― “ 知らない人と話をしてはいけません ” ―
先日、行きつけの店に買い物に行った。店に入ろうとした時、たまたま脇を歩いていた80年配の見知らぬ男性と視線が合い、軽く挨拶を交わしてしばらく世間話をした。
店に入ると店の娘がこちらを見ていたとみえて、「お知り合いですか?」と聞く。「いいや」と言うと、「へーっ!」と感心した風である。
別に感心するようなことではない。昔、子どもの頃、知らない人と話をしてはいけないなどとは言われなかったように思う。かえって大きな声で「こんにちは」と言うと、親に褒められたものだ。だから大人になっても知らない人と話をすることになんら躊躇は覚えない。
今どきの母親は子どもに向かって “ 知らない人と話をしてはいけません ” と言うらしい。おそらく、どこかのいわゆる “ 専門家 ” が言ったことを鵜呑みにしているのだろう。
それじゃぁー、と理屈屋は言う。子どもにとって生まれて初めて見る人間は母親である。これは知っている人。その後見る人は父親であれ、兄弟であれ、みんな知らない人である。話をしてはいけない人になる。
まぁこれは冗談であるが、笑ってすまされないこともある。つまり、子どもが口を聞けなくなる。
ある時、事務室のインターフォンが鳴った。出てみると小学1、2年生くらいの男の子が3人立っている。ひとりが白い紙切れを乗せた盆を持っている。
「おー、なんだい?」と尋ねた。なんにも言わない。「何しに来たんだ?」と聞いてもだんまり。業を煮やして、「何しにきたのか言わんとわからんぞ!」と半ば𠮟りつけて奥に引っ込んだ。後ろの少し離れた所に親らしい男がふたり立っていたが、こちらも終始口を聞かなかった。
“ 知らない人と・・・” は子どもが誘拐でもされたら大変という心配のあまり口にする台詞だと思うが、安寿と厨子王の時代でもあるまい。 学童期のしつけや過ごし方はそれによって人生が決まると言っていいほど大事な時期と言われる。
湯水と一緒に赤子を流す愚を犯すなと言いたいところだ。ただそうは言っても、どうしつけるかは親が決めること、こちらにとっては所詮他人ごとである。