おれは千文字小説専門である出版社の社長だ。今年は二〇六〇年だが十数年前に、突如として巻き起こった千文字小説の流行にわが社は遅れをとった。紙本がこれほどまでに売れるとは、誰もが予想してなかっただろう。わが社も流行に便乗して千文字小説を公募して、種類ごとの専門誌を出版しているが売れ行きは思わしくない。しかし近年に開発された金星人が、読み上げる精神感応技術によって、読者管理の手間がほとんどかからないために会社としてやっていける。千文字小説の始まりは、読者との一体化を、目論む高齢の作家が増え過ぎたことから、文字数の規定が、厳しい千文字小説がとり入れられるようになった。つまりそれまでに書かれていた小説の形態は、高齢者の文章であったわけだ。しかし現在は文字数が規定内であれば、企業の広告文であってもかまわない。読者は定められた文字数のなかで、どれだけの表現ができるかを期待して読む。千文字小説には成人向け動画番組のような緊迫感がある。印象に残った作品は、すぐ脳裏に焼きつく。それは柑橘類の果汁入り清涼飲料水みたいな読みごたえでもあり、思考のよりどころとなる巨大辞典を編集したようでもある。そしてなによりも絶大な速力感が千文字小説の醍醐味と言えよう。投稿者にとって、毎年正月に振り込まれる一年ぶんの印税はちょっとしたお年玉だ。わが社は幅広い年代から投稿者を募集中である。なかでも小学生特集の雑誌は、実は飛ぶように売れているわけだよ。千文字小説が流行してから、われわれの宇宙人に対する理解が深まった。おれが独自に調べた記録では、太陽に住んでいる宇宙人が、八九種類で木星が二五八種類ほど。そして火星が五四四種類で月は一一種類しかいない。金星は月と同じぐらいで、他は不明だ。わが社で以前に「金星に病院がある」と主張する医者の、論文の特集をやったが金星人に違うと言われた。金星には、なぜか未来の本があるらしい。金星人に聞けば誰でも千文字小説を書ける。美しい文章。若々しい文章っ。深みのある文章。いずれも文章配列検査装置を使えば簡単に書ける。小学生が書いた家族の話。複数の海王星人と性交した思い出。政治家が外来語を、使った呪文を言い合う文章。女性の生理を拡張して、つくった保険の文章っ。なんでもいい。おれは若い頃に、小説家になりたかった。しかし千文字小説のできばえを見て気が変わって、売る方を選んだわけさ。
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