ー 今どきの口のききかた ー
「東海道中膝栗毛」十返舎一九 岩波クラシックス
東京・有楽町の宝石店でのこと。
店長があるご婦人を接客中、何かの拍子に「やばいですよ」と口にした。ご婦人は腰を抜かさんばかりに仰天し、即座によく知っている前任の店長に電話をした。「 “ やばい ” って言ったわよ」。
店はさして上等の部類ではないが一応名の通った店である。お客のご婦人は多分良家の方だったのだろう。それなりのことばで応対してもらえると思っている。そこへいきなり “ やばい ” が 出たのでは驚いたのも無理はない。
ご婦人の非をあえてあげれば、上等の部類ではない店を上等だと勘違いしたことだろう。
「やばい」のどこが悪いの?と首を傾げる向きにはあいにく説明のため多く紙幅を割く余裕はない。
おなじみ弥次さん喜多さんの道中記、「東海道中膝栗毛」には大阪で乗った30石船の中でごん助という船客が風呂敷包みを取り違えて弥次さんと口喧嘩になり、「やばい」と似た意味の「やばな」ということばを使っている。
こうである。 “ ナニぬかしくさる。おどれら、やばなことははたらきくさるな ”。 “ おどれら ” は相手をののしっていうことばである。(「東海道中膝栗(下)164頁 十返舎一九 岩波クラシックス 」)
映画「マイ・フェア・レディ」は下品なことばをまき散らす街の花売り娘役のオードリー・ヘップパーンがヒギンズ教授のスパルタ教育で上流社会の仲間入りができるレディに成長するというお話である。
学校や家庭にヒギンズ教授がたくさん登場してくれれば、追々「やばい」も消えていくのだろうが。
ともあれ、昨今は品のないことばが多すぎる。ことばの吐き出し口の多くはテレビである。ハイハイする幼児のうちからそういう類のことばを耳にするわけだから末恐ろしい。
( 次回は ー 年寄りの冷や水ー )