ー 今どきの口のきき方 ー
「鈴木さんと話とかしてました」。
こう言われると、話のほかに何をしていたんだろう?と思う。「とか」が 複数・・・その他・・・etc. ・・・などといった文字につながるのである。自然こちらの頭は「ほかに何をしていたの?」となる。
ところが、言った本人は「鈴木さんと話をしてました」と言ってるつもりらしい。この調子でいくと開店のあいさつは「この度、〇〇駅前に洋食店とかを開店することとなりました ・・・」となり、退職届けは「私儀、一身上の都合により、来る〇年〇月〇日をもって退職とか いたしたく、・・・」となり、漱石は「吾輩は猫とか である。・・・」となるのだろう。
“ とか語 ” はさらに、「〇〇等」という役所用語を連想させる。今は思いつかないが漏れがあったらいけないので〇〇に「等」という一字をくっ付けておく。こうしておけば、なにか問題が起きた時役所の都合によって〇〇に含ませることもできるし、含ませないこともできる。
話し手はいつも自分の後ろのドアを開けて話している、つまり逃げ口を用意していると思われてもしかたがあるまい。
今、こういった “ とか語 ” に代表されるぼんやりした、煮え切らない言葉が大手を振って歩いている。文は人なりというが、口をついて出ることばも人である。
上掲の本(「口のきき方」 梶原しげる 新潮新書)は“ とか語 ” ほかたくさんのあいまいことばを紹介した上で、「若者特有のあいまい言葉を多用する人は、自分の思いや言いたいことを、あいまい表現を巧みに駆使して伝える能力がある・・・」(同122頁)と持ち上げている。
今どきの若いモンはあいさつもロクにできない、コミュニケーション能力が数段落ちるヤカラ、とこきおろす勢力がある一方で、巧みに駆使して伝える能力があると評価してくれる人もいる。捨てる神あれば、拾う神あり。
(次回は ー 夏の畑 ー)