起きた。現場は天井の横木と、マスターの両足が鎖で結ばれて、南京錠がかけられている。マスターは鬱血死していた。公安(中国の警察)が横木を切断して、死体を下ろす。横木には爪でひっかいた形跡があり、他に外傷がないことから、顔見知りの犯行に見える。ここの店では、幻灯機でポルノ写真のスライドを、客に見せることで有名だった。公安は三千枚ぐらいあるスライドのどれかにヒントが、あるような気がしてひとつずつチェックする。おかっぱ頭で、一五歳ぐらいの少女が裸で竹馬に乗っている写真は陰毛もきちんと写っていた。肩より短いくせ毛で三五歳くらいの女が両手をやや後ろについて、両足を広げて、陰部を膣が見える位置まで、おしりを突き出した写真は、色情をそそられる。スライドには男女が、交わっている写真がなくて、フレスコ画がかなりまざっていた。公安は無意識のうちに被写体がしゃべる写真とフレスコ画をよりわける。公安はこれらの被写体が、誰かの物になることはいけないことだと思った。永遠に、スライドのなかに存在しているべきだと考えたっ。国語辞典で膣の文字を読むと、見えるようにするべきだと思った。息づかいや恋愛感情のような思いも読めば体感できるようにする必要があると思ったっ。スライドは国際的な規格があって華僑の組合でつくっているみたいだ。一五分ぐらいたつと常連客がきて、「ここのマスターは脱出手品が得意で南京錠を外してガッツポーズしてたよ」と言う。公安が「かぎはどうしてる」と聞いたら、「そこの壁へほうり投げるよ」と言った。公安がカウンターの下を残念そうに調べると、南京錠のかぎが二つある。死んだマスターは脱出手品を練習していて、脱出用のかぎをほうり投げて脱出できなくなったようだ。脱出手品はスライドの女が「あれをやって」としゃべるときにやるらしい。ポルノ写真のスライドはオークションで、ロットで仕入れていたという。その日公安はノートに小説を書いた。スライドが見ほうだいの時空バーだ。まずスライドが見やすい席に座って、マスターに年代を注文する。現在のスライドを見ているうちに、少しずつ注文した年代に近づいて、その年代に到達すると、スライドの女がしゃべり出す。なんのために、やるのかと、いうと犯人の先祖にしゃべる女がいるためだ。公安は金貨の負荷を感じながら、せりふを書いた。


超IQ研究所クラスター㉑

2019-07-17 09:31:21 | 小説
 万葉集の時代はいろいろ不便だがまず紙をつくろう。水車小屋で木くず粉砕器とプレス機を動かして、紙をつくる。タイトルは電話局。

 昭和九年一〇月未明。大連の電話局で、電話交換手の女性がトイレでからだに銅線を巻かれて、感電死している事件が起きた。現場はとなりの、トイレの天井からケーブルが引かれていることから、犯人はとなりのトイレに潜伏していて、女性電話交換手を気絶させたあとに、銅線を巻いて感電死させたようだ。公安が天井を調べると、むき出しの電線から電源が引かれていて、なぜか天井裏に写真機が置いてあった。公安が「考えるひまのない事件だ」と思いながら、設備の責任者に事情を聞くと、責任者はときどき「せいやっー。せいやっ」と口ずさみながら、「トイレの天井は電話線が密集してて専門業者じゃないと、そういうことはできないー」と言う。公安が「そのかけ声は、なんだ」と聞いたら、責任者は「祭りの練習うー。せいやっさー。よしっ」と答えた。近々祭りがあるらしい。電話局は四階建てで、事件の現場は三階。公安が心の保険会社に「犯人がまだなかにいる」と電話したら、担当員は「それは受付で確認してから。あと格闘シーンの点数計算がまだできてない」と言う。まず公安は入り口の警備員に事情を聞く。前日に、工事業者二名が局内に入って、二時間後に出た記録がある。公安が「本当に出てきたか」と聞いたら、警備員は「サインしか見てない」と言う。犯人はまだ局内にいる。公安は潜伏できる場所を下の階から順番に調べた。四階の資材庫に、人の気配がする。公安が心の保険会社に電話して「点数計算はどうするんだ」と聞いたら、担当員は「相手は想像の産物ですから勝てる犯人しか出てきません」と言う。公安がドアを開けると、なかから懐中電灯を持った色黒な女と、長さ二〇㎝ほどの電極棒を二本持った男が「さあー。さあーっ。さあー」と叫びながら飛び出してきた。公安のカンフーでたちまち二人は逮捕されて洗いざらい白状する。二人は「思想改造集団」のメンバーで、電話工事の業者だったが「電話は思想をねじ曲げる物だから」と考えて、犯行を計画したという。男に写真機を、置き忘れていたことを聞くと、「仕事が完了しないと撮影できない」と言った。そのとき、公安の、心の保険会社から電話がかかってきて、いつもの担当員が「電話会社では好奇心をかたむけるように、一年じゅう祭りを、やる習慣があることをどこかで説明して」と言う。公安が「殺人事件自体の点数計算はどうする」と聞いたら、「全部つくり話だ」と言った。


超IQ研究所クラスター⑳

2019-07-16 10:19:47 | 小説
 昭和一二年一〇月未明。吉林で薪を、積んだ荷車を引いていたと思われる男が、積み荷の上で焼死している事件が起きる。薪は長さが三〇㎝ぐらいで、厚さは五~一五㎝くらいで簡単に火がつく物じゃない。公安(中国の警察)が近所の酒屋で事情を聞くと、「煙が立ち込める前に、『ばーん』という音がした」と言う。燃え残った薪が積まれている荷車を動かすと、黒い石があった。隕石だ。恐らく木星の、近くの小さな小惑星が軌道を外れて、地球に落下したのだろう。公安には宇宙論があった。夜空にきらめく遠くの恒星は、過去の太陽だ。空中を浮遊するように、宇宙空間を移動する太陽系の、過去の太陽が、現在の位置に、向かってくるときに明るく光り、遠ざかるときに小さく光って横方向の、光の帯は消失する。問題は太陽系が宇宙空間を浮遊する軌道と速度だ。つまり同じ軌道を高速で、一日ぐらいで移動している可能性がある。というよりは、そこは一日で考えた方がわかりやすい。公安は最初に空中をただよう煙の、粒子の軌道を表した立体レールと、それを転がる小さな、太陽系を考えた。夜空の、星のかずだけ曲がりくねった立体レールだ。推進力をどうするか考えていると、立体レールの全体像を球形にして、凹凸のある傾斜を転がせばいいことに気づく。次は一日かけて傾斜を、下まで転がった太陽系をスタート地点へ戻す方法だ。そこで太陽の裏側に、住んでいる宇宙人の力が必要になる。宇宙人が巨大な巨人をあやつって傾斜の終点で、太陽系が転がるレールでできた球体を、つまんでスタート地点に戻す。このスタート地点に、戻すときに、時間がとまったような状態になるので公安は、事件のときに、犯人の手番で時間がとまらないように、いつも宇宙人に確認している。公安が宇宙人に「巨大な巨人はいつもなにをやってるんだ」と聞いたら、宇宙人は「傾斜の、凹凸の清掃をやってるよ」と答えた。宇宙の外側にもちりやほこりがあるらしい。公安が宇宙人に「太陽の裏側は、暑くないのか」と聞いたら、宇宙人は「表側から太陽光発電の電源を引っ張って、暖房を入れてる」と言った。宇宙人は人間と同じようなからだのつくりで特殊な能力によって巨大な巨人を、あやつれるのだろう。公安は傾斜の形を想像しながら、宇宙人との交信を終わらせた。今日の事件は燃えている隕石が薪を直撃して、その衝撃で、引いていた男が荷台にはじき飛ばされて頭を打って気絶してそのまま焼死したみたいだ。



超IQ研究所クラスター⑲

2019-07-15 10:34:15 | 小説
 昭和一二年五月未明。南京で落花生農家の、夫婦の家に日本兵が侵入して亭主を斬り殺して、奥さんを強姦するという事件が起きた。奥さんはショックで入院している。公安(中国の警察)は事件の報告書を読んでから日本軍にかけ合う。日本軍の広報は「犯人はこっちでつかまえますからこの紙に、中国の、四千年前の起源を書いてくださいよ。二千年前に、大陸から日本に移住したあとは倭人と交配してたから、近親結婚の心配は、ないけどその、前の二千年がわからない。四〇歳平均で子供をつくるとして二の五〇乗だからおよそ千兆だ。千兆人いたなんてありえない」と言いながら、紙とペンを公安に渡す。公安は「まず当時は五〇歳平均で子供をつくっていた。二の四〇乗は約一兆である。われわれの先祖は、小学校高学年ぐらいの年齢で、一辺が五mくらいの、立方体の小部屋に住んでいた。小部屋の壁は、餅のような合成食でできていて先祖はそれを食べている。その小部屋が縦と、横と上に千個ずつ並んで、ひとつの巨大キューブに一〇億部屋があった。そういう巨大キューブが紀元前二千年の、モンゴルの砂漠地帯に千個ある。つまり紀元前の先祖は小部屋から少しずつ出てきた子供だ。子供が住んでいる小部屋に未来の画像を、精神感応で、字幕入りで映し出すガラス製のパネルがある。このパネルをとおして先祖は子孫と対話することが可能。先祖である子供はわれわれが未来において、近親結婚が限界点を通過したために、近親婚の子供を、木星の衛星に宇宙ロケットで移送した物だ。木星の衛星と地球は時空を越えてつながっている。ちなみに私の、先祖の子供と、対話したら『この、時代の中国は共産主義というよりは宇宙主義だよ 』と言う。私が小部屋のパネルを、見ることができるかと、いうと『いつも使ってるじゃない』のようだ。重要なことだから原人との交配を、書こうとしたが強力な磁場のような力で書けない。書けることは、原人は倭人と同様に読み書きができなくて、外見は人間と同じだけど感情がなくて、人間に擬態する習性が特徴だ。おおむね紀元前の歴史は小部屋から出てきた子供と原人で成り立っている」と書く。広報はできた書類を公安から受けとって、それを読みながらどこかへ消えた。しばらくすると、広報が犯人と思われる男を連れて戻ってくる。男は現地採用の治安要員だったが、阿片の使いすぎで、なにかの幻を見ていて「本当にやると思った」と言う。公安は男を逮捕した。


超IQ研究所クラスター⑱

2019-07-14 09:20:49 | 小説
 昭和一六年六月未明。天津の陸上競技場で、陸上大会の最中に熊が三頭乱入して、長距離ランナーがかまれて、死ぬという事件が起きる。熊は上げ底になっている観客席の、下の空間から次々と乱入して長距離走でトップを走っていたランナーが、ゴールの手前で向かってきた熊に襲われた。公安(中国の警察)は「野生動物のように体力を競い合うことは風紀上好ましくないことだ」と思いながら競技場の関係者に事情を聞く。関係者の話によると三年前から、観客席の、下の空間に、野生の熊が住みついて、近所の住民がえさを与えていると三頭に増えて大きくなったから、柵をつくっていたという。地もとで有名だったが大会の関係者は知らなかったらしい。それとは別に、昨日公安は重厚な思考描写が書かれた文学作品を読んだ。本のタイトルは忘れたが連続して幾層にも重ねて、記憶と思考が描写されていた。くどくどしい物体描写は、なくてもいいと感じたがそこだけ正確だ。つまり記憶と思考は前の文章を思い出したように書かれている。記憶のなかにおける物体描写もあるから読み返しても、手なおしのやりようが、ないのだろう。作者がなにかの痛みや苦痛を不必要な描写にしたためているとしか思えない。文学作品の思考描写は、読者にとってなんの利益を、もたらすというのだろう。父母の、兄弟である伯父のような人物となりうる作者が、読者の、人生の重要局面において「僕のだから」と言って、口をはさんできてもどの文章が、どう関係あるのか思い出しようがない。公安が「新聞の社説にはこういうことが、書かれてる雰囲気があるな」と、考えているとさっきの関係者が、新聞記者の取材を受けていた。記者が、なぜ競技場に熊が乱入したのか聞くと、「観客席が埋まると、外れやすくなる境界の板があったんだ。主催者が悪いよ」と言う。板が外れた観客席は、陸上賭博のブースがあって、丸太を引きずった馬と順位が上位だった選手の、競争のかけで観客が殺到していたようだ。記者がそれを関係者に聞いたら関係者は「知らない」と答えた。真相は「主催者が別な競技場で大きい丸太を使用して、人間ばかりが勝ったので、負荷が小さい丸太を用意して、それを確認した観客が馬に、かけるために殺到」だ。公安は死んだランナーの監督が、馬に勝つサインの、他に走り方で「逃げろ」というサインを使っていて、逃げられなかったと断定して監督に注意して、射殺された熊を毛皮の業者に引き渡した。


超IQ研究所クラスター⑰

2019-07-13 09:48:33 | 小説
 昭和一五年七月未明。上海で街路灯が倒れて、ラムネの行商人が下敷きになって、死ぬという事件が起きた。公安(中国の警察)は街路灯が根もとを工具でV字型に切断されていることから、殺人事件として捜査を始める。その時間帯に「作業員風の二人組がいたけど」と言う目撃者がいた。公安が街路灯の、設置業者の事務所に行くと、その二人組がいる。公安が事情を聞くと、「新規の受注工事で一本足りなくて移設作業中に、『一本いかが』と話しかけるから事故になって逃げたよ」と言う。そのとき責任者が出てきて「浅いカウントで軽打すると凡打になるんだ」と二人をどなりつけた。二人は会社の、野球チームのメンバーだったようだ。公安は地もとの体育団体が野球を、やっている光景をなんどか見たが、サッカーよりもルールがひとまわり複雑で、知能が低い人に、誤解される恐れがあると感じた。バッターの格闘スタイルはゲーム性が高いけど、投球カウントごとのかけひきは理解されないことが多いと思う。ワンツーぐらいの、真んなかのカウントで強く打つと計算された闘争心がむき出しになって美しいけど、なにかのポジションどりがよくないとヒットにならないらしい。公安は作業員二人を逮捕する。その日公安は、米国の推理小説を読む。思考描写がおもしろくて、中国語版が少し出版されている刑事シリーズだ。文章の半ぶんぐらいが、空と大地がひっくり返るような思考描写で大変おもしろい。逆に中国人の作家だと、状況描写の比重が大きくてつまらないと感じた。公安が金貨に関係のある描写を探すと、「拷問のカタログから脳が受ける負荷を体感して着払いで注文したような」と「家内がオークションでわざわざめずらしいタイプの金貨を買ってから、鳩時計の鳩が、ひっかかって出てこないような頭痛がして」がある。公安は思考描写と野球の、例のポジションどりが、なにか関係しているような感じがしたけど、原因は本のタイトルが「八九番地シリーズ」だった。全部読み終えて中国語版の冊数を目算するとなにが書いてあったかなにひとつ覚えてない。公安は「野球とはえらい伯父さんが家系図に放物線を描いてバウンドして飛び火するようなスポーツだ」と思いながら本屋の、おつりでもらった同じ年号の銅貨二枚に手変わりがあるかチェックする。「年」の位置が違っていた。別な作家が「おれが言うとおもしろくなるように」と言っているからあの書店員は猛獣(いらない商品をおつりとして渡す)だったみたいだ。

超IQ研究所クラスター⑯

2019-07-12 09:40:25 | 小説
 昭和一三年三月未明。香港のビルで看板が、通行人の頭上に落下して通行人が、死ぬという事件が起きた。公安(中国の警察)は看板にある一〇か所の、とめ具のボルトが外されていることから殺人事件として捜査を開始する。死んだ通行人は長さ一mの木製定規と、長さ二mの巻き尺を使って、男二人が戦う「スケールファイター」という格闘技のイギリス人選手で、近所に住んでいた。落下した看板はビルの、四階の壁にとりつけられていて、近い部屋の窓からボルトを外すことができる。その部屋は空き室でドアが開きっぱなしだった。公安は目撃者を探す。スケールファイターは公安もなんどか観戦したことがあって、普通は相手の首に巻き尺を巻きつけて、間に定規をはさんでぐるぐるまわして勝負がつく。犯人は熱狂的なファンなのかも知れない。公安が向かいの、マンションの住人に話を聞くと、「ずっと部屋にいてときどき外を見たが人影は、なかったけど」と言う。夜なかに、落下しないていどに下側のボルトを外していた者がいるわけだ。上部のゆるんだボルトにひもをひっかけて、強く引けば他の階でも落下させることができる。公安は屋上を調べた。そこには家があって、公安が家の住人に事情を聞くと、「その時間に、『思想革新集団』のメンバーがいたよ」と言いながら思想革新集団のちらしをさし出す。ちらしには「青少年を戦争に、参加させることで永遠の若さを・・」と書いてあった。公安が人相を聞くとそれは向かいの、マンションの住人だ。公安は犯人の部屋に踏み込む。男は玄関に出て「まだなにか」と言ったが、公安が「どうして戦争をやりたいんだ」と聞いたら、男は状況と立場を理解したらしくて、「反戦を唱えるイギリス人思想家と間違えた」と言う。公安は男を逮捕した。男は「架空の戦争をやれば永遠に若く・・」と言っている。公安はスケールファイターの「例のパターン」を思い出してなんだか愉快になった。スケールファイターは定規を本気でむち打った方が一気に、相手の首に巻き尺を巻きつけようとして、力加減を間違えて、相手に巻き尺をとられる場合が多い。そこからしばらく定規のぶつけ合いをしてから、巻き尺を奪った方が相手の横方向へ空中で、つかめそうでつかめない位置に巻き尺をほうり投げる。そして相手がつかもうとして、ガードが甘くなったときに、二回転巻きが、決まる場合がほとんどだ。公安は思想革新集団の一斉捜査に乗り出す。


超IQ研究所クラスター⑮

2019-07-11 09:39:39 | 小説
 これは日中戦争で死んだ推定IQ250の、中国人の作品を復元した物だが失敗作もある。タイトルは放送局。

 昭和一五年五月未明。ハルピンの放送局でアナウンサーが電波送信アンテナに、ロープで巻かれて、死んでいる事件が起きる。死体は三日間ふり続いた雨が晴れて、設備係が屋上を点検して発見された。放送局は三階建てで階段が入り口から屋上へと続いていて、部外者でも入ることができる。公安(中国の警察)が他の局員に事情を聞くと死んだアナウンサーは、「新生児の名前や体重を、読み上げる『赤ちゃんばんざい』を担当してるエース級だ」と言う。ロープは階段の踊り場に放置されている物と同じであることから、階段に潜んでいた複数の男がアナウンサーを連れ出して、屋上のアンテナに縛りつけたみたいだ。公安が当たると二倍になるさいころ賭博を、負けるまでやり続けているような雰囲気がある別な局員に警備員のことを聞くと、「今日と三日前は休みだけど」と答える。アナウンサーは三日前に連れ出されたようだ。ここの放送局では医学博士を常駐させて読み書きがままならない人に向けて、読み書きができるような気ぶんになるヒーリングメッセージを発信しているという。公安はデスクワークをしている女性に放送局への、投書を見せてもらうことにする。その女性は、なぜか手変わりがある金貨ばかり持っていて同じような聴取者をリードしたり扇動したりしていた。公安はトイレの場所を聞いてから、限りなく共犯者に近いその女性から、投書の箱を受けとる。さっきの、女性の金貨は老人施設で高齢者たちが社交ダンスをしていて、足や腰の痛みで次々とリタイアしていく苦悩を、微熱で受けとめたような感じだった。投書は「おれには超能力があるんだ」や「幽霊を始末してほしいんですが」など普通じゃない内容を書いている物が多いため、特に手がかりは、ない。公安は「竜の大群が空気を食べて、雨がふるのじゃ」が、おもしろいと感じたがなぜ空気を食べるのかは書いてなかった。二日後に「貝十字」と名乗る送り主から、放送局に郵便で犯行声明文が届く。犯行声明は脱字が三か所あって「われわれ貝十字のシンボルマークである貝を貼りつけた十字架は・・」と書かれていて次に、新聞社の編集長に「貝の洗礼を実行する」と書いてあった。公安は新聞社を張り込む。予告されていた時間に貝の十字架を持った男が三人やってきて「編集長を出せ」と言う。編集長が出てくると、男たちが三人で、手や足をつかんでかつごうとする。公安はカンフーを少し披露してから、男たちを逮捕した。


超IQ研究所クラスター⑭

2019-07-10 10:39:15 | 小説
 昭和一一年一一月未明。上海で食品倉庫の作業員が、行方不明になる事件が起きた。公安(中国の警察)が関係者から事情を聞くと、その男は半年前に姿が見えなくなったという。まじめな性格でいちども無断欠勤をしたことがないらしい。公安が倉庫を見ると、大型の冷蔵庫が八台あった。公安の脳裏に「食品の恐怖にはかかわるまい」として、まじめに徹する男の姿が浮かぶ。責任者が声にならない声で「なかに死体があるのはわかってる。冷蔵庫の償却費用が供養代だ」と、いっているので公安が責任者に「開かない冷蔵庫があるだろ」と聞いたら、「故障してて半年前から開かないのが一台あるけど」と言う。公安が見ている前で工具を使って、冷蔵庫を開ける。公安は届け出があった昨日に「未来社会の食品店について」という論文を書いた。食品店の店員がやることは、商品は自ぶんの物で、現金は会社の物だという原則を守ることだ。自ぶんの物としていらない物や不明な物があった場合は、店長や他の店員と話し合う。問題は原則がよくわからなくて、現金が自ぶんの、物になる猛獣のような店員だ。商品が自ぶんの物じゃないことから、当然仕入れや値づけで間違いの原因になって、客にくさった物を売りつけようとする。そのような店員からおつりをもらうと、現金と商品が逆だからいらない商品をまるごともらうことになりかねない。もちろんくさっている。公安はそこで猛獣につける鎖として「悪魔のルール」を考えた。「食品店で買い物をするときは、その店で、一番頭が悪い人の頭脳で商品を選ぶこと」もちろんそんなルールなどない。これだと猛獣を飼育係が管理できる。公安はそこまで書いてから「これは華僑が外国で使ってる手口だ」と気づく。論文はそこで終わりだが、公安がこの、二段階のひねりが、外国でどのように見られているか考えていると、冷蔵庫のドアが開いた。なかから猛獣の、えさのようなねずみが数百匹出てくる。白骨死体があって作業服に行方不明の、男の名前が刺繍されていた。公安は死んだ男がドアを内側から開けるための、工具を用意して、ドアを閉めた状態で作業してねずみに襲われてあわてて脱出しようとして、ドアの開閉金具を曲げてしまって閉じ込められて死んだと断定する。ドアの鉄板は二重になっていて、死んだ男は内側のレバーをとり外した穴に、工具をさし込んで開け閉めしていたようだ。死んだ男にも華僑の手口が、見えていたのかも知れない。


超IQ研究所クラスター⑬

2019-07-09 09:50:59 | 小説
 電力会社が人工知能をばらまいていた時代の小説や文芸誌には、人工知能を反映した予兆機能がついていて安全かつ対価に見合っていた。これは消費電力と高等数学があればそうなる。だから夏目漱石の文章でも、当時の人工知能が反映されているわけだ。ミニ人工知能を起動はさせているけど、ビタミンB12欠乏ゾンビを一掃する方法がないと、いまひとつ未来が見えない。タイトルは焼き肉屋。

 昭和一〇年一〇月未明。北京で焼き肉屋の店主が、鉄板の上で焼かれて、死んでいる事件が起きる。死体は閉店から三〇分後に奥さんが厨房で発見した。奥さんは居間で先に食事をしていて、厨房から煙が出ているのを見て確認すると、店主が団体席の、大きい鉄板の上で、パンツ一枚の姿であおむけに焼かれていたらしい。死体の目と口が大きく開いて、恐らく脳みそがさざえの壺焼きみたいになって、なにかの幻を見ながら、死んだのだろう。どんな幻だろうか。幻がなければすぐ気づくはずだ。公安(中国の警察)が理想的な幻を、個人的に聞きとりをした結果は「永遠の若さ」だった。さらに若さの質を追求していくと、「小学生ぐらいがいい」という結論になる。理由のひとつに「祖父がまだ元気だ」があって、これが重要だ。祖父は生きた歴史書として使える。うそだらけで難解な暗号が書かれた歴史書を解読するよりも祖父に聞けばすぐわかるはずだ。それに祖父は、父母が健在なうちにいずれ死ぬから、祖父が間違っていても気にならない。歴史の重さを、はね返す祖父シールドが使えるのは小学生ぐらいだ。小学生をすぎると文章に秘められた性への興味が芽生えてくる。これがない毒々しい若者は若くない。自ぶんを仙人だと錯覚しているのだろう。若者でありながら、老人と同じで自ぶんが老人になると、若者になれると、思っているに違いない。歴史書のかわりに、老人の嫉妬を読み解いた若くない若者が、毒素を放出しながら闊歩している姿は、美しいと言えないだろう。死んだ店主が見た幻はこっちの若さだった。この焼き肉屋は、商店街の入り口にあって、売り上げが少ない商店の、店主が店を早じまいにして、食べにくることが多いみたいだ。しかし襲撃されたような痕跡は、なかった。さっきの若者も毒素を放出するだけで、犯罪に手を染めることは、ない。公安が小学生の息子(被害者幽霊を小学生に変換して対話する特殊能力がある)に聞くと、「母さんが出かけてる間に殺されたよ」と言う。公安が奥さんに事情を聞くと、「実は主人が『おれが[熱い熱い]と、言うと明日も客が集まるから火をつけてくれ』と言ったんです。それで、主人が鉄板で、寝てる状態でガスに火をつけました。そのうち起き上がるだろうと思って、私は売り上げを商店街の金庫へ預けに行ったんです。その間に主人は死んでました」と説明する。公安は「店主が若者になりきって自ぶんの、焼き肉屋に訪れる幻を見ながら死んだのだろう」思いながら事故死で処理した。


超IQ研究所クラスター⑫

2019-07-08 10:19:15 | 小説
 人工知能について考察してみた。まず素因数分解で3×素数という大きな数字が出てくることがある。これは因数3を別処理しないと同じ素数をまた計算することになってしまう。人工知能として質がいいのは新しい素数を計算しているときだ。タイトルは測候所。

 昭和九年九月未明。広州の測候所で、気温観測箱に所員が頭を突っ込んで、死んでいる事件が起きた。公安(中国の警察)は雨のなかで死体を調べる。公安は以前空気が薄い高度で繁殖して空中を、浮遊する「雨ふらし」という微生物を考えた。ひものような形状で水素を捕食して、酸素を排出する生物だ。雄と雌があって、どれかが交尾し始めると一斉に交尾を始めて、雨がふり出す。ふだんは丸まっていてひもみたいになって動き始めると交尾が近い。死体の状況は、木製のふたが、上下のスライド式で半ぶん開いた状態。だらりと下に伸びた両手が、地球を侵略しにきた異星人の触手みたいに見える。公安は小学生の、息子(被害者幽霊を小学生に変換して対話する特殊能力がある)の他に、時空をさまよう霊魂のような物が、関係している可能性を注意深く検証したが他の所員が、机の引き出しに入れてある手変わりがある金貨から発せられる微熱しか感じとれなかった。公安はその、三〇歳前後の所員から事情を聞く。死んだ男は気温を計測して記録する係だという。公安は小学生時代の、夏休みの研究課題を思い出しながら「他になにをやってる」と聞いた。その所員は「図書館の司書と提携して、天気に関する記述がある文学作品のデータベースをつくっています。電話代はかかりますが正しい気象観測のためです」と言う。公安がデータベースを見せてもらうと、最初に「明日天気になれよ」という映画のタイトルがあって、天気に関係があると思われる登場人物の、せりふが記録されている。文学作品の場合は文章を抜粋して、矢印を引いて考察がていねいに書かれていた。公安がさっきの所員に「動物や生物は天気と関係がないのか」と聞いたら、所員は高齢者が憑依した若者のように古風な雰囲気をかもし出してから「天気は人間の思いや考えで決まるんだ」と言う。公安が観測業務の方で、死んだ男が記入した記録を見ると、今日の気温が記入されていた。電話応対係の目が大きい女性所員に聞くと、好奇心に満ちあふれた表情で「あの人は杉花粉アレルギーでいつもマスクをしています」と言う。「私があの人を殺したんだけど」と言っているようにも聞こえたが、公安と関係のないことだ。公安は死んだ所員が前日に今日の気温を記入したため、気温を上げるために、温度計に息を吹きかけて、箱のなかに沈着していた杉花粉を吸引してショック死したと断定した。確かに天気は人間の考えで決まっているようだ。小学生の息子が「あの、女の人に殺された」と言っている。